日本から一番近い米国の領土グアムのイメージは「ビーチでシュノーケリング、あるいはゴルフを楽しんだあと免税店でショッピングをして帰国するだけ」と考えている人が多いのではないでしょうか。しかし今、グアムを訪れる世界各国の旅行者の間ではマリン・アクティビティやゴルフだけではなく「ブーニー・ストンプス(Boonie Stomps)」をはじめとするトレッキングの人気が高まっています。
ブーニー・ストンプスとは毎週土曜日の朝9時からと金曜・土曜・日曜の午後5時から催行されているNPO団体主催のトレッキングツアーで、参加費用は大人5ドル、18歳以下の子供は無料と破格値。あちこちの国からの旅行者が集まる国際色豊かなツアーのため、世界各国の人たちと仲良くなれるチャンスがあります。しかし催行日時が限られているため、あらかじめSNSやガイドブックなどで情報を仕入れ、レンタカーを利用して個人でトレッキングに出かける人や、ひとりあたりの参加費が1万円前後と高めの日本人旅行者向けのオプショナルツアーに申込む人の方が多いように感じます。
グアムのトレッキングコースにはどんなものがある?
グアムのトレッキングコースは初心者向けの「簡単」から上級者向けの「超難関」まで5つに分かれており、レベルに合わせて大人から子供までグアムの秘境探究を楽しめるようになっています。また各レベルには山、海・川・滝、洞窟といったさまざまなジャンルのトレッキングスポットが用意されています。
いくつか例をあげるとグアムの先住民・古代チャモロ族の洞窟やラッテ(Latte “石”) とよばれる石跡の探訪、第二次世界大戦で使われた米軍戦車や戦闘機などの遺跡や日本軍の洞窟を探検するコース、米国指定歴史登録財を巡るコースなど。
生い茂った熱帯雨林のジャングルの奥地を流れる川で丸々と太ったウナギを見つけたり、洞窟で大きなヤシ蟹に遭遇したり、ビーチでイルカの大群が遊泳するのに出会ったりと日本のトレッキングでは味わえない楽しみが満載です。
またそれぞれのコースの所要時間が約半日、往復約4~6時間程度と短いのも魅力です。そして昨年秋くらいからグアムの浅瀬の水温が上がっているため、山登りで火照った身体をサンゴ礁に囲まれながら泳いで潜る天然の真水や淡水プールの人気が高く、家族連れの姿が目立つようになってきています。
さあ準備を始めましょう!
トレッキングツアーに参加する前に、きちんとした服装と持ち物を整えることでケガや事故を未然に防ぐことができます。
1.帽子・サングラス:グアムではほぼ一年中強い日差しが照りつけるため、帽子とサングラスは必需品。丘や崖を登り降りするコースが大半なので、失くす可能性が高い帽子とサングラスはストラップ付きがおすすめです。
2.服装:トレッキングに海や川・滝が含まれていないコースを選んだ場合でも、突然のシャワー(スコール)で濡れたり、ぬかるんだ道で赤土まみれになることが多いので「汚れても気にならない」通気性のあるTシャツやラッシュガードを水着の上から着用し、下半身はスパッツにショートパンツの重ね着など動きやすい服装が適しています。
3.靴:トレッキングはハイキングと違い、整備されていない自然の中の崖や坂などを登ったり降りたりしながら歩くコースが多いため、足首が固定できないビーチサンダルやビーチシューズ、ヒールのついた靴は不向きです。また履き慣れていない靴は靴ずれを起こすことがあるので、避けた方が良いでしょう。
4.持ち物:グアムのトレッキングでは1時間あたり500ミリリットル以上の汗をかくといわれています。ですので水またはスポーツドリンクを1〜2リットル、タオル・虫除けスプレー・日焼け止め・殺菌消毒薬・ジップバッグ・カメラ・塩飴など塩分補給ができるものや軽食などが収容できて、常に両手が空いている状態でいられるバッグパック(リュックサック)が理想的です。
おすすめトレッキングコースはこちら!
さて準備が整ったところで、トレッキングコースを紹介していきましょう。
サウザンド・ステップス
グアム中西部・マンギラオ地区(Thousand Steps, Mangilao)
実際に数えてみたところ1000段の1/4程度の階段しかありませんでしたが、サウザンド以上に感じられる傾斜のきつい階段と坂道を降りていきます。鬱蒼としたジャングルを突き進んだ先にある長い階段を降りきった先には、太平洋の手付かずの青さと島北部にはるかに広がるジャングルの植生が奏でるグアムの言葉・チャモロ語で「タグアン(Tagu’an “隠れ家”)」とよばれる絶景が待っています。お天気が良い日にはイルカの群れが泳ぐ姿に出会えることがあるといわれているスポットです。
アグエ・コーブ
グアム北西部・フィネガザン地区(Ague Cove, Finegayan)
在沖縄米軍海兵隊のグアム移転に伴い、実弾射撃場など米軍施設の新設が決まり、近い将来、米軍関係者以外の立入りができなくアグエ・コーブ。ここは野生のイルカの群れに遭遇できる確率がとても高いことで有名なスポットです。またアグエ・コーブは天然記念物に指定されている紫サンゴや、絶滅危惧種であるグアムの島鳥ココバード(グアムクイナ)を見ることができる稀少な入り江(コーブ)で「秘密のラグーン」としても有名なところです。しかし米軍施設ができることによって、グアムの美しい自然が破壊されることが危惧されています。
パガット・ケーブ
グアム中西部・アダカオ地区(Pagat Cave, Adacao)
グアムのパワースポットのひとつで、神秘的な碧青の輝きを放つ透明度の高い泉があります。日本のメディアやSNSでも取り上げられているためご存知の方も多いと思いますが、実際に訪れる旅行者数があまり多くないためか、手つかずの自然が残っているところです。パガット・ケーブの水は、石灰岩の割れ目からしみ込んだ海水が真水に混じっているもので、太陽の光が反射して青く見えることから「碧の洞窟」とよばれています。
プリースト・プールス
グアム最南端・メリッソ地区(Priest’s Pools, Merizo)
第二次世界大戦中、日本軍によってチャモロ族36人の虐殺が行なわれた悲惨な歴史が残る慰霊の地ファハの丘を登り、ヘブンリー・ヒルとよばれる小高い草原にあるのが大小8つからなる溶岩が自然の力で浸食されてできた天然の淡水プールです。プリースト・プールスは16世紀後半、カトリック教の司祭や聖職者が島民たちに洗礼を施す際に使われていた場所だったといわれており、プリースト(聖職者)の名前が残っています。
フォンテ・ダム
グアム中東部・ニミッツ地区(Fonte Dam, Nimitz)
1910年米軍によって建設された高さ約7メートル、幅約5メートル、赤レンガ造りのグアム最古の小さなダムで、2014年に米国指定歴史登録財に指定されています。今はもう稼働していませんが、貯水池に貯まった雨水が川幅4〜5メートルのフォンテ・リバーに流れ出ているその先には高さ3メートルほどの白糸の滝が行く手を阻んでいます。そのため滝壺に飛び込むか、来た道を引き返す以外には先に進めないコースです。滝壺の浅瀬では天然の海老やウナギを見ることができるほか、帰路、急斜面の途中では野生の蘭を眺めることができます。
ガダオの洞窟
グアム南部・イナラハン(Gadao’s Cave, Inarajan)
幅3メートル、高さ2メートル、奥行き6メートルの洞窟内には今から約3000年前、グアムの先住民であるチャモロ族によって描かれたと推測される大小50前後のさまざまなピクトグラム(幾何学的文様の壁画)が遺っています。洞窟を入った左側下方にある人物はイナラハン村のガダオとトムホム村(Tomhom、現在のタモン)のマラグアニャ(Malaguana)という名前の2人が力較べをした時の様子を描いたものだといわれています。ガダオは名乗らなかったため、マラグアニャは噂に聞くガダオ以外にもココナッツの木を揺さぶってすべての実を落とし、その実を素手で割ることができる村人がいることに驚き、ガダオの力強さを想像して身震いし、家に帰ることを決めたといいます。グアム最強といわれた2人の酋長による力の競い合いは、実際には行なわれなかったと伝えられています。
今回ご紹介した数か所以外にもグアムには魅力的なトレッキングスポットがたくさんありますが、日本のように標高の高い山を登るコースはありません。しかし常夏の島グアムでのトレッキングは暑さと半端ない湿気との勝負ですので、精神力と体力がない人にはおすすめできません。そしていずれのトレッキングスポットも文化遺産や自然保護のため落書きやイタズラは厳禁、グアムの自然の中にある動植物や砂、石などをグアム政府および米国連邦政府の許可なく島外に持ち帰ることは固く禁じられています。ぜひマナーを守って、楽しいトレッキングをしていただきたいと思います。
陣内 真佐子
(じんない・まさこ)文筆家。1996年3月より家族と共にグアムに移住。グアム大学で3年半の学び直し生活を送った後、00年に米国永住権を取得しグアム政府観光局などに勤務。10年にはグアム政府公認ガイド資格を取得。現在はラジオ出演のほか、05年から手掛けている各種雑誌やウェブ記事の執筆や翻訳活動をしている。海外書き人クラブ会員。https://www.kaigaikakibito.com/