みんなで試行錯誤しながら作る!
人も野菜も多種多様なコミュニティ農園
海のイメージが強い神奈川県の湘南エリアだが、JR辻堂駅から歩いて30分、東西に走る高速道路の高架下を抜けると、突然、目の前に畑が広がる。天気がよければ富士山が望める絶好のロケーションで活動をしているのが、会員制コミュニティ農園「EdiblePark茅ヶ崎」だ。
EdiblePark茅ヶ崎(神奈川県)
代表 石井光さん& 祥さん & 礼子ちゃん
800坪の敷地には、井戸やチキントラクター(移動式鶏小屋)があり、扇状に畝が立つ。取材で訪れた4月初旬は春の草が芽吹く時季ということもあり、EdiblePark茅ヶ崎の畑は、緑がイキイキと輝いていた。茶色い土が裸のままになっている周囲の畑との違いは、一目瞭然。自然の摂理に沿った農を目指しているのだなということが窺える。
「2017年の秋にスタートした当初は、区画貸しと共同の畑があるコミュニティ農園で、ここを立ち上げたリーダーが野菜の育て方を教えるというスタイルでした。けれど、1年半後にその人が忙しくなって抜けたため、僕が代表になりました」
石井光さんは、辻堂地域で代々続く地主の跡取りで、祖父から“大家業”を引き継ぎ、100年先の辻堂をイメージしたまちづくりプロジェクトを計画している。その柱のひとつが、このコミュニティ農園なのだ。
「僕は農業のプロではないので、パーマカルチャーの先生を招いたり、自分でいろいろな講習会に参加したりして、メンバーと共に実践を続け、失敗を繰り返しながら、気がつけば5年目になりました。現在は、23組(家族は1組とカウント)が活動をしています。立ち上げ当初にあった個人区画はいつの間にかなくなり、すべての畑を共有し、収穫を分け合っています」
コンパニオンプランツも実践!
サイトモ班、ニンジン班など野菜は班長制度
活動は毎週土曜日。野菜ごとに班長を決め、無農薬、無化学肥料を大前提とした上で、育て方は班長に委ね、その時々でお互いにサポートし合いながら好きな作業をしている。継続の秘訣は、月に1度のミーティング。どうしたら無理なく続けられるかをとことん話し合う。
「やりたいこと、好きなこと、得意なこと、できることを持ち寄った、緩やかなコミュニティを目指しています。野菜作りだけではなく、DIYや自家採種、竹やもらった木材で炭を作り土壌改良など、お金に頼らなくてもできることを少しずつ増やしていきたいと思っています」
【少量多品種】炭素循環農法で育てる野菜は約70種類!
【生物多様性】ニワトリや虫etc. 生き物が育つ環境作り
必要なものはなんでも自分たちで作ってみる
立ち上げ当初から参加しているメンバーの黒田早苗さんは、昨年まで白菜とナスの班長で、リサーチした栽培法や栽培記録を手書きの小冊子にまとめてメンバーにシェア。今年度は全体のサポート役に徹している。
「最初の3年間は、なかなか思うように野菜が収穫できなくて失敗の連続でしたが、毎週、ここに来るのがとにかく楽しくて。畑にいると“浄化”される感じ。私にとって大切な場とかけがえのない仲間です」
ニンジンを担当するサーファーの矢口夫妻は、自給自足に興味を持ち始めたタイミングで、EdiblePark茅ヶ崎との縁がつながった。
井戸
風のトイレ
「農に関しては、まったくの素人なので、園芸雑誌やネット情報を参考にしながら、試行錯誤でやっています。ニンジンのタネをまいたら籾殻で薄くカバーするといいらしいので、早速やってみようと思っています」
年齢もバックボーンも異なる多様な人たちが集い、土に触れ、自然とつながり、安全でおいしい野菜を食べる。アフターコロナにおいてますますニーズが高まるであろう、畑を介して育まれるコミュニティの在り方を、EdiblePark茅ヶ崎のメンバーが軽やかに示してくれている。
【自家採種】種採り用に育てたり、種の交換会などで入手
【土作り】地元のビールかすや焚き火の炭を有効利用
※構成/神﨑典子 撮影/田淵睦深 写真提供/奥田正治、石井 光
(BE-PAL 2022年6月号より)