パラサーファーへの讃歌
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    2022.09.06

    パラサーファーへの讃歌

    不定期でお届けしているシンガーソングライター東田トモヒロさんのエッセイ。今回のお話はパラサーフィンです。サーフィンをライフワークにしている東田さんと仲間のみなさんとの胸熱なストーリーを、どうぞ!

    パラサーフィンへの誘い、きっかけはクラシックカー

    皆さん、パラサーフィンという世界をご存知でしょうか。
    僕はこれまでね、ライブなどで出会ったパラサーファーの友人はいたけれど、彼らと一緒に実際に海に入って波乗りをした、あるいは彼らがサーフィンをする姿を見たという経験がありませんでした。

    ところがこの度縁あって、その素晴らしい世界に少しだけ触れさせてもらったのです。

    きっかけは「TRAD」という自分のシングル曲、そのミュージックビデオ(MV)の撮影の日の出来事でした。

    そのMVで、僕が少し気取った感じで運転しているクラシックなクルマがあるのですが、古いフォルクスワーゲンのゴルフカブリオレね。そのクルマの持ち主の方が、パラサーフィンの世界へと誘ってくれたんですね、僕を。

    余談ですが、かつて20代の頃、カブリオレではなかったけれど、同じ年代のフォルクスワーゲンゴルフに乗っていた事があります。当時はまだアマチュアのミュージシャンで、日雇いのアルバイト生活でしたから、当然あまりお金を持ちませんでした。

    車と東田トモヒロさん

    『TRAD』のミュージックビデオのワンシーン。腰掛けている白いクルマがフォルクスワーゲンのゴルフカブリオレ。このクルマです!

    しかしながらクルマって洋服みたいな側面もありますのでね、なんかカッコつけたいと。低予算でいいカッコするとなると、これすなわち中途半端に古い外車ということになります。これらは故障やトラブルが多いので、結果的に維持費がかかる可能性がある。燃費や装備もあまりよろしくないから価格が安くなるのでしょうね。ただ、見た目だけはイケていて雰囲気はあります。

    初期投資の少ない割に、なんとなくサマになるクルマ。これ今も変わらないかもしれませんが、半端な古さの外車ですね、間違いなく。購入後は案の定、何度もえらい目に遭いましたが。しかしながらカッコつけるっていう点においては、目標は達成されていました、紛れもなくね。

    湿気に弱いので、雨の日なんかはすぐエンストしたものです。修理するお金も工面できないので、だましだまし数年乗っていましたよ。最終的には、とあるバイパスにて、ボンネットから煙を吹き出したままチーン!

    いろんな意味で大変でしたが、思い出には残っています。その後も、またまた懲りずに古いBMWを超低価格で買って、同じような道を辿ってしまうわけなのですが。どうしてもヨーロッパ系のクルマにひかれちゃうんですね、僕。

    これ以上ないほど脱線しましたが、お話をパラサーフィンに戻します。撮影に使わせてもらったそのカブリオレの所有者は、リハビリ科のお医者さんで、僕の音楽の長年のファンでもあられる“しんちゃん先生”とおっしゃる方です、はい。大変魅力的な彼の活動は、ホームページやYoutubeでもご覧いただけます。

    ユニバのHP画像

    一般社団法人ユニバ https://univa-world.net/ しんちゃん先生こと田中慎一郎さんが代表理事を務める一般社団法人ユニバは、さまざまな遊び(スポーツ、ファッション、アート、旅行など)を通じて、障がい者の社会参加を促進することを目的として設立。病院で主治医として携わるだけでなく、社会でリハビリテーション科医師として活動することが必要だと感じ設立に至ったそうです。 

    撮影の日、しんちゃん先生はお昼の休憩時間、みんなでお弁当を食べているところにいらっしゃいました。挨拶もそこそこに、彼はこういう感じで切り出してこられたのです。
    「東田さん、今度静岡でパラサーフィンの大会を開催するのですが、そのテーマソングを作ってくれませんか」とね。

    いやもう僕は二つ返事でしたね、「OK!」と!
    ところでなんで二つ返事って言うんでしょうね?快諾なのだから、大抵返事はキッパリ一回なはずなのに。日本語ってなんか深い。

    あっという間に完成したテーマソング

    さて、独断で即答したのには訳がありましてね。僕には車椅子の生活をしながら、果敢にもサーフィンを続けている知人がいたのです。岡山と愛知に。

    そのうち愛知の方はカフェのオーナーでね、マサくんといいます。マサくんのお店では数回ライブをやらせてもらった事がありました。波乗りを続けているのはもちろん知っていたのですが、自分も何か実感できる形で応援したいなーって漠然と思っていたのですよ、長い事。しかしながら、なかなか自分できっかけ見つけて行動に移す事ができなかったのですね。そこに、こんな依頼が思いもよらず舞い込んで来たのです。そりゃもう「やります、やらせてください!」ってなっちゃいましたね。あっ、返事二つだわ。

    人のために何か行動するって、きっかけもなくなかなかできることではありません、僕にとって。

    だから心から尊敬しています、僕は皆さんのことを。自ら進んでボランティアなどに参加されたり、寄付という形でその気持ちを表したりされる方々のことを。そんな方々の姿にたくさん触れて来ましたが、もうこれ神のみこころに近いものを感じずにはいられませんよ。

    自分が細々と続けている「Change the World」(https://www.facebook.com/changetheworldoffice)という活動がありますが、それなんかも、そういう神の化身と見紛うばかりの皆さんのお気持ちで成り立っています。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

    さてテーマソングですが、これがあっという間に出来上がりました。メロディとコード進行など曲のアウトラインは、依頼を受けた翌日に。そして歌詞はそれから2、3日で。

    レコーディングをしてマスタリングという詰めの作業を終えるまで、1週間も掛からなかったような気がします。自分でも驚くほどの早業でしたね。”だいちゃん”という素晴らしいエンジニアのおかげでもありますが。そうしてできた曲が、『LET YOU RELEASE』。
    2年越しで取り組んでいるアルバムのレコーディングの歌入れは遅々として進まないのですが、この曲はあっという間の完成でした。多分そういう運命にある曲だったのかな。

    「海の上の方が自由なんすよ、俺」

    そして曲ができて程なく、しんちゃん先生の指揮のもと、やはりMVを撮影しようということになりました。僕はそこでマサくんのことを真っ先に思ったわけです。彼と一緒にサーフィンをする映像はどうだろうかと。先生も監督も是非にというお返事でしたのでね、打ち合わせのその場からマサくんに電話をかけました。単刀直入に、一緒に波乗りする姿を、映像に収めないかと。

    サーフボードを持って海へ向かう

    海に向かう東田さんと、パラサーファーの小林マサさんこと小林征郁さん。パラサーフィンの日本代表選手でもあり、普段は愛知県東海市にあるPeace Cafeのオーナー。

    そしたら彼もこれまた、「是非やりましょう!いいんですか僕で」なんて言ってくれてね、もうこれ全てがいわゆるひとつのトントン拍子。
    …しかしトントン拍子って変な言葉だな。4拍子あるいは3拍子などはありますが、音楽的にトントン拍子って拍子は無いし。

    ただここで、電話を切ってはたと気がついたことがあったのです。
    僕はもしかしたらマサくんにものすごく失礼なことを言ったのではないかと。といいますのも、パラサーファーのことを何も知らないままに、自分本意な申し出をしてしまったのではないかとね、思ったのです。

    浜を歩く

    MV撮影中の一コマ。海に向かうふたり。

    ネットでパラサーフィンの画像をいくつか検索して調べました。そしたらね、一人のパラサーファーの周りに、何人ものサポーターらしき人たちが写真に収まっているものを発見したのです。それは多くの人たちが、ビーチでそのパラサーファーのパフォーマンスのためのさまざまな手助けをしている写真でした。

    このようなスタッフィングのことや、一つの行為のために要する人員や条件なんかも全く考えずに、普通にいつもの仲間を海へ誘うみたいにね、電話してしまって。僕は数日後、もう一度電話しました。そのことを詫びるためにね。
    「マサくんごめん。何も考えずに誘っちゃったけど、いくら人手が要るとか、その方々の日程とか全く考えずに、無責任でした」と。

    そしたら彼はこう答えたのですよ。
    「大丈夫っすよ、いつも一人で行ってるから。海までも自分でハイハイして行きますんで」と。

    サーフィン風景

    MVの撮影中の一コマ。波待ち中の東田さん(右上)と、テイクオフしたマサさん。マサさんはニースタンディングで板を操る。

    僕はもう安心したのと同時にね、何と無く想像上で浮かび上がる彼のその姿に、逞しさとひたむきさと熱さを感じました。素晴らしいな、スゲーなとね。さっきまで少し不安だった撮影の日が、彼のその言葉のおかげでね、楽しみでたまらなくなってしまいました。

    あとはMVご覧になっていただければ、全てそこに収まっています、はい。
    撮影当日は雨予報で、波も無いということだったので、ほとんど諦めて臨みましたが、現場に到着してみれば、どういうわけだか晴れている上に波もある。

    僕はマサくんに対して、自分にできる必要最小限で最大に自然な手助けだけをするってことを心に決めていました。

    一緒に海に入る瞬間に、彼が言った言葉は、たぶんね、一生忘れることはないでしょう。

    「海の上の方が自由なんすよ、俺」

    それからはもう僕らは、ただの二人のサーファーです。マサくんは僕の倍のスピードで沖に出てゲッティングアウトに成功し、トータル僕の三倍の数の波に乗っていましたね。もう悔しくなっちゃうくらいにね。さすが日本代表のパラサーファーです。今でもあの日の煌めくような水面が目に焼き付いています。

    マサくんと撮ったMVがこちら↓↓↓

     

    晴れの舞台、誰もがピースフルな未来へ

    パラサーフィンフェスタの様子

    パラサーフィンの大会で活躍する選手たち。当日は世界で活躍するパラサーファーも集結、体験会なども行なわれた。

    そして時は流れ、この7月にしんちゃん先生の一般社団法人ユニバ主催のパラサーフィンの全国大会「第1回静波パラサーフィンフェスタ」が、静岡県牧之原市にある静波サーフスタジアムで華々しく開催されました。

    静波パラサーフィンフェスタの様子

    選手は、膝立ちや腹ばいなど体の状態に応じたスタイルでライディングする。

    パラサーフィンフェスタでのライブ

    大会当日は、車椅子のシンガー・ジャリさんとのセッション!

    その中のあるクラスで、マサくんは見事に優勝しました。彼のみならず、参加された皆さんどなたも素晴らしかった。僕も大会当日にライブという形で関わらせていただきましたが、歓声と笑顔溢れるとてもピースフルな大会でした。

    自分自身に問いかけます。僕は彼らのように、強く前向きに生きているだろうかと。日々の出来事、身近な人への感謝と思いやりを忘れていないだろうかと。マサくんやパラサーファーの皆さん、そしてパラサーフィンを支えているスタッフの皆さんから、言葉以上に多くのことを学んだような気がしています。

    表彰式

    大会で見事優勝したマサさん。

    マサくんはこうも言っていました。「海で僕らを見かけたら、遠慮せず積極的に声をかけて、手助けしてもらえるとありがたいです」と。

    静波パラサーフィンフェスタ集合写真

    大いに盛り上がった第1回静波パラサーフィンフェスタ。

    ハンディキャップを持つ人と僕らが、このようなパラスポーツをきっかけに、より自然に支え合えたら、お互いにとても気持ちいいでしょうね。

    今月のおすすめアウトドアミュージック

    ジョージ・ハリスン「My Sweet Load
    この曲を聴くと、大自然への感謝が生まれ、全てに優しくなれる気がするかも。

    東田トモヒロNEWS

    GAKU-MC × 東田トモヒロ THE DAY 2022開催!
    最強のアウトドアコンビGAKU-MCと東田トモヒロがタッグを組み、キャンピングカーに音楽機材とサーフボードを積み込み、2021年4月から全国10箇所を周った、ツアー「キャンピングカーであなたの街へ。昨年大好評に終わった、2人のコラボが再び!今年は1日限定で、逗子surfersで開催です!
    日程:2022年9月11日(日)  open 16:00 /start 17:00
    会場:逗子 surfers
    問い合わせ:info@mifa.co.jp

    サブスクリプションコミュニティTSC(Tomo Surf Club)
    シンガーソングライター東田トモヒロとつくる、持続可能な音楽のコミュニティです。
    月額制のサブスクリプションで、独自の配信ライブや、インターネットラジオ配信等いくつかのオリジナルコンテンツを用意して、みなさんとコミュニケーションを図っています。ぜひご参加ください。
    https://community.camp-fire.jp/projects/view/338326

     

    私が書きました!
    シンガーソングライター
    東田トモヒロ
    1972年生まれ熊本市在住。ニューヨークでのレコーディングを経て2003年にメジャーデビュー。旅とサーフィン、スノーボーディングをこよなく愛し、そのオーガニックなサウンドを通して「LOVE&FREEDOM」を発信し続けるシンガーソングライター。

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