——ペットと一緒に旅をすることで味わえる、旅の醍醐味みたいなものは何でしょう?
平松:現地の人とのコミュニケーションの機会が増えることですね。普通、ヨーロッパを旅していて、向こうから話しかけられることって、そんなにないじゃないですか。でも、ノロと一緒だとよく話しかけられますし、写真を撮らせてほしいと言われることもあります。そういうきっかけで仲良くなって、今でもつながりのある人も多いんですよ。
——ノロ自身は、旅をどんな風に感じているんでしょうね。
平松:ノロはたぶん、旅も生活の一部だと感じているでしょうね。自分は今、旅に出ている、ということがわかってる。僕自身も、ノロと旅に出るというより、自分の好きな海外旅行にノロがついてきてくれているという感覚でいます。現地で撮ったノロの写真をカレンダーなどの商品にしてもらっているというありがたい事情で、旅が仕事にもなっていますが、基本的には、自分の好きな旅を、ノロを日本に置いてくることなくできている、と。
——ノロが、平松さんにつきあってくれている。
平松:つきあってくれてますね(笑)。で、ノロもまんざら嫌じゃないんだろうなというのは、彼の食欲や行動を見たらよくわかります。旅行中は、普段の倍をペロリですよ。よく食べて、よく寝る。ストレスとは無縁の感じで、むしろ活性化している。旅に出ているノロのことを大丈夫かと心配してくださる方もいるんですが、ご心配なく。僕らの中では間違いなく、ノロがいちばん元気です(笑)。
——15年前にラーメン屋さんで保護されていた子猫との出会いで、平松さん自身の旅や人生も、ずいぶん変わったんじゃないでしょうか。
平松:たしかに変わりましたね。僕にとって、旅はある意味、特別なものではなくなってきています。若いころ、ヨーロッパで車を借りて、生活するように気ままに旅をするのに憧れていたんですが、猫がかたわらにいることで、生活するように、というより生活感まるだしになりました(笑)。自分の思い描いていた旅の仕方で、ヨーロッパはほぼ行っていない国がないくらい回れましたから、幸せな経験をさせてもらっていると思います。それには、EUが移動の自由をどんどん拡大してくれたという時代の後押しにも恵まれていました。今はまたいろいろ情勢が変わってきて、中東諸国なども旅行しづらくなっていますし、もしかすると、20年後くらいには「あのころが一番自由気ままに旅ができたよね」と言われているかもしれないですね。そういう変化を、15年も旅をくりかえしていると強く感じます。
——これから先、どこか行ってみたい国や場所は?
平松:実は、僕自身には「ここに行きたい!」という願望が、あまりないんですよ。どこでも楽しいんです。僕は、生活するような旅をいろんなところでやりたいだけなので……。仕事上、ノロの写真を撮るためにフォトジェニックな場所に行くことを考えたりはしますが、それは副次的なものですから。特に「ここに行きたい」という意識はないまま、旅をしています。
——最後に、「自分もペットと一緒にヨーロッパを旅してみようかな」と考えている方に向けて、何かメッセージがあれば教えてください。
平松:家にいる犬や猫のことを心配せずに旅ができるというのは、本当に楽しいことなんです。旅の移動や環境の変化がダメな子はダメですけど、適性をきちんと見極めてさえいれば、チャレンジする価値のあることなので、一緒に旅に行く準備や工夫をしてみてもいいと思います。その過程で得られるものはきっと大きいです。まったく違う旅ができると思います。
——平松さんが、これからもノロと一緒に幸せな旅を続けられることを祈っています。どうもありがとうございました。
◎平松謙三 Kenzo Hiramatsu
1969年岡山県生まれ。2002年から現在まで、黒猫のノロと37カ国を旅し、世界の美しい風景とノロを写真に収め、書籍やカレンダーなどを通じて発表している。ふだんは八ヶ岳南麓の山小屋に暮らし、フリーでグラフィックデザイン、Webディレクションなどの活動をしている。趣味は自転車と薪作り。デイリー宝島社オンラインtreasures(トレジャーズ)にて「世界を旅するネコ 番外編なノダ!」隔週日曜連載中。
『世界を旅するネコ クロネコノロの飛行機便、37ヵ国へ』
宝島社 1300円+税
著者サイト/Amazon
◎聞き手=山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)ほか多数。
http://ymtk.jp/ladakh/