2020年3月から始まった100%オーガニックの鎌倉野菜を育てる『雨のちハレ、ときどき農業生活』では、気まぐれに野菜以外の花を植えることがあります。女性陣主導ではありますが、昨年はマリーゴールドが満開になっていました。今年は「チューリップ」だそうです。
チューリップといえばオランダ!?
チューリップはユリ科チューリップ属の球根植物。和名は鬱金香(うっこんこう)と呼び、中近東ではラーレと呼ばれるそうです。数えられないほどの品種が誕生し、現在の品種リストは5000を超えるとか。
オランダでしょ?と条件反射に答えてしまう僕に被せるように女性陣が教えてくれました。「東アジアから中央アジア、北アフリカにかけてが原産なんだって!」と。イランからパミール高原、ヒンドゥークシュ山脈、カザフスタンのステップ地帯やキルギスあたりが原産地のようで、ヨーロッパでは16世紀中頃から栽培が始まり、日本にやってきたのは19世紀後半のようです。
チューリップ・バブルが見せた人間の愚かさ
「嘘でしょ?」
きっとそう言われるに違いないのですが、本当の話です。チューリップが熱狂的な投資の対象となり、金融バブルを引き起こした歴史がありました。舞台は17世紀のオランダです。
ヨーロッパに渡ってきた当時から、オランダはチューリップ栽培の中心地で、オランダで栽培された球根がヨーロッパ全土に渡る物流の流れが出来ます。と同時に、チューリップ収集家や愛好家が現れ、さらなる品種改良が進んだことで、希少で高価なチューリップの球根が生み出され、小さな家が買えるほどの値段がつくようなことが起きていきます。
普通のチューリップは翌年、なんの前触れもなく、珍しい模様の花を咲かせることがあります。その原因は、アブラムシが運ぶウイルスにある事が現代ではわかっているのですが、当時はそれを『ブレイク』と呼び、その球根も高値で取引されるようになります。
そもそも、一般庶民も気軽に買えるほどの球根のはずが、高値を付ける球根に化けるかも!そんな人間の欲望が乗っかってしまったことで誰もがチューリップの売買が出来る市場が形成され、球根を求めて市場が加熱していきます。
でもです。チューリップの球根は、ベルトコンベアに乗って24時間体制で増産されていくわけではなく、育つまで時間が必要です。するとどうなるか、来年分を先に買う、今で言う先物取引のような状態に発展し、土地や家を担保に買い漁る人まで現れたと言います。
バブルは弾ける運命にありますから、そして、大暴落。土地や家を担保に市場参入した人たちの手元には、価値をほぼ無くした球根だけが残り、オランダは大パニックになったとか。
チャールズ・マッケイの名著「狂気とバブル」によると、狂った投機熱、集団妄想、大衆の狂気、群衆心理の怖さと愚かさ、人々の愚行がユーモアを交えて描かれていて、時代を超えて、現代でも読み応え十分です。
コロナ禍で金融緩和に浸った今の時代も、きっとこの先の未来も、人間の欲望は尽きることなくバブルと崩壊を繰り返すのでしょう。そもそもチューリップは花ですから、大切に育てて、家を飾り、人の心を癒す存在であってほしいものです。
来年用のチューリップの球根、欲しい方いますか? 『ブレイク』したら、お知らせしますね。