奥利根の山文化を受け継ぐ最後の世代だが、キノコ鎌を使う伝統はこの地にない。自身の経験から、杖代わりになる小さな鎌があると便利だと感じて誂えたそうだ。
実際、この日は八面六臂の大活躍だった。柄が90㎝あるので、ヤナギの幹の高い位置に生えていたヤナギマツタケにも届く。倒木に群生していたナラタケを一列に掻き落とすような芸当もできる。
驚いたのは、風化花崗岩の急斜面に出たときだ。ためらう我々をしり目に、モリさんは鎌の柄を押し付け、スキーでも楽しむように滑り降りた。「こういうこともあるんで、柄には堅くて丈夫なカシの棒を自分ですげたんだよ」
この鎌さえあれば、老人になっても山遊びが楽しめると、奥利根の番長は笑った。
奥利根の番長が愛用する「剣鉈」どの遊びにも欠かせないマスト・ツールが、腰に提げる「剣鉈」だ。
キノコ採りでは、ナメコの軸を木から切り離すときによく使う。「手でむしると、汚れが張りついてしまって、持って帰ってからが大変なんだ」。焚き火、野営にも活躍。釣りや狩猟でも利用頻度が高い。
◎構成/鹿熊 勤 撮影/大槗 弘