イギリス貴族の遊びとして始まり、500年余の歴史があるといわれるアウトドアスポーツ「フライフィッシング」。そう聞くと「敷居が高そう」「とっつきにくそう」と思う人もいるかもしれません。でも、釣りの中でも特に初心者向きなのがフライフィッシングだという声も聞きます。
ホントに初心者でもできるのか、どんな道具が必要なのか、フライフィッシングにはどんな魅力があるのか。そんなフライフィッシングにまつわる「?」をリサーチしました。
フライフィッシングの魅力とは?
フライフィッシングとは、昆虫や小魚などをモチーフにした毛ばり(フライ)を用いて行う釣りのこと。渓流や池、湖などを舞台に、主にヤマメやイワナ、ニジマスといったマスの仲間を釣り上げます。
フライフィッシングにハマるポイントは十人十色です。フライを自作する面白さ、キャスティング(フライを目的のポイントに飛ばすこと)の技術を向上させる喜び、そして何より大自然の中に身を置くことに、多くの人が魅力を感じているようです。
1931年創業の「つるや釣具店」オーナーで、BE-PAL.netにも記事を執筆している山城良介さんは、フライフィッシングの醍醐味を次のように語ります。
「フライフィッシングの醍醐味のひとつは、自然に接し、季節の移り変わりを感じられることです。今の季節、この時間帯に、どんな虫が飛んでいるのか、魚はどのあたりにいるのかなど、自然の状況をよく観察しなければ魚を釣ることはできません。
その場に適した道具を使い、自分の立ち位置を考え、魚と対峙して、1匹でも釣れたらそれは楽しいし、うれしい。フライを目的のポイントに飛ばすことを『キャスティング』といいます。キャスティングをイメージしながら道具をそろえたり、魚のことを考えながらフライを巻いたりと、釣りに行く前も楽しい。最初は釣れなくても、道具を工夫して、キャスティングを練習して釣れるようになると、もっと楽しくなります」
フライフィッシングに必要な道具
フライフィッシングを楽しむために必要な道具は、主に以下の6点。この釣竿(ロッド)からフライまでの一式のことを「タックル」と呼びます。
- フライロッド
- フライリール
- フライライン
- バッキングライン
- リーダー・ティペット
- フライ
なお、フライフィッシングの道具では、サイズなどに独特の表記が使われます。すぐに慣れますが、初心者には「?」なことも少なくありません。ここからは、それぞれの道具とともに、そうした用語についても適宜解説していきます。
フライロッド
フライフィッシング専用の釣り竿を、フライロッドと呼びます。フライロッドの素材はバンブー(竹)、グラスファイバー、カーボンなど。現在は、軽くて反発があり、投げやすいカーボン素材が主流となっています。
フライフィッシングの世界ではイギリスやアメリカのフィート表記が一般的で、フライロッドの長さもフィートで表します。そして、どこで何を釣るかによって、フライロッドの長さもおおよその目安があります(1フィートは30.48cm)。
- 渓流:7フィート~8フィート(約2.1m〜2.4m)のロッド
- 湖・大川:8フィート半~9フィート(約2.6m~2.7m)のロッド
また、フライフィッシングには「番手」と呼ばれる規格があります。これはアメリカの団体が定めたフライラインという釣り糸(後述)の重さに関する規格で、1番、2番(表記は#1、#2)…と数字が大きくなるほど重くなります。
このフライラインの重さに適合するフライロッドの重さも1〜15番まで指定されています。フライロッドの番手と対象となる場所や魚の目安は、以下の通りです。
- フライロッド#1~#4:源流・渓流・管理釣場でのヤマメ、イワナなど
- フライロッド#4~#6:渓流・湖・管理釣場でのニジマス、ブラウントラウトなど
- フライロッド#6~#10:本流・湖・管理釣場でのサクラマス、ニジマス、サーモンなど
(#6~#10は海でのメバルやシーバス釣りも対象) - フライロッド#10~#15:海でのシイラ、カツオ、カジキなど
山城良介さん「フライロッドは渓流釣り用と、湖や池用のふたつに分かれています。どちらで釣りをやりたいかによって、ショップでアドバイスをもらって購入すると良いでしょう。機能的には、高価なものでなくても問題ありません。そして、カーボンロッドがおすすめです。釣り場では木に引っ掛けたり、落とすなどアクシンデントでロッドが壊れることがありますが、カーボンロッドなら修理は簡単です。川と池や湖とでは釣れる魚のサイズが違うので、道具立ても異なります」
フライリール
フライラインを引き出したり巻き取ったりする役割を担うのが、フライリールです。特にフライフィッシングでは、太くかさばるフライラインを収める格納庫のような存在といえます。
フライリールは、利き手に関わらず左右どちらでも巻くことが出来るタイプが一般的です。このフライリールも、使用するフライラインの番手によって適合するサイズが決まっています。
山城良介さん「ロッドにはそれぞれ合うサイズのラインがあるので、そのラインが収納できるサイズのリールを選びます。重要なのは自分が持っている、あるいは買おうと思っているロッドの使用番手のラインが巻けるサイズであること。あとは色やデザインで好きなものを選ぶといいでしょう。高いから良いとか、安いからダメということはありません」
フライライン
フライフィッシングでは数種類の釣り糸を組み合わせて用いますが、その中でメインとなる部分がフライラインです。太くてカラフルな釣り糸で、フライを目的のポイントに運ぶという重要な役割を担っています。フライロッドの項目で記したように、フライラインには番手と呼ばれる規格があり、その数字が大きくなるほどラインの重さが増します。
また、フライラインは力を効率よくスムーズに伝えるため、1本の糸に太さや重さの異なる部分が混在しています。そうした太さや重さの違いを「テーパー」と呼び、主に3つのタイプがあります。
- ダブルテーパーライン:フライラインの両端が先細りになっているタイプ。幅の狭い川や管理釣り場で力を発揮。
- ウェイトフォワードライン:フライラインの前方に重量が集中しているタイプ。渓流でも使えますが、本流や湖での使用に向いています。
- シューティングテーパー:前方のみに重さが集中しているタイプで、太さが均一なシューティングライン(別名ランニングライン)と組み合わせて使用します。遠投用。
山城良介さん「フライラインは、ロッドが指定する番号のラインを選びます。例えば、3番のラインを指定しているロッドに5番のラインを使うと、バランスが悪くなって飛ばしにくくなります。3番のラインであれば的確に投げられるのに、5番のラインをつけると負荷がかかり過ぎてロッドが曲がり、ラインが飛びにくくなります。最も重要なのはロッド、リール、ラインのバランスを整えることです。素材は、ケミカルラインがオススメです。ラインは寒くなると固くなり、暑くなると柔らかくなりますが、最近のケミカルラインは気温差に関わらず、コンディションを保つことができます」
バッキングライン
フライラインは直接リールに巻くわけではなく、初めに下巻きが必要になります。それがバッキングラインです。例えば対象となる魚が大きい場合はフライラインだけでは足りなくなるので、そうした際の予備の役割をバッキングラインが担います。
リーダー・ティペット
フライラインの先端につなぐのがリーダーと呼ばれる糸で、徐々に細くなる形状をしています。フライラインと結ぶ太い部分をバット、細くなっていく部分をテーパーと呼び、その先につなぐ最も細い糸をティペットといいます。
ティペットは「X(エックス)」を単位とする太さの規格が02X 、01X、0X…10Xとあり、数字が大きくなるほど細くなります。もっとも、初心者がティペットの詳細な規格を覚える必要はなく、一般的な渓流釣りなら5〜6Xを使うのがスタンダードとなっています。
リーダーの長さは、6フィートから15フィートぐらいまでさまざまタイプがあります。リーダーが長いほどフライラインと魚との距離が離れるのでフライを自然に見せることが可能ですが、その分、扱いづらくなります。初心者が渓流釣りに挑むなら、9フィートぐらいがオススメです。
山城良介さん「リーダーは使用するフライのサイズに合わせるのが基本です。フライ、リーダー、ティペットの組み合わせはバランスが重要です。初めはショップでアドバイスをしてもらうといいでしょう。慣れてきたら場所やフライのサイズによってリーダーを替えてみると、釣りがより面白くなります」
フライ
昆虫や小魚などをモチーフにした疑似餌(ぎじえ)で、日本語では毛ばりともいいます。フライもリーダーやティペットと同じくさまざまなサイズがあり、その数字が大きくなるほどサイズが小さくなります。ただ、日本の渓流や管理釣り場ではドライフライ(後述)で14番というサイズが標準的です。
また、フライの種類は多種多彩で、どれを使うかで釣果が左右されます。それだけに、どのフライを選ぶかということもフライフィッシングの大きな楽しみとなるのですが、初心者はまず以下の代表的な4種類を使うと良いといわれています。
- ドライフライ:水面に浮くようにつくられたフライ。水面に浮かんでいるので動きがわかりやすく、初心者にも扱いやすいフライです。
- ニンフフライ:水中に沈むフライで、カゲロウなどの水生昆虫の幼虫を模したもの。さまざまな場面で使える汎用性の高いフライです。
- ストリーマー:小魚に似せたフライ。
- ウェット:光を反射する素材や色で魚を誘うフライ。
山城良介さん「どのような釣り場に行くかによって推奨されるフライは違うので、ショップで相談して購入しましょう。まずは、ドライフライがオススメです。最初はキャスティングが上手にできないし、ラインコントロールもうまくいきません。でも、水面に浮くドライフライを使えば、どこにフライがあって、どのように流れるかが見えます。まずは、同じ種類のフライ10種類を各2本ずつ、合計20本ほど用意するといいでしょう。また、バックアップのために沈むフライも数本用意してください」
【参考】フライフィッシングの極意!老舗釣具店主が伝授するフライの選び方とフライ作りの魅力
道具の予算
「とにかくリーズナブルにフライフィッシングを始めたい!」ということであれば、上記のロッドからフライまでのタックルのセットが10,000円ほどからありますし、後述の管理釣り場ではレンタルを行なっているところもあります。
ただ、フライフィッシングの道具は長く愛用できるものなので、専門店でスタッフの方に相談しながらそろえるのが無難です。道具類の価格の目安としてはフライロッドが20,000円~、フライリールが10,000円~、フライラインその他の道具がまとめて15,000円ほどとなります。
初心者にオススメの釣り場
フライタックル一式をそろえたら、いざ渓流へ!と考えるのは当然のこと。でも、渓流や湖などの自然を舞台にフライフィッシングを楽しもうと思ったら、ウェーダーと呼ばれる長靴、ニーブーツなどの備品も必要になります。そういった点でも、初心者にオススメなのが「管理釣り場」です。
管理釣り場とは、川や池などの一部を区切り、釣りの対象となる魚を放流している場所のこと。その種類はさまざまですが、フライフィッシング(もしくはフライとルアー)専用の管理釣り場もあります。
人工的な釣り場ですが、川の流れなどがあったりすると初心者がすぐに魚を釣れることはまずありません。では、なぜ管理釣り場が初心者にオススメなのでしょうか。
管理釣り場では、フライの投げ方や動かし方の練習を積むことができます。しかも、ジーパンにスニーカーといったカジュアルな格好でOKのところもあります。それでいて、人工的に管理された釣り場とはいえ、自然に囲まれてフライフィッシング雰囲気を満喫することができます。
まずは管理釣り場で経験を重ね、それから渓流に向かうという流れが、フライフィッシングの常道なのです。
山城良介さん「渓流、池や湖など、いろいろなタイプの管理釣り場が全国にあります。各都道府県の管理釣り場情報で検索すると詳しい情報を手に入れることができます。他にもいろいろなサイトがありますが、今の時季ならどこの釣り場が良いといった、リアルな情報を得られるのがフライフィッシング専門店です。
そういった意味でも、懇意の専門店を持つことをオススメします。スタッフとの相性などもあるので、いくつかの専門店をめぐってみてください。道具などについて初歩的な質問にも丁寧に答えてくれるスタッフなら、初心者向けの釣り場のこともきちんと教えてくれるはずです。そうした頼りになる存在ができると、フライフィッシングの楽しさもぐっと増すのではないでしょうか」
まとめ
アウトドアスポーツの中でも高尚で敷居が高いと思われがちなフライフィッシング。でも、初心者が必要な道具を最低限そろえるだけなら、それほど予算もハードルも高くありません。まずは、管理釣り場で技術と興味を高めてみては。その先にはきっとフライフィッシングの奥深い世界が待っているはずです。
初心者から上級者まで、それぞれの技術に応じたアイテムから季節に応じた釣り場情報まで丁寧に伝授。