日本では数少ない海洋冒険家のひとり、八幡暁さんが語る「怖さの具体化」
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL3月号掲載の連載第8回目は、オーストラリアから日本までシーカヤックで島をつないで渡る『グレートシーマンプロジェクト』を継続中の八幡暁さんです。
「僕がやっていることなんか誰でもできる」――海の危険性を克服し、海を“道“にしてきた八幡さんの哲学に関野さんが迫ります。その対談の一部をご紹介します。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
八幡暁/やはた・さとる
1974年東京都生まれ。大学時代より海に目覚め、各地の漁師の仕事を学びながら国内外を巡る。旅の途中でシーカヤックと出会い、2002年から『グレートシーマンプロジェクト』をスタート。カヤックによるバシー海峡横断など世界初となる航海記録を複数持つ。
昔から人類は海を渡ってきた
関野 相当危険な挑戦をしているにもかかわらず、八幡さんは、「僕がやっていることなんか誰でもできる」といいます。
八幡 昔から人類は海を渡っているので、渡れるという答えはすでに出ています。それなのに、三浦半島から八重山諸島までですら、18年前に僕が単独で漕ぎ抜いてから他に現れていません。これはなぜでしょうか。僕は、海を渡ることを特別視する人が多いように感じます。でも、どうやったら渡れるかは、特別なことではないんです。必要なのは、怖さの具体化です。
何がわかっていないから怖いのか――自分の性能なのか、船なのか、気象なのか、波なのか、海流なのか…。怖さを細分化してひとつひとつ消していくという作業をすれば、海は怖いものではなくなり道になります。
とくに最初にやるべきは、自分が使う船の性能を徹底的に知ることです。その船の性能を理解し、自分の肉体でどれぐらいのパフォーマンスが出せるかを、1mの風、5mの風、10mの風、あるいは1mの波、2mの波、3mの波…さまざまなパターンで練習して知っておく。あとは逆算して段取りをすれば、たいていの海は渡れます。
それでも渡れないシチュエーションもありますので、撤退の段取りもしておきます。危険なシチュエーションには段階があり、最後の段階になると死んでしまうので、その2段階ぐらい手前の状況になったら撤退します。こうした準備をしておけば、遭難のリスクは非常に小さいと思います。
関野 『グレートシーマンプロジェクト』は継続中ですが、ここまでで何を得ましたか?
八幡 自然の中では個体としての性能が発揮されるという実感です。
関野 身体性を取り戻したのですね。
この続きは、発売中のBE-PAL3月号に掲載!
公式YouTubeで対談の一部を配信中!
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。