急に冷え込んだ曇りの日に、強風が重なったことにより、私は寒さに凍えながら釣りをしていた。沼野さんの言うとおり、移動するためにカヤックを漕ぐと多少は体が温まるが、釣りをしているときは基本漕がないので、北風に体温を奪われる。相変わらず魚から何の反応もないため、余計冷えるように感じる。
沼野さんによれば、今年は異常だという。本来だったら、秋にはイナダの群れがやってきて、文字通り「嫌というほど釣れる」のに、今年はほとんどイナダが釣れていないというのだ。そればかりか、この時期とっくに沖に姿を消しているはずのカマスなんかが、まだ釣れているらしい。実はこの連載をはじめてから、私もまだ一度も「ナブラ」を見ていない。
イナダなどに追われた小魚が水面で跳ねる「ナブラ」を見つけてルアーを投げ込む、いわゆる「ナブラ打ち」を楽しみにしていたのに。ナブラどころか、魚探に映る魚の群れも少ない。ちょっとした反応があると、急いでルアーを落とすが、常に風でカヤックそのものが流されているため、狙ったところへ落ちていかない。群れが大きいと多少ずれてもいいはずなのだが、小さい群れをピンポイントで狙うのはかなり難しい。
せっかく長者ヶ崎まで来たのに、何の収穫もない。ひらすら寒いだけ。時刻は昼をすぎた。もう限界だ。心が折れた。帰ろう。沼野さんにそう告げて、逗子を目指す。しかし、この北風の中を、また6キロ漕いで逗子まで帰らないといけないのか、と思うと泣きたくなる。とにかく寒さに耐えながらひたすら漕いで逗子を目指す。