未だ見ぬ冒険の地にいざ!トリップキャンプ
食べて飲んで寝るだけがキャンプの醍醐味ではありません。たとえば、バックパックにテントを入れて南の島にトリップなんていかがでしょう。
そこで今回は、南西諸島が大好きなアウトドアライターが、友人家族を誘っての奄美大島でのトリップキャンプの模様をリポート。
今年の夏はキャンプの”一歩先”にチャレンジしてみませんか?
私たちが行ってきました!
「アマミノクロウサギどころかハブだって見たことないな〜」
その旅は、友人・恒太のそんな言葉から始まった。恒太は奄美大島に惹かれて移住したものの、暮らしてみると生活のなかで触れる自然で満足でき、野外には出ていないという。
「え! 釣りはするでしょ?」
「しない。魚は漁師がくれる」
「カヤックは?」
「島に来てから乗ってないな」
「キャンプは?」
「家で十分」
なんということか。かつてシーカヤックに入れ込んだ男が、緑あふれる島ですっかりインドア派になっていた。
奄美大島は国内でも特に生物多様性が高い島だ。森には世界でも奄美群島にしかいない特産種がすまい、海中には大物が泳ぐ。そんな島に住みながらちっとも遊んでいないだなんて!
「OK。それなら2泊で遊びに行くから、子供たちと一緒に出かけよう。たぶん、ウサギもハブも見られるよ」
こうして、島民に島を紹介するあべこべな旅が始まった。
島で合流し、最初に向かったのは中部にある住用川。この川の河口にはマングローブの林が広がり、安価なレンタルカヤックで水上散歩を楽しめる。
「カヤックはねぇ……」
「やったことあるんだよね!」
とは凪さんと詩央さん。遠足で何度も訪れたというふたりは、上手にパドルで水をつかんでいる。恒太も久しぶりの水の感触を楽しんでいるようだ。
海と河口の自然を見たら、その足で上流部へ向かう。目指すのは「フォレストポリスキャンプ場」だ。このキャンプ場は奄美大島の最高峰・湯湾岳の山麓にあり、周囲数㎞には集落も民家もない。条例で周囲での生き物の採集が禁じられており、そのおかげか場内にいるだけで生き物が向こうからやってくる。
キャンプ場へ向かう途中、道路上に落ちていたのはアマミノクロウサギの糞。見つけた子供たちは「ヤギの糞よりもでっかい!」と大興奮。果たして今夜は、アマミノクロウサギに出会えるだろうか……?
DAY 1
12:00
マングローブ林 カヤックツアー
海に広がる森をカヤックで進む!
住用川河口にはマングローブ林が広がる。ここを訪れるなら満潮前後がおすすめ。潮位が高いとマングローブが覆いかぶさる水路をカヤックで探検できる。料金は1時間2,000円程度から。
分け入っても分け入っても青いジャングル
島の中部以南は密林に覆われる。山は深く、道は少ないので踏み入るのは難しい。しかし、林道をゆっくり走るだけでも希少な生き物が道を横切る。見落とさないよう低速で走りたい。
奄美最高峰・湯湾岳山麓を散策
奄美大島で最も山深いのが湯湾岳周辺。巨大なシダ植物のヒカゲヘゴが繁り、沢には清冽な水が流れる。マテリヤの滝周辺には遊歩道がつけられ、深い森の散策を楽しめる。生き物も多い。
流れる水は泳ぎたくなる透明度!!
見つけた!特別天然記念物!……のウンチ
生物が頻繁に行き交うので、林道を走るときは路上にも注意。目を凝らしていて茶色の粒々が目に入ったら、それはアマミノクロウサギの糞! 落とし主よりは簡単に見られる。
15:00
通好み!?生き物だらけのキャンプ場
サファリにも引けを取らない町営密林キャンプ場
キャンプ場にはテント用のデッキと常設テント、コテージがある。テント泊も楽しいが、雨天は湿度が高く過酷。今回はコテージを利用(小・5,000円〜、中・10,000円〜)。
18:00
何と出会える?生き物だらけのナイトハイク
そこかしこから野生動物が顔を出す夜の森。大光量なライトは生き物の目をくらませるので、サーチ用のライトは1グループに1灯が推奨されている。足元や周囲を確かめるライトは各自が携帯する。
リュウキュウコノハズク
南西諸島でもっとも見やすいフクロウ。おおらかな個体はライトの前で狩りを披露してくれることも。夏には子連れの姿も見られる。
奄美大島は生き物に優しい!
アマミヤマシギ
オットンガエル
アマミノクロウサギ
トゲネズミ(?)
ハブ
数時間のハイキングで見た生き物たち。アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島、アマミヤマシギは奄美群島と沖縄島周辺、オットンガエルは奄美大島と加計呂麻島だけに生息。国内でも狭いエリアにしかいない生き物がそこかしこに。
ハブは普通にいる!夜の森は足元注意
奄美大島のハブは強い毒をもつ。古い時代は、噛まれた人が自分で足を切ったこともあったとか。足元と周囲には気を配りたい。
日没を待ってナイトハイクへと出発。キャンプ場の人によれば、アマミノクロウサギは日没の1時間後によく現われ、場内に顔を出すこともあるという。
闇を埋めるカエルの声が気分を盛り上げるが、天気は生憎の雨。アマミノクロウサギは雨を嫌う。今夜は姿を見せてくれるだろうか。遭遇率を高めるためにクルマに乗り換え林道をゆっくり進む。光の輪に次々と生き物が照らされるが、ウサギは現われない。諦めかけた帰り道。道端の石がピョンと跳ねた。いた! アマミノクロウサギだ!
「いた! いた!」
すかさず指を差すが、ウトウトしていた子供たちは見逃してしまった。うーん、残念……。
コテージに戻ってくつろいでいると、窓の外を黒い影が横切っては闇へと消えていく。その正体は部屋の明かりに来た虫を狙うリュウキュウコノハズクだ。
布団の中から野生動物の狩りを見られるのが奄美大島のすごさ。明かりを消すまで、リュウキュウコノハズクはライトに集まった虫を拾い続けていた。
DAY 2
翌日は荷物をまとめて海岸へと向かう。この日は大潮で、しかも初夏は一年でもいちばん大きく潮が下がる季節だ。ふだんは水に覆われているリーフも顔を出している。こんなリーフの切れ目をそっと覗くと、5〜7mほど下を魚が泳ぎ回っている。
(いる! いる!)
初めて見る光景に、小さく興奮の声をあげるのは子供たち。竿を渡して使い方を教え、岩の隙間にルアーを下ろしていく。
「あ、釣れた」
声を上げたのは父・恒太だ。
「釣りは子供のころのハゼ釣り以来だけど、おもしろいね〜」
友よ、ちょっと待った。感動が薄いが、ここは大物釣り師垂涎の磯。そこでオカズ釣りをするなんて最高に贅沢なんだぞ。
開始数分で釣れたため大漁になるかと思いきや、次の魚が釣れるまでに潮が満ちてきた。浜に戻ってタープを設営し、魚をさばいてコーヒーを淹れる。
太陽が傾くと辺りは金色に染まり始めた。本州ではなかなか見られない夕焼けだ、というと「そうだったっけ。晴れたらいつもこうだけど」とは恒太。
簡単にはできない体験が、この島では当たり前。奄美大島の自然にはそんな底力がある。
12:00
大潮のリーフエッジで魚釣り
磯遊びのベストシーズンは初夏。この時季は潮の干満の差が大きく、大潮の干潮時には磯が大きく顔を出す。取り残された魚や貝類を拾うために、島の人たちも「イザリ」に繰り出している。
ふだんは海の中!
真水が流れ込む場所では、そこだけサンゴが発達しないため、深い切れ目ができる。こんな場所は魚釣りの一級ポイント。岩の切れ目にルアーや餌を落とすと物陰から魚が食らいつく。
人生2度目の釣りで魚を手にした父は、元・スーパーの鮮魚売り場担当。イヌカサゴを手早く刺身につくりあげた。
コリコリでおいしいぞ!
15:00
エアロプレスで野点コーヒー
野外でコーヒーを淹れるときは「エアロプレス」を愛用。「エアロプレスはアウトドアでもレシピどおりに淹れやすいです」(恒太さん)
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粉をチャンバーに入れて少量のお湯で豆を蒸らし、その後お湯を注ぐ。抽出が済んだらプランジャーを押して豆と抽出液を分離する。「ペーパーフィルターより風味が豊かになります」
18:00
秘密の砂浜でビーチキャンプ
おすすめの浜にタープを張ると、子供たちの友達が遊びにやってきた。奄美大島には自然海岸での野営を規制するルールはないが、ウミガメが産卵に来る季節と浜や民家に近い場所は遠慮したい。
自然利用は事前にチェック!
エリアによっては夜間の入域者数に制限があり、ルールの遵守も求められている。また、条例等で採集が規制されていることも。島を訪れる前に調べておきたい。
BE-PAL的 ACTIVE POINT
- 1 自然観察こそ外遊びの王道
- 2 悪天候では無理をしない
- 3 いろんな遊び道具を用意
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2022年6月号より)