子供と楽しむ虫育キャンプ
子供にとって昆虫採集は、地球の生態系や命について学べる貴重な体験。多くの種類が活発に行動するこれからの季節、“虫育”に励んでみませんか?
なお、ここで紹介する虫たちは本誌の取材時点(春)の生態であり、夏は成虫になるなどして形態や生息状況が異なるものも少なくありません。それでも虫取りに必要な観察眼や装備、注意点など、参考になるポイントは変わらないので、きっと夏休みの参考になることでしょう。
8:00
秘密基地で作戦会議
虫は既知種だけで100万種以上。地球上の生き物の約70%以上を占めるという。そんな虫たちと出会う昆虫採集は、子供にとって、もっとも身近な生き物の生態系や命について学べる貴重な体験だ。
「ただの虫捕りと思うなよ〜。虫にはいろんな習性があるから、よく観察してからはじめないと」
とは、野生生物研究所所長の奥山英治さん(以下、所長)。というわけで、まずは基地に集合し、作戦会議からスタート。
基地の常備品はコレ!
「僕は虫ならなんでも好きだから、とにかく早く行こうよ」
と、朝からウズウズしているのは最年長のソウスケ(蒼介)。
「いや〜、虫もいいけどカエルとかカメもいいよね〜」
テル(照春)がのんびり返す。下のふたり、くーちゃん(継春)とスイ(翠)はどこふく風で、顕微鏡を覗き込んでいる。
所長「あー、わかったよ。じゃあ、気温が上がってきたら虫の活動が活発になるから、まずは林縁探して、午後から水生昆虫を攻めよう。今日はキャンプだから夜の観察にも行けるな」
とはいえ、昨晩は雨が降り、今朝も10度C以下とすっかり冷え込んでいる。昆虫採集のベストコンディションとはいえない。
基本の虫捕り道具
所長「まあ、気温が上がってくるまでは土手の穴や朽木の中を覗くことからはじめよう」
移植ゴテと捕虫網を携え、いざ、出陣。
テル「この中に虫いるかな?」
とコナラの木を叩く。
ソウスケ「これ、硬いからいない! 虫も硬いと食べないよ」
スイ「じゃあ、こっちのボロボロの木にはいるんじゃない」
朽木を割って崩していく。
スイ「いた! 芋虫みたいの」
みんなが駆け寄る。
テル「所長〜、これ何?」
所長「カミキリムシの幼虫だな。でも何の種類かは育ってみないとわからないから、気になるなら飼ってみるといいよ」
テルが朽木と一緒に、そっと瓶に捕獲する。
所長「子供はさ、憧れの虫を自分で捕って飼って死なせる中で、命の重みも学んでいくんだよ。だから、大いに採集してほしいね。ただし、自分で面倒みられないんだったら、ダメ」
くーちゃん「みてみて、踏むと煙が出るキノコ発見!」
所長「それ、ツチグリ。煙はね、胞子っていって、それをまいて子供を増やすんだよ。普段は閉じて丸まってるけど、昨日雨が降ったから皮が開いてるんだ」
ダ―――ッと駆け出して行ったかと思うと、つつきまくる。
所長「虫と遊びながら観察を深めていくと、周りの自然にも目が向くようになる。人が自然と共生することの意味を肌で感じられるはず。この子たちは将来自然を大切にするようになるよ」
9:00
午前中は活動が活発になる陸上の虫探し!
POINT 1
日の当たる林縁を探せ!
深い森よりも浅い林と道の境目である林縁に虫は多い。甲虫やカミキリムシはもちろん、木々に沿って飛ぶトンボやチョウも見つかる。
POINT 2
朽木の中や樹皮の裏をのぞく
気温が低い日や天気が悪い日は、朽木の中や樹皮の下に潜んでいるゴミムシの仲間や幼虫探しを楽しむ。壊した朽木はまとめておく。
POINT 3
倒木の下をチェック
倒木や石をめくる。ハサミムシや地上性の甲虫類(オサムシ、ゴミムシ)、ダンゴムシ、ナメクジなどさまざまな生き物に出会える。
種類は育ててからのお楽しみ
クネクネしてるね〜
カミキリムシの幼虫
↓
ルリボシカミキリ
ヨツスジトラカミキリ
日本には約700種。幼虫のときは種類が判別できないので、育てて面白い虫のひとつ。
コメツキムシの幼虫
↓
ヒゲコメツキ
マツの朽木で発見。日本では約400種。成虫は仰向けに寝かせると音をたてて跳ね上がる。
エグリゴミムシダマシの仲間
黒褐色の種類が多いが、虹の光沢を放つ虹ゴミムシダマシや半球形のものなどさまざま存在。
POINT 4
日がさせば飛翔昆虫の宝庫
日がさし気温が上がると飛翔昆虫も活動開始。大型のヤンマ類やチョウなどは繰り返し通る道があるので、通り道で待ち伏せする。
カナヘビちゃんゲットだぜい
煙を吐くキノコ発見!
シオヤトンボ
ヒシバッタ
豆粒のような土色のミニバッタ。羽で飛ぶことはなく、ピョンピョンとよく飛び跳ねる。
ナナホシテントウ
もっとも馴染み深いテントウムシ。成虫で越冬し、早春から活動。肉食性でわりと獰猛。
13:00
午後は水生昆虫のハシゴで決まり
所長「水生昆虫っていうのは、生まれて死ぬまで、もしくは幼虫の間だけ水の中にいる昆虫のこと。小さな水たまりから池や湖、川まで、水のあるところならどこにでも棲んでるよ」
まずは休耕田にできた水たまりを散策。
所長「ここなら浅いから見るだけで探せる。何かいる?」
テル「わあ、背泳ぎしてる!」
ソウスケ「マツモムシだ」
くーちゃん「カエルの卵がいっぱいある。ドロドロしてるぅ」
楽しそうにすくい上げる。
所長「あんまりいないな。ここはハズレだ。よし、移動」
次は流れの緩やかな小川。
所長「子供はひざ下までしか水がないところならOK。深みにはまらないように注意してね」
ソウスケ「川底にホトケドジョウ発見!!」
所長「U字溝やコンクリートの三面護岸じゃ、生き物も棲めないからね。生き物であふれる川がどんどん減ってるよ」
そしていちばんの狙い目が、放置されたため池だ。
所長「植物が生い茂った浅い場所を狙うのが基本だよ。ちょっと見てて」
持っていたタモを水中に差し込み、徐々に自分のほうへと動かしていく。
所長「植物を踏んで足を動かしながらすくってもいいよ」
ここで意外にもスイちゃんが活躍! 腰の入ったタモさばきでテキパキとガサガサを進めていく。さすがウェーダーを着込んでいるだけはある。
スイ「トンボのヤゴいたよ」
くーちゃん「こっちにも!」
調子が出てきた。
ソウスケ「ヤッター、クロゲンだ。タイコウチもいる」
テル「アァァ、イモリィィィ」
テンションマックス。
所長「よし、このぐらいにしていったん帰ろう」
全員「まだまだっっ!!」
日が傾きかけたころ、やっとのこと帰還。観察会を終え、テントに潜り込む。
ソウスケ「大人は立ち入り禁止」
おやつを持ち込み、モグモグタイム。
所長「夕飯食べてから夜の探検行くのに、大丈夫かー?」
全員「コーラ買ってきて!」
子供の体力、恐るべし。
水生昆虫探しの道具
川底に密着するカマボコ型のタモとバケツ。深みの場合、ウェーダーなら安心。夏ならスポーツサンダルでも。
POINT 1
休耕田の水たまり
休耕田の水たまりでよく見かけるのはアメンボやオタマジャクシ。トンボ類が産卵にくることも多い。雨降りの翌日が狙い目。
POINT 2
浅瀬の川辺
小川の岸辺や水生植物の根元を探す。緩やかな流れのある場所だとカゲロウやカワゲラのほか、ドジョウやサワガニがいるかも。
POINT 3
山間のため池
大型魚類が生息しないため池は、幼虫も生息しやすく、水生昆虫の宝庫。底の泥や草の茂みをすくいとる。
正しいガサガサを伝授
タモはまず遠くへ差し込み、上下に動かしながら岸に近づけ、水生昆虫を網の中へ追い込む。手前から奥に向かってすくうのはNG。
17:30
ケースや顕微鏡でじっくりと観察!
オニヤンマやコヤマトンボのヤゴをはじめ、タイコウチやミズカマキリ、コオイムシなど14種類も捕まえた。観察ケースでじっくり観察したら水に放す。
持ち帰って飼育する場合、朽木で見つけたらエサとなる朽木も一緒に持ち帰る。生息していた環境をなるべく再現することが大事。
シャーレに入れて実体顕微鏡で観察。20倍に拡大できるので、細部まで観察できる。昆虫に棲み着くダニまで見ることができる。
観察会をしながら、しばし休憩。日が暮れるころになると、そろそろ夜行性の昆虫が活動をはじめる。
19:00
日没後はライトを携え夜の昆虫観察
ハンディライトがあればOK!
足元を照らすヘッドライトかハンディライトを用意。なるべく大光量でムラのない光のほうが虫を見落とさない。長袖長ズボンを着用。
街灯の下を探す
自動販売機を観察
最近は虫を寄せないLEDが増えたが、昔ながらの水銀灯は虫が寄る波長を出す。街灯の周りに飛ぶガや、下に落ちた甲虫類を観察。自販機の明かりも探しどころ。
ヒメギスの幼虫
キリギリスを小型にしたような虫でオスはジージーと低く鳴く。緑色型と褐色型がいる。
オオミズアオ
大型で鮮やかな水色が美しく、日本の蛾の中で有名な種のひとつ。成虫は口が退化し1週間の命。
イボタガ
早春に羽化するため、5月ごろまでしか出会えない。驚くと翅を広げフクロウ模様を見せ威嚇する。
いかがでしたか? キャンプ気分が楽しめて、生き物と触れ合えるアウトドア体験。天候の変化や子供の体調などを大人がしっかり気遣って、楽しい1日を過ごしましょう!
BE-PAL的 ACTIVE POINT
1 動くものはなんでも捕らえてみる
2 何が捕れても仲間で褒め合う
3 飼えないものはその場で観察
※構成/大石裕美 撮影/中村文隆
(BE-PAL 2022年6月号より)