スイス・ビクトリノックス社の創設者であるカール・エルズナーは、1897年、現在あるマルチツールの原型となった「オリジナル・オフィサー&スポーツナイフ」というモデルの特許を取得。その125周年を記念し、オリジナルを手本として作られた「レプリカ 1897 リミテッドエディション」が発売された(6月10日)。これを機に、レプリカとともにビクトリノックスの長い歴史を紹介しよう。
創設者であるカール・エルズナーは、1860年、スイスのほぼ中央にあるシュビーツ州イーバッハという小さな村で帽子工場を営む家庭に生まれる。家業を継ぐ重圧のない四男であった彼は、刃物職人としての技術を身につけ、1884年に自らの刃物工房を開設した。彼は事業を立ち上げるという旺盛なパイオニア精神に加え、これといった産業のない村に雇用を創出して人々が地元から離れるのを防ぎたいという崇高な目的を持っていたのだ。
工房開設後、着々と売り上げを伸ばしていたが、エルズナーは刃物職人としてだけでなく営業手腕にも長けていた。当時、スイス軍がドイツのゾーリンゲン製ナイフを使っていることを知った彼は、「ソルジャーナイフ」を開発してスイス軍に持ち込んで営業をかけた。これが功を奏して、1891年にスイス陸軍の制式採用ナイフとして納入することになり生産量は一気に増えて事業は拡大し、起業当初の目的でもあった雇用創出にも成功したというわけだ。
ビクトリノックス ジャパンに展示されている、創業者カール・エルズナーの木像。刃物職人になることを目指していた彼は、10代からドイツやフランスで修行したのちに独立し、ビクトリノックス社の前身となる「エルズナー工房」を開設した。
2006年に本誌がスイス本社を訪ねたときに撮影した開発当初の「ソルジャーナイフ」。使い込まれ、研ぎを重ねたメインブレードはすっかりすり減っている。ハンドルは黒檀(エボニー)製。
ソルジャーナイフはとても堅牢であったことは間違いないが、重かった。そこでエルズナーは、オフィサー(将校)のためにデザインを一新。軽量化され、コルクの栓抜きをプラスした新しいモデルは、1897年に「オフィサー&スポーツナイフ」として商標登録され、今日マルチツールと呼ばれるツールの先駆けとなったのだ。
1909年、エルズナーの母ビクトリアが他界したのを機に、「Victoria」を商標登録してブランド名とした。家業である帽子屋の店先で、息子が作ったナイフを売りさばいてくれた優しい母への感謝が込められていたのだ。そして1921年、発明されて間もないステンレススチールを意味する「inox(イノックス)」を組み合わせて、社名(ブランド名)を「VICTORINOX」と改めた。
その後、1989年からは時計市場、’99年にラゲッジ市場へと進出し、あれよあれよという間にグローバル企業へと成長を遂げたのである。また、ビクトリノックスの精密なスチール加工技術は、マルチツールにとどまることなくキッチンナイフや様々な調理器具にも応用され、いまでは600種類ものキッチンアイテムがラインアップされている。
レプリカ1897リミテッドエディション登場!
さて、大変お待たせしましたが、いよいよ「レプリカ 1897 リミテッドエディション」を紹介します。見た目はオリジナルと同じだけど、しっかりと最新技術や素材が導入されている。ハンドルには、紙を原料とする脱プラスチック時代ならではの素材を採用。紙原料の素材とはいえ強靱で、粘り強く割れにくく加工性に優れ、なにより握り心地がイイ! メインブレードの根本に初期のブランド名である「ELSENER SCHWYZ(エルズナー シュヴィーツ)」、そしてマイナスドライバーには、特許取得済であることを示すドイツ語「GESETYLICH GESCHÜTYT」という刻印が施されている。この特許取得の刻印は、1897年当時には重要なセールスポイントになっていたそうだ。
先が尖ったスモールブレード、現在の螺旋状コルク抜きではなくオリジナルと同様のネジのようなコルクの栓抜き、缶詰めの縁の下をカットするタイプの缶切りが特徴的。
コルク栓抜き収納部の仕切り板には、特許取得年を示す「1897」と、シリアルナンバー(写真はサンプルのため「0000」となっている)が施されている。「9999」は、9,999本の限定モデルであることを示す。
レプリカは、ビクトリノックスのテーマカラーであるレッドを基調としたタイムカプセルにおさめられ、さらにこだわり抜いてデザインされた化粧箱に入っている。
高さ 15mm、長さ 91mm、重量 82g ¥59,400
問い合わせ先:ビクトリノックス ジャパン https://www.victorinox.com/
気になる限定モデル…マッハGoGoGo
そしてもうひとつ、気になる限定モデルをご紹介。それが、「ハントマン マッハGoGoGo」コレクションだ。1967年に放映されたタツノコプロ製作のテレビアニメで、放映55周年とタツノコプロ創立60周年を記念したモデル。「マッハGoGoGo」は、天才レーサー三船剛が、特殊機能を搭載したレーシングカーのマッハ号を駆って世界各国のレースに参加し、様々な危機や難局を乗り越えるレースアニメ。’97年にはリメイク版が放映されたので、30代以上の方なら懐かしいと感じるはず。あまりに懐かしくて、つい衝動買いしそうな限定アイテムである。実際に筆者は購入しちゃいました(苦笑)! 以上、余談でした。
「ハントマン」という15機能を搭載したモデルをベースとして3種類あり、限定各1,000本。¥9,900。
文/坂本りえ