世界で最も優れた仕上げ砥石を産出してきた地域は日本の京都周辺だ。京都の石と同じクオリティーで仕上げ研ぎができる石は、他地域からいまだ産出していないそうだ。
「2億5千万年前の深海に沈澱した塵のような鉱物粒子と、放散虫の化石からなる頁岩(けつがん)で、地殻変動の圧力によって適度に粒子がはがれやすくなったものが、京都の仕上げ砥だそうです」
京都の仕上げ砥は合砥(あわせど)と呼ばれる。採掘地の違いで本山、中山、大平、愛宕、奥殿、大突などの呼び名がある。さらに、地層の位置や色模様によりサブネームもつく。
「僕は分類的なことには興味がない。あくまで自分の打刃物との相性で見ます。廃業した床屋さんでもらった砥石が、鳥肌が立つ研ぎ味だったときなどはガッツポーズです」
天然砥石の収集は、刃物一本で飯を食っていた昔の職人を鎮魂する、巡礼旅でもある。
◎構成/鹿熊 勤 撮影/大槗 弘