本来、「五ろり」でのごはんはスタッフとゲストが一緒に作るのが基本。到着した時間も遅く、むちゃくちゃお腹が空いている上に、私の手持ち食材は、くるま麩の端っこのみ。バスに乗る前に新潟市内で買って来たのだが、調理に時間がかかりそうな代物。コレは、朝ごはんにまわし、晩ごはんは斉藤さんのありがたいお申し出に甘えるコトに。鍋でどどんっと机に並ぶのかと思いきや、一品一品丁寧に小皿に盛る斉藤さん。なんと、細やかな!
長野や姫路のゲストハウスにもよく行くという斉藤さん。その流れで自然と、生まれ育った五泉市で古民家を借りゲストハウスを始めようと思ったのだそう。
と、斉藤さんのコトで覚えているのはたったコレだけ。なぜなら、酒が入ってほわほわとなった私は、ペラペラと自分ばかり話していたような気がするのだ(記憶があやふや・・・)。
それもこれも、お酒を呑まない斉藤さんが、どっしりと、でも穏やかに、そして丁寧に酔っ払いの話を聴いてくださるから。私は、悶々としていたコトを一気に話し切ったのか、なんだか身も心もふわふわ軽くなって床に就いたのだった。足元には、「五ろり」の冬の楽しみであるポカポカの「豆炭アンカ」を忍ばせながら。
さて、翌朝。朝ごはん中、斉藤さんがポソッとつぶやいた。「うちに来た人には、せっかくだから、五泉周辺も色々見てほしいって思うんですよね~。石油の温泉があったり、今の時期だと鮭も上って来てるし・・・」石油の温泉?? 鮭!? 聞き捨てならない言葉に私の箸が止まる。「石油の温泉は、男性に教えると喜んでくれるんですよ。ちょっとベタッとしていて、1日中オイルの香りに包まれるんですけどね(笑)」なんだ、それ!? 気になる!が、この後、長距離の電車移動予定の私。石油の香りを車内に充満させるのは、さすがに気が引ける。そして、もうひとつの「鮭の遡上」! コレは一度見てみたいと思っていたモノ。ただ、移動手段が徒歩と公共交通機関のみの私には、鮭が遡上する川まで行く手段がまったくない。そんな私の前で、またもや斉藤さんから神の一声が! 「今日は、暇なんで乗せて行きますよ」と。
車で走るコト約10分。着いたのは能代川。山の中を想像していたのだが、意外にも近くに民家もある場所だった。川の水位もそんなに高くない。
どんっ!!
川を横断するように仕掛けられた網から音がする。よくよく覗いて見ると、下流からマッハのごとく、ものすごいスピードで上って来た鮭が網にぶつかる音だった! それが、何匹も続けてやってくる。
どんっ!! どんっ!! どんっ!!!
水中で脳震盪でも起こしているんじゃないかという激しさ。鮭にとっては命がけの里帰りなのだなぁと、しみじみ。網の先には、イクラを取り出したばかりと思われる鮭が、どっさりと積まれている。