少子高齢化が進む時代において、廃校となった学校の跡地の活用が各地で進んでいます。2022年7月1日にあらたなスタートを切ったのが、神戸市兵庫区の コミュニティ型複合施設「NATURE STUDIO(ネイチャースタジオ)」。元々は141年の長い歴史を持つ湊山小学校でした。
さらにさかのぼると、この場所はかつて平清盛の邸宅「雪見御所」があったとも伝わる由緒ある土地で、山の緑も豊かで小さな川も近くにある自然が豊富な場所。多くの歴史を刻んできた場所に新たな息吹を吹き込むために行なわれたコンペティションを経て、選ばれたのがNATURE STUDIOの案でした。
かつての図書室と理科室の場所は小さな水族館に
一足早く2022年4月には、敷地内には保育園や学童保育コーナー、就労支援施設といった地域の暮らしを支える施設と、ハーブや野菜苗・果樹の苗木の販売からアロマオイルやハーブソルト作りの体験も提供している「HERB SHOP」や、この土地の地下水を使ったクラフトビールを造る「open air 湊山醸造所」がオープン。
そして、7月1日のグランドオープンで新たに利用できるようになった施設の1つが「みなとやま水族館」です。旧湊山小学校のときには図書室や理科室として使われていた場所をリノベーションした水族館は、規模は小さいものの、1つ1つの展示をじっくりと楽しむしかけがたくさん施されています。例えば、水槽の前にクッションを置き、その上に座って低い位置から見上げて楽しむアイデア。チンアナゴのいる部屋は絨毯敷きになっていて、靴を脱いでリラックスして観察できるように工夫されています。チンアナゴの水槽の横にはチンアナゴと一緒に撮影できるフォトスポットも用意。従来のルートを巡る展示ではなく、好きな生きものの姿をじっくり観察できる仕掛けは、子どもにとっては程よい広さ。
小さな水族館ですが、桂浜水族館からやってきた2匹のカワウソが遊ぶ様子や、ナマケモノがのんびりと過ごす姿を真近で見ることができる距離感はほかではない良さ。
食べられる植物を観察し、学校の校庭でニジマス釣り!?
同じく7月1日にオープンしたのが、校庭の跡地に誕生した「PICNIC GARDEN」と「FISH POND」。「PICNIC GARDEN」はエディブルガーデンとして食べられる薬草やハーブを栽培。今後収穫したハーブを館内のビール醸造所で使い、オリジナルのクラフトビール造りも計画中。みなとやま水族館前にある「FISH POND」では、池にいるニジマス釣り体験も実施。1回1500円で2匹まで釣れて、釣った魚はその横のアウトドアカフェ「Garden Kitchen」に持っていけばフライにしてもらえます。ここのニジマス、なかなか曲者です。エサだけ上手に食べてしまうので、釣り堀にいるからといって侮れませんよ。
体育館だった場所はフードホールに変身!
水族館のある建物の2階のかつて体育館だった場所は、フードホールに生まれ変わりました。こちらではカレーの「マンドリル」、りんごのタルトやジェラートなどを販売する「あら、りんご。神戸ファクトリーショップ」、そして別棟の1階にあるopen air 湊山醸造所のビールが飲める「open air ビアカウンター」が出店。このなかではフリーWiFiも利用可能です。
NATURE STUDIOの企画・運営を行なう村上工務店の村上豪英さんによると、可能な限り旧校舎を残す方向で挑み、実現したのがNATURE STUDIO。
「こうやって校舎を残してきたのも、いろんな機能は大切ですが、まずは地域の方々に自分たちが通っていた、あるいは地域のシンボルのように思っていた小学校への愛着を引き続きNATURE STUDIOへも注いでいただきたいというふうに考えてのことでした。もちろん、校舎、体育館も大変大きく変貌しています。今後はいま駐車場になっている場所に、西館を建設し、新たに高齢者福祉施設や医療機関、レストランができる予定です。小学校跡地の活用だけでなく、地域のあらゆる世代の方とつながり、兵庫区北部の魅力を発信していく施設にしていきたいです」(村上工務店 村上豪英さん)
施設内ではヨガイベントやハーブの植え込みワークショップなども始まり、より地域に密着した場所になるよう今後も様々な取り組みが行なわれる予定です。
NATURE STUDIO
所在地:神戸市兵庫区雪御所町2-18
営業時間は各施設ごとに異なり、また社会情勢に応じて変更になる可能性があるため、事前にホームページでご確認ください。
取材・文/北本祐子