今年も中秋の名月がやってきます。今年は9月10日ですからまだ夏の暑さが残っているかもしれませんが、しばし月を愛でて涼みましょう。満月は、空に上がったところが美しいのですが、東の空、昇りはじめから観察するとより楽しめます。
満月は東の空、昇りはじめから見るのが楽しい
地平線に近い満月は、このようにつぶれて見えます。これは太陽も同じで、大気の影響を受けてこのようにつぶれて見えるのです。
地球の大気を通った光は屈折するため、お風呂に入ると足が浮き上がって見えるのと同じように、天体は少しだけ浮き上がって見えています。地平線に近づくほどこの効果は強くなるので、地平線付近では月も太陽もつぶれて見えるわけです。
実際には、これに大気のゆらぎによる変形が加わります。日によっても、場所によっても、大気のゆらぎ具合は異なりますから、月の出の形も、いつも同じというわけではありません。
また、地平線に近い月は赤く見えます。これも大気の影響です。色も時期によって、また、大気の汚れ具合によって微妙に違ってきます。東の空に昇る赤みがかった満月は、それだけで迫力がありますが、時期や場所による変化を楽しんで見てください。
そして昇りはじめの月は大きく見えますが、これは心理的な影響で、大気の影響ではありません。地平線に近いほど周囲に建物が多く、それと比較してしまうため、天体が大きく見えるのです。見かけ上の月の大きさは、伸ばした腕の先の5円玉の穴の中にすっぽり収まる程度です。地平線に近い大きく見える月に向かって5円玉を持って腕を伸ばして、確かめてみてください。
満月のクレーターは放射状に伸びる光に注目
月の楽しみはクレーターにあります。クレーターは月が欠けている時期、上弦や下弦が見頃ですが、満月に見頃になるクレーターもあります。
たしかに満月は月面いっぱいに太陽の光を受けているので、クレーターの凹凸が見にくく、のっぺりとしてしまいます。
その一方で、「光条」と呼ばれるクレーターから放射状に広がる白い筋が、きれいに明るく見えるのが満月のときです。有名な大きな光条は、ティコとコペルニクスの2つです。ティコは月面の南のほうにあります。コペルニクスは月の中央、西寄りに見えています。双眼鏡を向けると、まぶしいほどの月の輝きの中で、光条がいっそう明るく見えます。まるで噴火口のように見えますが、衝突によるクレーターです。
ちなみにティコは、「ケプラーの法則」を導き出す元になった天体観測データの観測者として知られる天文学者ティコ・ブラーエにちなみ、コペルニクスはいわずとしれた地動説の提唱者ニコラウス・コペルニクスにちなんだ名前です。有名なクレーターに天文界の有名人の名がついているのは、わかりやすいですね。ほかにも、アルキメデス、アリストテレスなど偉人たちの名も見られ、名前だけでも楽しめそうです。
クレーターは天体が衝突してできた地形のことをいいます。凹んでいる所もあれば、盛り上がっている所もあります。上の図のように、盛り上がった所は、アルプス山脈、ピレネー山脈、コーカサス山脈など、超メジャーな山脈の名がついています。
グレーに見えるところは比較的平たい場所で「海」と名づけられている場所が多いです。いわゆる月のウサギさんの耳のあたりが「豊の海」「危難の海」、顔のあたりが「静かの海」です。このあたりは、上弦や下弦など月が欠けている時期に双眼鏡を向けて見ると、おもしろい形が見られるでしょう。望遠鏡なら、100倍以下の低倍率のレンズで、とてもよく見えます。お気に入りのクレーターを見つけて、追っていくと楽しいですよ。
今年の中秋の名月では、西に土星、東に木星が昇っています。土星は衝を迎えたばかりで見頃が続いています。今年の中秋の名月は、豪華3点セットでお楽しみください。
構成/佐藤恵菜