北海道一周ひとり旅
なかなか暖房を手放せない北日本もようやく緑に包まれ、キャンピングカー旅には最適の季節がやってきました。もう少しすると、今度は逆に暑すぎて車中泊が難しくなります。
松尾芭蕉は「道祖神の招きにあひて取るもの手につかず」(道祖神が旅に招いているような気がして取るものも手につかず)と書き残しましたが、旅人を突き動かす衝動はきっと今も昔も同じ。
私も梅雨入り前の好晴にいてもたってもいられず、10日間ほどかけて北海道一周の旅に出かけました。
女性ひとり、運転苦手、キャンピングカーに乗っているのにキャンプもアウトドアもご勘弁な私の珍道中を、数回にわたってお届けします。
自由気ままなバンライフ、といえば聞こえはいいですが、実際はWi-Fiを探してさまよったりヒグマの恐怖におびえたりコンビニご飯だったり、「キラキラしていない日常」もいっぱい。ひとり旅のリアルをありのままお伝えしたいと思います。
フェリー乗船
北海道の南の玄関口となる函館市。青函フェリーで青森港から函館港を目指します。
「苫小牧(とまこまい)行きの長距離フェリーのほうが便利では」「青函フェリーと津軽海峡フェリーはどう違うのか」などの疑問はいったん置いておいて、船内の様子を見てみましょう。
青函フェリーでは、予約の有無にかかわらず乗船30分前までにフェリーターミナルに到着する必要があります。乗船申込書に記入して、乗船券と引き換えます。
あとは車の待機列へ。私は十万トンを超える大型客船でも酔うくらい船に弱いので酔い止め薬は必須です。
北海道へは学校行事や家族旅行で何度も訪れていますが、ひとり旅は初めて。なんだか、いつも以上にドキドキします。
ひとつには「船に乗る」という非日常感。そしてもうひとつは陸続きの本州と異なり、公共交通機関に依存しなければ帰ってこられないという緊張感。天候やダイヤもありますから、これまで以上に怪我や健康管理に気を引き締めて行動しなければ。
出港およそ15分前から、係員の指示に従って車列が進みます。フェリーのすごいところは、船体後部から入庫しても、クルマの向きを変えずに船体前部から出庫できるところ!
バックや方向転換を求められることもなく、指示された位置に前進すればよいだけなので、運転が苦手な人や運転免許を取得したばかりの人でも大丈夫。なにせ私が大丈夫なくらいですから、誰でも大丈夫なはずです。
係員が車輪止めをつけてくれるので、荷物をまとめて船内へ。航行中、クルマに戻ってくることはできないので大事なものは船内に持ち込む必要があります。
「ミラーはたたむ?」「乗船券は持っていくの?」とドギマギしている私を尻目に、甲板員の恐ろしくスムーズな流れ作業ときたら、もはや職人技です。ベルトコンベアに乗っているかのように、あっというまに船内にたどり着きました。
「はやぶさ」船内
2014年就航、2949トンの「はやぶさ」は、青函フェリーのフリート(船団)の中ではもっとも新しく大きな船です。入ってすぐのスペースには吹き抜けの階段があって、まるで小さな豪華客船のよう。
客室は、いくつかの個室やドライバー室があるほかは、カーペット席が中心。ここだけは昔ながらのフェリーという感じがしますね。学校行事で乗ったことを思い出します。
と思いきや、なんとレディースルームがありました。これはありがたい!男女入り混じっての雑魚寝に抵抗がある人も、ここなら大丈夫です。
カーテンを閉めて着替えができるスペースもありました。船内ではリラックスウエアで過ごし、到着前に着替えるのもいいですね。まぁ、私は24時間つねにリラックスウエアなのですが。
ひとりで行動していると、「おしゃれ」という概念をどこかに置いてきてしまいます。
さらに、ゆったり座れるロングシートのバリアフリー席があるほか、
背もたれの高い椅子席がありました。4時間の航路では、起きて過ごしたい人も多いでしょうからありがたいです。
それ以外にも各所にちょっとした着席スペースがあり、コンパクトな船内ながら工夫がこらされている印象。ピークシーズンではないこの時期は乗船客もまばら。どこで過ごそうか迷ってしまうほど。
長距離フェリーのような大浴場はありませんが、男女別のシャワールームもありました。
おまけにWi-Fi設備があるようです!15年ほど前に乗船したときは、携帯電話も洋上では簡単に圏外になり、船舶電話で必死に会話した記憶があります。隔世の感が!
フェリー飯といえばアレ!
ひととおり船内見学をしたので、お昼ご飯にしましょう。レストランや売店はありませんが、自動販売機コーナーがありました。フェリー飯といえばアレしかない……
日清カップヌードル!
給湯器があり、いつでも自由に熱湯を使えました。ポットのようなお湯切れもなく便利。
これはもう……悪魔的うまさです!いつも食べているはずのカップヌードルが、なぜこんなに美味しいのか。
思わず自動販売機コーナーにとって返し、デザートまで追加してしまいました。
実はこれ、青春の思い出を再び……と狙ったわけではなく、到着が乗船時間ぎりぎりになったことや、フェリーターミナルに売店や飲食店がないことなど複数の要因が重なって、本当に食べるものがなかったのでした。
でも、旅の記憶に残るのは「ごちそう」とは限らない。こんなひとときが印象深いです。本当に美味しかった。
食後のせいか酔い止め薬のせいか、猛烈な眠気が襲ってきました。ありがたくレディースルームを使わせていただき、函館到着まで眠り込んでしまいました。船内は寒いこともあるので、羽織り物を持ち込むのがおすすめです。
ちなみに、同じ船会社でも船によって新旧や設備がまったく異なります。帰路に乗船した「あさかぜ21」には、レディースルームもリクライニング席もありませんでした。
通常、便を選ぶときは出発・到着時刻を考慮すると思いますが、船によって期待していた設備がまったくなく「がっかり」ということもあり得ます。
「船酔いしない大きな船がよい」「設備の整った船がよい」といった希望がある場合は、運行表の船名もチェックするのがおすすめです。
フェリーにまつわる疑問あれこれ
ところで、北海道にクルマで渡るには、青森県まで自走して函館行きフェリーに乗るか、本州各地から出ている苫小牧・小樽行き長距離フェリーに乗るかに大きく二分されるでしょう。それぞれどんなメリット、デメリットがあるでしょうか。
どこからフェリーに乗るか
青森発フェリーのメリットは、「日常の足」として毎日運航しているため便数も多く、予約にしばられずに気軽に乗れること。
船酔いしやすい人には、乗船時間の短さもメリットになりますね。青森港からおよそ4時間、大間港からならわずか90分間で到着します。旅の途中でお会いした方は、愛犬のため大間発にしたと言っていました。
ただし青森県から遠い場所に住んでいる場合は非現実的かもしれません。本州を走るあいだの高速道路料金や、運転疲れも気になるところ。さらに北海道観光の出発点が函館市になるので、札幌や旭川など道央エリアからは少々遠いです。
一方、長距離フェリーのメリットは、船内レストランやエンターテインメントなど道中の船旅を楽しめること。行き帰りが思い出になりますし、苫小牧も小樽も札幌から近く、道央観光にはぴったりです。
眠っているうちに移動できることも魅力とされますが、私は「黙って乗っているよりだったら自分で走りたい」というほうなので、時短や体力温存のメリットはあまり感じません。
運航日が限られていたり、予約が取りにくかったりするのも難点です。また、私は船酔いしやすいので、過去に海が荒れた日にはベッドで横になっているしかなく、つらいものがありました。
以上のことから、今回は往復とも青森↔函館の青函フェリーに決めました。
「青函フェリー」と「津軽海峡フェリー」の違い
同じ青森↔函館間を運航する「青函フェリー」と「津軽海峡フェリー」はどちらがおすすめか、というのもよく話題になるところ。
これは「価格の青函フェリー、設備の津軽海峡フェリー」というのが通説のようです。私の調べた期間でも、往復ともに青函フェリーの方が数千円(車両搭載の場合)安いぶん、船内設備は必要最小限にしぼられています。船の大きさを示す総トン数も小さめです。
一方の津軽海峡フェリーは個室も多く、リクライニングシートや船内売店などの設備が充実していますが、少し価格が高めです。
私だったら、家族と一緒のときは津軽海峡フェリー、今回のようにひとり旅なら青函フェリーを選ぶかなぁと思います。
頭を悩ますガス問題
公共交通機関を使うキャンパーを悩ませる、カセットボンベ(ガスカートリッジ)問題。航空機、船舶、宅配便などの利用時には、多くの場合カセットボンベを預け入れできません。
現地のアウトドアショップで購入したり、Amazonなど旅先で受け取りできるECサイトを使う方法はありますが、ガスを使い切れない場合は帰路にまた同じ問題に突き当たります。
今回の青函フェリーでも、未使用か使用中かにかかわらず、また車内残置か手荷物かにかかわらず、持ち込みは不可とのことでした。私のクルマは違いますが、LPガス搭載のキャンピングカーも不可だそう。
しかし乗船時に「カセットボンベを携行しているか」「LPガス搭載モデルか」などを問われることはなく、実態と乖離(かいり)している面もあるかもしれません。
どちらにしても今回はジェットボイル(バーナー)も卓上ガスコンロもお留守番です。このことが、後々の食事事情に響いてくるのですが……ともかく北海道に上陸しました!