冬のシティーマラソンが始まる頃、里山でも気持ちよく走れる季節が始まる。4月から遊びの中から少しずつ身体を作ってきた彼らは、疾風怒濤の早さで里山を走り回れるようになる。はっきり言って、先頭チームの無尽蔵な体力には僕はもうついて行けないくらいだ。
里山を走れるっていうのは、ただ単に体力があるということではない。ロードとは違う、自然の中ならではの様々な難関が待ち構えているのだ。
地面はぬかるんでいたり、木の根の罠、急な上り下り、カーブ、トゲトゲの葉っぱ、そして子どもを迷わせる分かれ道、心惹かれる自然からの面白いお誘い…など、たくさんの難関が待ち構えている。時には大回転をしながら転び、そして時にはお友達とぶつかって転倒をする。それでも自分だけで、そしてお友達の力を借りて復活しないと進むことが出来ない。
何度も転び、抜かれた時の悔しさを涙や癇癪ではなく心の中に飲み込み、ボディーバランスや危険感知能力、様々なことが身につくからこそ楽しめるのが幼児におけるトレイルランニングというわけだ。
この日の子ども達は、登りは鬼ごっこをしながら駆け上がった。
「あ〜つかまるぞ!あっちへ逃げろ!」
「おい!ここで近道だ!草のトンネルところを抜けるぞ!」
森の中には息を切らせる声よりも、子ども達の叫び声が響き渡る。
すごいのは下り坂だ。大人なら慎重に駆け下りる道を、彼らは「ジェットコースター」と呼び、細かいブレーキングテクニック使いながら森の中を駆け下りる。つまずいた子どもは当然吹っ飛ぶ。最近は上手に転べるようになったのでそのこと自体は心配ではないのだが、実際はものすごく痛いはずだ。
転び方によっては、あまりにも痛いのでぶつけた場所を両手で押さえてうずくまってしまう。そうなるとその子の気力レベルがシャットダウンされる。ただ、ほっておくと彼らの気力レベルは再起動され、頭と心と身体のOSがすべて立ち上がると、何事もなかったかのようにまた下り坂を疾走し始める。
彼らは森に住む生き物の如く森の中を自由に駆けまわる。もうその辺の大人よりもずっと強いかもしれない。幼児ならではのはちゃめちゃさとたくましさを兼ね備えつつある彼ら。自然の中では遊びが心と身体をつくってくれるのだ。
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長谷部雅一
アウトドアプロデューサー。
アウトドアイベントの企画・運営を手がける「Be-Nature School」スタッフ。人と自然をつなぐインタープリターとしても活躍中。
著作に『ネイチャーエデュケーション』1300円+税 みくに出版