ヘアドネーションという言葉、有名芸能人がSNSなどで発信したこともあり認知度もぐっと上がっています。ただ、誤解や間違った方法で毛髪を送ってしまう場合もあるようです。そこで、ヘアドネーションはどのような流れで行うのか、気をつける点はどこなのか、実際に体験してみました。
ヘアドネーションとは
そもそもヘアドネーションとは、アメリカで始まった慈善活動です。切った髪でウィッグを作り、メディカルウィッグを提供するというもの。このメディカルウィッグを利用できるのは、小児がんや事故などが原因で頭髪に悩みを抱える18歳以下の子どもで、無料で提供されています。日本では、2009年に「NPO法人Japan Hair Donation & Charity(JHD&C/ジャーダック)」が始め、現在は複数の法人で行われています。
ヘアドネーションの流れ
ヘアドネーションの流れは、シンプルな3ステップです。
- 寄付する長さを決め、髪を伸ばす。(31cm以上)
- 寄付した後のヘアスタイルをあらかじめ決めてヘアサロンへ。
- カットした毛髪を、ヘアドネーションを行なっているNPO法人に送る。
とてもシンプルですね。では、気をつけるポイントとともに体験を通して詳しくご紹介します。
ヘアドネーションをする長さを決め、髪を伸ばす
ヘアドネーションする髪は、31cm以上から可能なため、カットする部分が31cmの長さまで伸ばします。今回、筆者は日本で最初にスタートした「JHD&C/ジャーダック」」に毛髪を送ることにしたので、その方針に従って準備しました。実は2021年のG.W.くらいに31cmに到達したのでカットしようと思ったのですが、コロナ禍で受付を休止していたのです。その間ヘアドネーションについて他も調べているうちに、31cmから受け付けてはいるものの実際に求められているのは、もっと長い髪ということがわかりました。31cmだとショートウィッグ、40cm以上でボブウィッグ、50cmでようやくロングのウィッグになります。
「ウィッグを希望するお子さまは、ロングヘアを好まれる傾向があります。31cmというのは、医療用ウィッグを製作できる最低限の長さであり、ドネーションヘアは、長ければ長いほど需要が高く、有り難いというのが正直なところです。とはいえ、それだけの長さを伸ばして寄付するというのは非常にハードルが高くなりますので、ドナーが楽しみながら無理なく伸ばしていただくことが大切だと考えております」(JHD&C 広報:今西由利子さん)
筆者は、40cmをドネーションすることに決め、ヘアサロンでドネーションすることを伝え、痛みがちな毛先だけカットしながら、伸ばし続けることにしました。
ドネーション後のヘアスタイルをイメージしてヘアサロンへ
自分がドネーションする長さまで髪が伸びたら、いよいよカットです。カット後のヘアスタイルを整えることを考え、髪質や好みを知ってくれている行きつけのサロンや、行きつけがない場合は、ヘアドネーション賛同サロンでカットするのがおすすめです。もちろん、自宅などでのセルフカットも問題ありません。筆者は、「HAIR&MAKE EARTH 恵比寿店」で、ドネーションカットをのべ100人以上も行なっているアートディレクターの宮崎浩次さんにカットしていただきました。多くのドナーを担当されているので、ドネーションするために気をつけるべきことを伺うと、
「カラー、パーマ、ブリーチ、グレイヘアでも問題なく寄付は可能です。髪のよいコンディションを保つために、おうちでしっかりトリートメントをしたり、定期的にサロンでヘアケアをされたりする方もいらっしゃいます」と、宮崎さん。
枝毛など毛先が傷んだまま伸ばしていると、枝毛の範囲が広がってしまうので、傷んだ部分はカットして伸ばす方がきれいに伸ばせるそうです。またドネーションカットは、シャンプー前に髪を切るため、カット当日は整髪料などはつけずにヘアサロンに行きましょう。朝、シャンプーするのも、髪の内部がしっかり乾いていない可能性もあるためNGです。というのも、内部に水分があることで、そこからカビが生え、せっかくの髪が台無しになってしまうことがあるからです。筆者は、前日の夜シャンプー後、いつも以上にしっかり乾かし、洗い流さないトリートメントなどもつけずに、ヘアサロンに向かいました。
40cmのドネーションを希望することと、その後のヘアスタイルのイメージを宮崎さんに伝え、いよいよカットです。
長さを測りながら、髪をいくつもの束に分けてゴムでまとめます。いよいよカットというときに、
「よかったら、最初の一束を自分でカットしますか。」と、お声がけいただき、断髪式を。
3年かけて伸ばした髪をカットするのは、感慨深かったです。伸ばすには月日がかかりますが、カットはあっという間でした。
カットした髪を見ると、意外に少ないなあと感じました。さらに、毛先もばらばら。これらの長さを調整して、ウィッグを作るとなると、ひとつのウィッグに30人から50人の毛髪が必要というのに納得でした。
このあとは、通常のヘアカットと同じです。シャンプーして、イメージしていたヘアスタイルに。久しぶりのショートに、自分自身が見慣れない感じがしましたが、ちょうど暖かくなる時期でもあるので、軽やかで清々しい気持ちに。
カットした毛髪は、持参したジップ付きのビニールに入れていただきました。ジップ付きの袋で郵送するため、直接入れてもらえるように準備しておくと、束ねた髪がどこかに引っかかる心配や、細かい髪が散らばる心配もなく、便利ですよ。
HAIR&MAKE EARTHでは、全国250店舗すべてがヘアドネーション賛同サロンです。ヘアドネーションカットはもちろん、ドネーション用に髪を伸ばすときにも相談に乗ってもらえるのもうれしいところ。ドネーションをするなら、できるだけきれいな髪をと考える人が多く、トリートメントなども自宅できちんと行なって、髪を伸ばしている人が多いそうです。
最後に、カット後のスタイリングについてもアドバイスをいただきました。ドライヤーで乾かすだけで基本的にOKという髪型にしていただきましたが、襟足部分に癖があり、はねやすいので、ドライヤーで抑える方法や、毛先にワックスをつけて、スタイリングで遊ぶ方法など、ショートヘアの楽しみ方を教えていただきました。ずっとロングヘアだと、ショートってどうだったっけと忘れてしまっているため、自分でできるスタイリングアドバイスは助かりますね。また、ヘアドネーションを目標にすることで、ヘアケアをきちんと行なおうという意識が生まれるのも、いいことだと感じました。
カットした毛髪を送る
最後は、カットした毛髪を送るだけです。以前は賛同サロンから直接送ってもらうこともできましたが、現在は個人で送ることになっています。すでにジップ付きの袋に入れてあるため、あとはレターパックに入れて送るだけです。筆者が送ったJHD&Cでは、ドナーシートも任意で同封することになっています。現在の年齢や、髪をカットしたときの年齢、カラーをしているかどうかなどで、名前などの個人情報を書く欄はありません。髪の仕分けに役立つそうで、筆者は、ヘナで染めていることもあり、記入し同封しました。
レターパックを使った理由は、簡易な包装であることと、追跡番号があるからです。この追跡番号があると、届いたかどうかの確認もできますし、デジタル受領証がダウンロードできるのです。実際に、到着してから毛髪を確認して反映されるため、受領証を受け取るには、1週間から10日ほど(繁忙期にはそれ以上のことも)かかります。
毛髪を送り、到着したことが確認できればヘアドネーションは完了ですが、受領証を受け取ると、より実感がわいてきます。ヘアドネーションをしようと思い立ってから、約3年。セミロング以上の長さに伸ばしたことがなかったので、長くなってくるとどのようにスタイリングすべきかわからず、後ろで束ねるだけで過ごす日が多くなりました。31cmを過ぎたあたりから、毎日のシャンプーだけでも大変なので、すぐにでも切りたいという思いがありましたが、40cm以上を希望する子どもたちが多いと知ってから、なにがあっても40cmはと、毛先だけはカットしながら、何とか伸ばせました。ちなみに、31cm以上の抜け毛もドネーション可能だそうです。
現在、JHD&Cだけで、ウィッグを待っている子どもは、262人。ほかの法人もあるので、それ以上の子どもたちがウィッグを待っていることになります。髪は、カットしてもまた伸びてくるものだから、伸ばす間のケアが少し大変でも、子どもたちの笑顔につながるなら、一生に一度くらいがんばってみるのもいいかもしれませんね。
宮崎浩次さん プロフィール
アートディレクター。ナチュラルスタイリングでつくれる再現性の高いスタイルを得意とする美容師歴20年以上のベテランスタイリスト。丁寧なカウンセリングを常に心がけ、口コミでも高評価。ドネーションカットは、延べ100人以上担当している。
取材協力
HAIR &MAKE EARTH 恵比寿店
https://map.hairmake-earth.com/salon/018
住所:東京都渋谷区恵比寿1-11-2 三恵51ビル 1F
電話番号:03-3445-0991
※「BE-PALを見た」と来店時に伝えると新規の方のカット料金3300円が2700円に(税込み)(恵比寿店限定)
NPO法人JHD&C
https://www.jhdac.org/
撮影:黒石あみ