ああ、やはり素晴らしい……!
以前にも何度か訪れたことがあって、どんな場所か知っているはずなのに、それでも毎回驚いてしまう。ここを訪れるたびに、規模こそだいぶ違うものの、インドのアジャンター遺跡の石窟群を思い出す。崖に彫られたいくつもの大きな穴がよく似ているのだ。
「まんだら堂やぐら群」には、2メートル四方の横穴が150以上集まっている。穴の内部に並ぶのは「五輪塔」と呼ばれる、火葬された骨が納められた仏塔の一種。そこで、この辺りはかつての墓地だったと考えられている。実際に使われていたのは、13世紀後半から16世紀頃までのようだ。
さて、まんだら堂といえば、子どもの頃は歴史的遺産というより、あじさいの名所として有名だった。かつてここには「妙行寺」というお寺があり、仙人のようなご住職が丹精込めてあじさいを育てていたと記憶している。
(ただし、今回記事にするに当たって調べたところ、実際には宗教施設としての寺院があったのではないことがわかった)
その後、ご住職がこの世を去り、しばらくは息子さんが引き継いで手入れをしていたものの、いよいよ管理がままならなくなって手放したそうだ。そして平成12年度になると、逗子市が本格的な発掘調査のためにこの一帯を閉鎖。現在は調査も整備も進み、初夏(4月下旬~6月始め)、秋(10月下旬~12月中旬)、春(3月上旬~中旬)に限り公開され、ふたたび入ることができるようになった。
敷地内には五輪塔を間近で見られるように置いてあった。やぐらに近づくことはできないので、これはありがたい。上から「空」「風」「火」「水」「地」を表していて、この五代要素は古代インドにおいて宇宙を構成するもの、とされている。
宇宙に思いをはせる間もなく、「なんかお団子みたいだね」と、息子が感想をポツリ。うん、まあ、お団子っぽいかもね……。
入口脇の階段を登ると、「まんだら堂やぐら群」が一望できる展望台がある。ここからだと、2段目、3段目のやぐら内部がどうなっているかよく見える。
こんなに時間をかけてゆっくり見学したのは初めてだ。満足したのでそろそろ戻ることにしよう。と、その前にちょっと寄り道を。前回の記事に登場した「浄明寺緑地」方面へ歩いていくと、これまた面白いものに出会えるのだ。
クライミングウォールのようなこちらは、「お猿畠の大切岸(おさるばたけのおおきりぎし)」と呼ばれる、全長800メートル、高さ3~10メートルの切り立った崖だ。かつては鎌倉時代に敵の侵入を防ぐために作られたと考えられていたが、近年の調査結果によると、四角い板状の石材を供給する石切り場の跡だと判明したそうだ。
お猿畠の大切岸のそばには、逗子市街ビューのパノラマ台もあった。実は、近所に住んでいながらこの眺めは初体験。よーく探せば、まだまだ知らない場所に出会えるんだなあ。
「まんだら堂やぐら群」の秋の公開期間は12月12日(月)まで。土・日・月・祝日のみで、午前10時~午後4時のあいだに見学できる。
私たちの訪問時、敷地内にある大きなイチョウの木は青々としていたが、これから徐々に色づいてくるはず。紅葉もいっしょに楽しめるまたとないチャンスなので、ぜひ訪れてみて欲しい。
※「まんだら堂やぐら群」の平成28年度の限定公開については、こちらをご参照ください。
◎取材協力/
逗子市役所市民協働部経済観光課
http://www.city.zushi.kanagawa.jp/
◎文=旅音(たびおと)
カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
http://tabioto.com