稲刈りが終わった田んぼ。この日は前夜の大雨のおかげで粘りけがある泥が一面にあり、マッドでグッドなコンディションだった。
幼稚園の年中さんと田んぼの周りで遊んでいると、恒例行事のような事件が起きた。まだまだ体感的に自然を読めない子供が、次々と足を田んぼの泥に飲み込まれはじめたのだ。
まずは「マッドレベル1」で、靴がどろどろになった段階だ。そっとバランスをとりながら安全地帯へ脱出すればそのまま遊びに復帰できる。
「マッドレベル2」となると、無理矢理脱出したために、地中奥深くに靴を残してしまう状況になる。こうなると簡単に靴は見つからない。ちなみに靴が目視できる程度の軽傷は「マッドレベル2マイナス」としておこう。
「マッドレベル3」からが生きる力が試され始めるステージになる。まずは“マッドレベル2”から力ずくで脱出するも、勢い余ってその素足がまた泥のさらに深いところへ。その後バランスを崩して倒れ、両手両足を泥の中に突っ込んでしまうのだ。手も足も出ないというのはこのことを言うのだろう。
当事者はもう身動きがとれないので出来ることは声を出す(泣く)ことくらいしかない。四肢の動きを奪われるというまったく初めての経験は、かなりの恐怖だろう。そこで近くにいたお友達による救出策戦が始まる。
救出しようとした女の子は、四肢が泥に埋まった男の子の身体をつかんで引き抜こうとするも、力を入れれば入れるほど女の子の足は泥に埋まっていく…。
まさに八方ふさがりの状態で、新たな女の子が参戦した。まずは男の子の手を引き抜くことを思いつき、作業に取りかかる。やっとの思いで手が自由になった男の子は、究極の恐怖から脱出し安堵の顔を浮かべた。女の子も安心したのか、男の子の救出を中断して泥に埋まった靴を引き抜いて渡してあげた。
まだ身動きがとれない状態で靴を手渡された男の子は、「そうじゃない!」とばかりに大泣きを始めた。困り果てた女の子は、とうとうお手上げ。
そんな状況下で、今度はもうひと人の男の子の靴が泥に埋まる…という自然の力が次々と人に襲いかかる負のスパイラルが続く一日となった。
大人からすればなんとも微笑ましい光景に見えるが、双方の子供からすれば命がけの攻防戦。この自然界における危機的状況下での体験は、きっとこの子達の糧になるだろう。ふたりとも、よく頑張った! そしてよく考えた!
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◎文=長谷部雅一
アウトドアプロデューサー。
アウトドアイベントの企画・運営を手がける「Be-Nature School」スタッフ。人と自然をつなぐインタープリターとしても活躍中。
著作に『ネイチャーエデュケーション』1300円+税 みくに出版