かつては「移住」と言うと、仕事や住環境などのハードルが高く「夢のまた夢」というBE-PAL読者も多かったようですが、コロナ禍によって状況は激変しました。ネット環境や仕事の変化のおかげで、以前よりも移住やデュアルライフが身近なものになってきたのです。
今から20年以上前に軽井沢へ移住をするという決断は、当時は革新的でした。そして今なお暮らし続けているのが音楽家として活躍するテイ・トウワさんです。日本のラウンジ・ミュージックを牽引し、都会暮らしだったテイ・トウワさんが移住を決めた理由とは。実際に移住したからこそ語れる、移住成功の秘訣とともにお伺いしました。
約1年間はエリア研究。テイ・トウワさんが移住を決意した理由
今から22年前の2000年4月、東京から軽井沢への移住を決意したテイ・トウワさん。それまでは東京やニューヨークと最先端の街で暮らしていたにも関わらず、縁もゆかりもない土地へと引っ越しました。
テイ・トウワさん「僕が移住を決めた理由は2つ。1つは『静かな場所で音楽を作りたい』という想いが強くなったからです。1995年にニューヨークから日本に帰国後、僕が雷に打たれたように惹かれていったのが、バリ島。何度も足を運んでいるうちに虫や鳥の鳴き声、川のせせらぎなど『自然の音』を音楽に使いたいと思うようになりました。そこから、緑のある静かな場所を心が求めるようになったのです。
もう1つの理由が『子育て』。ちょうど日本へ帰国して3年が経過した頃、当時3歳の子どもを今後どのように育てるか、その環境を模索していました。軽井沢は今も新しい学校が開校し注目されていますが、教育移住としても適した環境だったのです」
移住成功のために、テイ・トウワさんが考える重要なポイントは「歩いても行けるライフライン」と「都心へのアクセス」。
テイ・トウワさん「移住先を決めるまで約1年間、家族と一緒にさまざまな土地へ週末宿泊し、エリアの研究、そして物件のリサーチを行なっていました。移住前に確認すべき点は学校、コンビニ、スーパー、温泉など、歩いても行けるライフラインがあるかどうか。そして都心へのアクセスが必要な場合の時間とコスト。当時は『高校生の時に一度行ったきりだけど、軽井沢ももう一度行ってみるか』と気軽な気持ちで訪れましたが、ちょうど1997年に長野新幹線も開通していて、あらゆる条件を満たしていたのが軽井沢だったのです」
物件を決めた後は勢いのまま引っ越し。当時はインターネットが今ほど容易に接続できる時代ではなく、22年前と比較すると、今はより移住しやすい環境になったと語ります。
テイ・トウワさん「2000年の4月に引っ越しをしたのですが、ADSLが開通していませんでした(笑)。その時は少し慌てましたが、6月には開通できましたね。当時は15秒〜30秒ほどのCMの仕事が多く、映像に比べると音楽はデータ量が少ないので家から納品が可能でした。現在は音楽業界に関わらず、さまざまな職種の人が毎日会社に行く必要はなく、打ち合わせのために毎回足を運ばなくてもよいということがすごいと思います」
コロナ禍前までは軽井沢をベースに、月に数回東京へ訪れるというライフスタイル。軽井沢にいる時は早寝早起き、東京では収録やイベントのために上京するというメリハリのある過ごし方をしていたテイ・トウワさん。すべてオンラインで済ませない、そのバランスも移住成功の秘訣なのだとか。
テイ・トウワさん「すべて合理的にはいかない非合理的な所に、一番の旨味がある、と思います。基本的にはオンラインでも、リアルで行くべき時は足を運ぶ。何にプライオリティを置くか、選択と集中が大切です」
軽井沢は「終のすみか」。仕事面にも変化をもたらした移住生活
約20年がたった今、移住して「嫌になることはありません」とはっきり語るテイ・トウワさん。仕事面でも、東京を離れたことが結果的によかったと振り返ります。
テイ・トウワさん「今の音楽業界はとてもシビアで、サイクルが短い。今週ヒットした曲が来週誰も聞いていないという状況もざらにあり、情報の移り変わりが激しいのです。
僕は22年前に移住した時に、トレンドから逆の方向に進みました。トレンドから外れることで、飽きのこない作品がいくつか残せているのではないかと思っています。還暦に近い年齢になりましたが、こうして細く長く音楽を作り続けられてることが幸せです。
軽井沢に移住したことで、僕が制作する音楽も変化がありました。移住した時は音楽ジャーナリストに『仙人みたいな曲になるんでしょうかね』なんて冗談も言われたのですが、実は逆で。東京にいる時は人為的なノイズが非常に多く、噂話も含めて聞きたくもないのに耳に入ってくる情報が多かった。そのため、東京にいる時の方が音楽に癒しを求めてましたね。移住してからはとても静かで、人為的な噂話は入ってこない。だからこそpassiveな音楽を作るようになりました」
現在は子どもが巣立って人生は新たなフェーズへと移行し、ライフスタイルが変化。
テイ・トウワさん「今の家を終のすみかだと考えていますが、体力維持が最重要任務です。小さい子を育て、体力的・経済的にも余裕のある時には老いた暮らしはまったくイメージしていなかったので、もう少し小さい家だと掃除しやすかったかな、と思う面も。ただ長引くコロナ禍でよりおうち時間が増え、今では大きめでもよかったかもと感じています」
つい車で移動しがちな地方生活。体力維持のためになるべく歩くことを意識し、夏には軽井沢の自然にふれながら体を動かしていると言います。
テイ・トウワさん「軽井沢生活の魅力の1つが温泉です。平日も休日も、時間がある時には温泉へ。頑張って歩ける距離に温泉施設があるので、体力づくりも含めて歩いて通っています。すこし遠出すれば草津や長野方面の温泉にも行けるので、軽井沢に住んで本当によかったと思いますね。
雪が積もる冬はあまりアウトドア活動はしないのですが、夏には自転車やウォーキングで自然を楽しみます。自宅は半分以上が庭で、子どもや姪が遊びに来た時は庭にテントを張ってキャンプ気分も楽しんでいますね」
コロナ禍の今、軽井沢は移住者が急増中。人気観光地ならではのデメリットもあるそうです。
テイ・トウワさん「引っ越した当時は空き地ばかりでしたが、最近は空き地が売りに出されるとすぐに買い手がつくような状況。知り合いも軽井沢や隣町の御代田に移住してきたので、皆さんにとってもデュアルライフや移住が身近になっていることを実感しています。
軽井沢はとても住みやすいものの、微妙な点がハイシーズンの混雑とオフシーズンの長期休業。GWや夏休みはどこへ行くにも渋滞や満員なので、観光地特有の混雑などをうまく避けられるエリアを探すことも移住成功のコツです」
今回お話を伺ったの場所は2022年2月17日(木)に開業した「ホテルインディゴ軽井沢」。軽井沢の別荘のような居心地のよさを提供しており、テイ・トウワさんに倣って移住前のリサーチとしてもおすすめのホテルです。テクノロジーが進化し、都心にいる必要がなくなった今だからこそ、自然に寄り添う新しいライフスタイルを手に入れるチャンスかもしれません。
【TOWA TEI / テイ・トウワ】
1990年にDeee-Liteのメンバーとして、アルバム『World Clique』で全米デビュー。2013年9月から現在に到るまで、東京・青山にある INTERSECT BY LEXUS -TOKYO の店内音楽監修。『SUPER CROOKS (SOUND TRACK FROM THE NETFLIX SERIES)』が2021年11月にリリース。2021年は10枚目の『LP』海外リリースに続き、『EP』のリリースで締め括った。
・ホテルインディゴ軽井沢
住所:長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉字屋敷添18番地39
電話番号:0267-42-1100
アクセス:「軽井沢駅」より車で約5分、「碓氷軽井沢IC」より車で約17分
HP:https://karuizawa.hotelindigo.com/