民族共生象徴空間「ウポポイ」
北海道キャンピングカーひとり旅。クライマックスとして、民族共生象徴空間「ウポポイ」にやってきました。
北海道の地方部を旅していると、アイヌにまつわる地名や伝承に数えきれないほど出会います。また、入植者の家畜保護のため駆除されたエゾオオカミの例にあるように、開拓の歴史を考えずに北海道を歩くことはできません。
それは民族の対立や共存という話だけではなく、私たちが何と引き換えに現在の便利で快適な暮らしを手に入れたか、という大きなテーマのような気がします。
ウポポイは、白老郡白老町のポロト湖畔に作られた文化体験施設です。白老町にはもともとアイヌ民族が多く住み、「しらおいポロトコタン」という野外博物館もあったそう。現在では広大な敷地に博物館、ショップ、レストラン、体験施設などが並ぶ複合施設に生まれ変わりました。
第1駐車場だけでも246台分あるのでキャンピングカーでも安心。ただし1回500円の駐車料金がかかります。
入場には予約制のウポポイ入場券のほか、博物館の見学を希望する場合は入館整理券が必要です。
国立アイヌ民族博物館
複合施設であるウポポイにおいて、メインコンテンツと言えるのが「国立アイヌ民族博物館」でしょう。その名のとおりアイヌをテーマにした国立の博物館です。
大きな期待を背負ってオープンしたウポポイですが、議論を呼んだ一幕もありました。展示物が少ない、アイヌ由来ではないものや現代のものが展示されている、差別の歴史に触れていない、などの指摘です。実際の印象はどうだったでしょうか。
展示室はワンフロア。決まった順路はなく、中心から周辺へと自由に回遊できる「プラザ展示」を採用しています。動画を除き、ほとんどのエリアは撮影可能です。
ガラス張りのケースに資料が並び、洗練された展示室はさながら美術館のよう。そのぶん展示品のボリュームはやや控えめな印象。
各地の国立博物館のように、いくつもの部屋に分かれ、テーマごとに展示物が並び……といった構成ではありません。収蔵資料は約1万点とされているので、展示されているのはおそらくごく一部。解説を読み込まずにさっと眺めるだけなら、30分もかからないかもしれません。
印象深かったのは映像資料や音声資料です。
ユネスコから「消滅の危機にある言語」と位置づけられているアイヌ語。アイヌコタンで生まれ育っても、自ら勉強しなければ話せないといいます。
いまでもウポポイではアイヌ語を公用語とし、看板などに併記されていますが、いずれ普通に会話できるようにしたいと語ってくれたスタッフも。
「現代」を取り扱っている点も、博物館としては異色かもしれません。弓や罠で獲物を捕らえ、日々の糧にしていたのは昔の話。いろいろな職業に就いている市井の人々の暮らしが紹介されています。
狩猟採集生活のイメージが強いアイヌ民族ですが、他の民族と盛んに交易をし、優れた商才をもつ一面もうかがわれます。
文化は混ざり合い、溶け合います。たとえば和人の服である陣羽織を、男性用の儀礼の正装として長く着用してきたそう。どこまでが「アイヌ固有の文化か」と定義する難しさも感じます。
また、展示は文化的側面にフォーカスしており、人権問題など負の歴史にはあまり触れていません。ここはたしかに賛否両論を呼ぶところでしょう。
伝統芸能上演
別棟の体験交流ホールでは1日に数回、伝統芸能が上演されます。
阿寒湖アイヌコタンでも伝統芸能を見たのですが、あちらがプロジェクションマッピングなどを駆使してドラマチックにショーアップしてあるのに対して、こちらは正統派かつ王道という印象。
歌と踊り、楽器演奏が整然と、ある意味ひねりなく披露されます。会場も272名収容と大規模なので、演者ともやや距離がある感じです。
しかし、日本のどの地方とも似ていない言語や音楽には、素朴で単調ながら魂を震わせるようなメッセージ性が感じられます。すべての動作には意味があり、大事な話を伝える目的や、人智を超えた存在に捧げる目的をもっている。
現代では娯楽の側面も強いですが、かつて私たち大和民族の祭祀や芸能も同じだったはず。根源的なエネルギーを発しているようなステージでした。
刺繍体験 「イカㇻカㇻアン ロ」
園内各所では楽器演奏体験、調理体験、木彫体験などの参加型プログラムが用意されています。予約制のものや、人数制限が設けられているものもあるため、事前にタイムスケジュールをよく把握することがポイント。見落としがちですが、プログラムに参加するか、しないかでウポポイでの体験密度がだいぶ変わるように思います。
私は刺繍体験に参加しました。伝統衣装でよく見る特徴的なアイヌ文様は、一針一針、手縫いなのだそう。
刺し方を教わって、お手本通りに針を進めていきます。丁寧に教えてもらえるので、初心者や外国の方でも大丈夫。対象年齢は小学校4年生以上です。
製作物によって異なりますが、コースターは無料で体験できます。刺し方を覚えてから伝統衣装を見ると、また印象が変わります。
アイヌ料理「チェㇷ゚オハウ」
園内には複数のショップやレストランがあります。私は「カフェリㇺセ」でアイヌ料理「チェㇷ゚オハウ」を体験。
どう発音したらいいのか迷ってしまいますが、鮭と野菜の汁物のこと。人気漫画『ゴールデンカムイ』でもオハウは繰り返し登場し、味噌を使わないために少々味つけが物足りないことなどがコミカルに描かれています。
「チェㇷ゚オハウセット」(税込1200円)にすると、ラタシケㇷ゚(和え物)やコンプシト(団子)などのついた膳になります。
食べてみると、本当にあっさりスープ。ほぼ素材と塩の味だけです。山に自生する行者ニンニクなどは使われますが、味噌や醤油といった調味料を作る文化はなかったそう。狩りで獲れた野生動物を余さず調理する、いまでいうジビエも有名ですね。
もうひとつ、凍らせたジャガイモで作る「ペネイモ」(税込400円)に挑戦しました。必要なときに焼いて食べる保存食だそう。
これは、独特な味!おやつのように甘いわけでもなく、おつまみのように塩っぱいわけでもなく、ジャガイモの味そのまま。もちもちと弾力があり、芋もちのような、おやきのような、実に素朴な食べ物です。
ウポポイ全体を通して
全体としては、アイヌの文化、信仰、言語、生活などを広く概観するビジターセンターと呼べるでしょう。深掘りするにはたしかに物足りなさがありますが、理解の入口となります。
「文化」や「歴史」という形のないものを定義したり展示したりする難しさも感じました。とりわけ歴史認識は、100人いれば100人異なります。国立である以上、一応の「正解」「正史」として示されるわけですが、同じアイヌの人々のあいだでも多様な見解があるのではないでしょうか。
あらゆるものにカムイ(神)が宿ると信じ、自然といかに共存するかを価値基準とする精神文化は、現代では失われつつある貴重なものです。アイヌの信仰や儀式に触れるたびに、私は心が震えるほど感動してしまいます。
もし日本からオオカミが絶滅していなかったら……とも夢想します。都市を離れて木々のざわめきを感じながら眠りたい、山や海で獲れたものを自分で調理して食べたいといった自然回帰願望は、キャンプブームにも通じるものが。
しかし、ことさらにアイヌ民族の神秘性を強調して理想化することや、悲劇の民族としてばかり捉えることは、物事の片面しか見ていないような気がします。つねにバランス感覚をもっていたいです。
「RVパークはこだて緑園通」
いろいろと思いを巡らせながら、スタート地点である函館に戻ってきました。各地を走った後だと人もクルマも商業施設も多く、驚くような大都会に感じます。
最初に立ち寄ったときは「また最後に戻ってくるから」と観光をスキップしていた私。今日こそは函館観光をするぞと意気込んでいたものの、天気は大雨……!函館山ロープウェイも運休になるほどの悪天候なのでした。明日に期待。
気を取り直して、函館市内観光におすすめのRVパークをご紹介します。
そもそも都市部は車中泊がしにくい環境にあります。道の駅やキャンプ場など、広い敷地が必要となる施設は郊外にあることがほとんどですし、RVパークも少ないです。
市街地のビジネスホテルなどが湯YOUパークに登録してくれることもありますが、逆に登録を解除することもあって、「気に入っていたところが使えなくなった!」という経験もあります。
そんな中、「RVパークはこだて緑園通」は函館市内にある希少な車中泊スポット。函館港や函館駅からは少し距離があり観光の中心地ではありませんが、五稜郭が近いです。
サイトは道路に面した、ごく普通のマンション駐車場といった雰囲気。人通りも多く、車外でくつろぐ目的にはあまり向きません。
そのぶんコンビニエンスストアもコインランドリーも至近。クルマで市内観光に出かけることも、市電に乗ることも容易です。夜でも街灯が明るく、開けた雰囲気ながら意外にも交通量が減って静かでした。
長期滞在者向けのホテル「ホテル緑園通」を本体としており、チェックインはホテルのフロントで行ないます。入浴は徒歩圏内の「にしき温泉」にて。フロントで割引券を扱っています。
ホテルの共有スペースにある清潔なトイレが24時間利用可能。
冬にはちょっと寒そうですが、屋外に水栓もあります。希望すれば汚水マスをダンプステーションとして使うこともできます。
人目のある市街地なので、ゆったりと過ごすことを目的としている人には少し窮屈かもしれません。逆に私のように、安全に眠ることを最優先事項にしている人には、とてもいいところです。
徒歩でコンビニにも飲食店も行けますし、ホテルの名前にもなっている緑園通は遊歩道のある緑地帯。近くの「函館麺や 一文字」は函館ラーメンの有名店だそう。まさに滞在しながら周囲を楽しめる都市型RVパークです。
施設詳細
- 名称:RVパークはこだて緑園通
- 住所:北海道函館市本通3丁目15-11
- 料金:1泊1台2000円(トレーラー、バスコンの場合は1泊1台2500円)
- 台数:6台
- 備考:100V電源1泊500円、ゴミ処理100円
最後の函館観光
昨夜の雨から一転、翌朝にはよく晴れました。今日は朝8時台のフェリーに乗るために、あまり時間がありません。
けれど函館には、早朝でも体験できることがいくつか!まずは函館朝市の有名店「きくよ食堂」を訪れました。早いところでは5時台からオープンする市場の食堂は、時間のない観光客にもぴったりです。
店舗限定「サーモン親子ユッケ ぶっかけ丼」(税込1738円)をオーダー。実は普段、生の海産物はあまり得意でない私。海の風味が強すぎると食べられないのですが、アボカドやめかぶの入った同メニューは和洋折衷の創作料理のようで食べやすく、絶品でした。
もちろん海鮮が好きな方には「かに丼」「うに丼」「えび丼」といった、これぞ北海道!なメニューもたくさんありますよ。うに・いくら・ほたての「元祖函館 巴丼」(税込2288円)が人気ナンバーワンだそうです。
フェリーの出港時間も近づき、最後の訪問地・函館山へ。
普段は混雑防止のため、夕方から夜までマイカー規制のある函館山ですが、それまでの時間はクルマで山頂付近まで行けます。
ロープウェイは営業時間前。駐車場には人気(ひとけ)がなく、静まりかえっています。
函館市街の絶景!山から続く傾斜地には洋館群の特徴的な屋根が見え、弓なりの湾では海面がキラキラと輝いています。本当に、本当に美しかった。
「もう帰るんだ……」という感慨とともに、胸にこみあげるものがありました。
朝食と景色を楽しみながらも、朝8時台のフェリーに十分に間に合いました。コンパクトな函館ゆえに実現できたルートでした。あとは一路、本州へ向かいます。