「あそこの坂、行ってみる?」
ドライバーが目の前の急斜面を指差し、バギーで登り降りしないかと誘ってくる。見た感じそんなに怖そうじゃないし、と軽い気持ちで乗ってみたら……。
滑るというより落下するような感じで下っていき、そのまま目の前に立ちはだかる壁を猛スピードで登り、またまた滑降し、ようやく戻ってきた。所要時間2~3分の超絶スリリング体験は、振り落とされないようしがみつくので必死だった。
「ボクも乗ってみたい」と息子が言う。
真ん中に息子を乗せ、ドライバーとサンドイッチにしてふたたび出発。
戻ってきた彼に感想を聞いたところ「すっごく楽しかった!!」とニコニコ話していた。親よりもタフだ。
急坂ライディングを終えると、ドライバーが絶景ポイントに連れていってくれた。白い砂と青い湖のコントラストが眩しい。
一通りの仕事を終えたドライバー、何度も「さあ帰ろう」と促すが、到着してからまだ20分。もっと自分たちのペースで砂丘を楽しみたいので、バギーとはここで別れる。
山を作ってもすぐに崩れてしまうほどのサラサラした砂の感触は、幼稚園の砂場では味わえない。「あー、また崩れたー!」と言いながら、ベトナムの砂と格闘する息子の姿が微笑ましい。
せっせと砂山作りに勤しんでいた息子が、突然「もう帰りたい」と言い出した。見れば顔が真っ赤になっている。日陰はなく、地面からの照り返しもあるので、暑さはかなりのもの。慌てて持っていた水を飲ませて、砂丘を後にした。
砂の上に柱と屋根があるだけの、簡素なお店で買ったジュースで喉を潤す。ほっと一息ついてから、吊るしてあったハンモックにゴロン。はるか向こうに広がる、まぶしく光り輝くホワイトサンデューンをしばらく眺めていた。
◎文=旅音(たびおと)
カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
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