【History】『b*p』第2号/カリスマに頼らずに、自分たちの言葉で「おいしい家庭料理」のような雑誌を作りたいと思った。
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    2018.07.18

    【History】『b*p』第2号/カリスマに頼らずに、自分たちの言葉で「おいしい家庭料理」のような雑誌を作りたいと思った。

    b*p

    『b*p』は、旅とフェスと楽しいジンセイのための雑誌です。現在までに10号の雑誌を刊行してきました。ところで、そもそも『b*p』とは何なのか? どのように始まり、現在に至るのか? このコーナーでは、『b*p』の歴史、成り立ちについて、1号ずつご紹介していきたいと思います。

     創刊号の反省を土台に、新たに仲間たちを募り、2005年の夏に、『b*p』第2号を発売しました。
     
     この号から、雑誌のサイズがひとまわりコンパクトになりました。

    ↑「島旅」をテーマにした特集にちなんで、リアルな旅の中で撮影された、私的なスナップショットが表紙に。発売直前に渋谷や新宿のレコード店・書店をめぐり、いくつかの表紙候補ビジュアルについて意見を聞いたうえで、この写真に決定しました(ご協力くださったみなさま、ありがとうございました!)。

     

    『b*p』創刊号の反省点

     謎の鳥のイラストが表紙を飾った『b*p』創刊号は、渋谷新宿のタワーレコードさんや、ブックファーストさんなどが店頭に大きなポスターを掲示してくださり、PR用のフリーペーパーをレジ前で配布していただくなど、全国の多くの書店さんに多大なる応援をしていただきました。本当にありがとうございました!

     しかしながら、編集チームとしては、反省点もいろいろとあったのです。

     前回書いたように、そもそもは「フジロックがすごいことになっているぞ!」ということで、始まった雑誌でした。 フジロックのすごい点は、新しいミュージシャンも、伝説のミュージシャンも、同じステージに登場すること。 ロックも、パンクも、ヒップホップも、テクノも、ワールドミュージックも、ジャズも、フォーキーな弾き語りも、あらゆる音楽があって、ジャンルの垣根を越えて自由に楽しめることです。

     単なる音楽イベントというだけでなくて、今までにない自由でのびのびとした感覚、圧倒的にスケールが大きくて世界中と繋がっているような感覚、ピースフルな解放感をものすごい熱量で日本に伝えたのがフジロックでした。

     当時は、ようやく「フェス」という言葉が定着してきて、いままでとまったく違う音楽の楽しみ方や、アウトドアが盛り上がって来そうな気配がむんむんしておりました。みんながiPodを使いはじめ、インターネットでは、「ほぼ日」が話題になりはじめていました。早い人はブログを始めていたけれど、ミクシィやフェイスブックは誰もやっていなかった時代。まだまだiモードと掲示板が主流の時代です。

     そんな空気のなかで作り上げた1号目でした。

     夏フェスをテーマに特集した雑誌を出せた。そこまではよかったのだけど、発売から時間がたつにつれ、夕暮れどきの西日がまぶしい横断歩道を渡っているときなどに、ふと思うのです。

    「はたして、あの鳥の表紙でよかったのだろうか?」

    「あの構成が、はたしてベストだったのだろうか?」

     うーむ、うーむ、……というわけです。

     じつは、『リラックス』の元編集長・岡本仁さんに代官山の喫茶店で一度だけお目にかかったことがあるのですが(コーヒーブレイクは大切ですね)、そのときに岡本さんから、アメリカの某有名アーティストM氏が来日した時に、書店で鳥の表紙の『b*p』を見つけて手に取り、パラパラ立ち読みした後に、ニヤリと笑って一冊購入。うれしそうにアメリカに持ち帰っていたよ、という話を聞きました。

     もちろん、めちゃくちゃ嬉しくて、心の中でガッツポーズ100万回しました。

     なんですが、それでもはたしてあの表紙、あの構成でよかったのだろうか? という思いはぬぐいきれなかったのです。

     

    雑誌って「4次元のプロダクツ」ではないだろうか?

     まったく新しい雑誌を作りたい! ページをめくるごとにわくわくできるような雑誌、ことあるごとに読み直すことができるような雑誌を。できることなら、あのときのフジロックに集まっていた、みんなとともに楽しめる雑誌を作りたい! そんなことを思って、『b*p』は生まれました。

     カセットテープやクライミングのコラムがあり、ウッドストックから中津川フォークジャンボリーに至るフェスの歴史グラビアがあり、ファッションページがあり、テントやiPodやラジカセがあり、バーベキュー料理があり。たぶん日本で最初期のフェス雑誌だった『b*p』には、フェス勃興期の楽しい気分がたくさん詰まっていました。

     だけど、おもしろいと思われる内容を詰め込むだけで、力尽きてしまっていなかったでしょうか。ぼくら作り手の「独りよがり」が強すぎたんじゃないか。作っているときはめちゃくちゃおもしろかったけれど、手に取ってくれる人にとっては、おもしろい雑誌ではなかったんじゃないだろうか?

     夜な夜な編集部近くの神保町の街にくりだして、ビールを飲みながらあーだこーだと管を巻くうちに、そうした反省点が浮かび上がってきたのです。

     要素Aと要素Bと要素Cを袋に詰めただけの「A+B+C」という状態では、まったくもっておもしろい雑誌にならないということに、今さらのように気づいたのでした。

     雑誌は、2次元のプロダクツではありません。表紙があり、厚みがあり、ページをめくるときの紙の手触りや、インクの香りがある。「3次元のプロダクツ」です。

     そして、ほんとうにおもしろい雑誌を読むと、心の中に、現実の時間とは別の、もうひとつの時間が流れ出す。この時間を加味すると、「4次元のプロダクツ」だといえます。

     ページをめくりながら、心が揺り動かされて、AとBとCが、θとかφに昇華していくような、そんな雑誌を作りたい。そこまで挑戦しないならば、ふだんの担当雑誌の編集業務のほかに、わざわざ『b*p』を作る意味はないんじゃないか。

     ぼくらがめざしたのは、旬のいいネタをたくさん詰め込んだ雑誌や、おしゃれなこと、かっこいいことなどの最先端情報が載っているだけの雑誌ではありません。もっと、人の気持ちや、考え方や、わくわく感が、熱く、深く伝わるような雑誌、ネタとネタが有機的につながって、読む人を揺り動かすような、そんな雑誌を作ることができないだろうか。

     ぼくらがめざすは、おいしい家庭料理のような雑誌でした。

    『b*p』のミッションとステートメント

     
     そんなこんなの反省と議論の日々を経て、『b*p』第2号から、目次ページに、b*pのミッション・ステートメントを掲載しはじめました。この文章は、号を経るごとにマイナーチェンジをしていきますが、基本の考え方は変わりません。

     

    Function〔効用〕

    b*pは「読むと旅に出たくなる雑誌」です。どこかに出かけたくなります。なにかをはじめたくなります。なにかを探したくなります。まだじぶんが知らないものに触れてインスパイアされたい、なんてことを思います。むくむくと元気がわいてきます。このままでいいのだろうか? などと考えることもあります。そして、ひょっとすると、ジンセイのもやもやが解消できるかもしれません。

    Purpose〔目的〕

    今の時代、検索できない情報とは何でしょう? 情報はあふれているけれど、たくさんありすぎて、逆にぼくらにとって本当に大切な言葉が見つけにくくなっているんじゃないかとも思うのです。みんなが心の深いところで考えていること。旅に出たときにいつも感じる「お金じゃない豊かさ」のこと。「ジンセイどのように生きていくべきか」ということ。青春のもやもや、などなど。旅をするといろんなことを考えます。旅をして、きちんと深く考えて、そして考えたことをシェアしていくための場、それがb*pです。

    Method〔方法〕

    b*pは、旅が好きで好きでしかたがない旅好きたちが結集してつくりました。雑誌作りの手法として、ぼくらは「カリスマシステム」をとりません。雑誌の原点に立ち返り、伝えるべきことを編集スタッフ自身が直接、自分の言葉で伝えます。ぼくらがほんとうに会いたい人に会い、じっくりと話を聞いて記事を書いています。できるだけ正直でありたい、客観的であるより主観的でありたい、と思っています。だから、記事には「ぼく」とか「私」がよく出てきます。「コイツ誰だ?」と思ったら、96~98ページをご覧ください。

    これらの文章は、ぼくらが夜な夜な神保町ビール反省会で議論してきたことのひとまずの結論でして、「おもしろい雑誌とは何か?」ということについての、当時のぼくらなりの考え方をまとめたものです。今読むと、つたない点もたくさんありますが、いつだって、この原点に立ち返って、雑誌作り、記事作りをしていきたいと思っています。

     

    『b*p』vol.02 「今しかできない旅。ジンセイを変える旅。」の巻

    そんなこんなで2005年夏に生まれた第2号、特集は「島旅」、「ゲストハウス」「フェス」「ボルダリング」「みそ」などを取材しました。

     

    【目次】

    ■特集/今しかできない旅。ジンセイを変える旅。

    ・軍艦島/
    ぼくらの旅は、一冊の写真集からはじまった

    ・八重山諸島/
    23歳の夏の大発見。人は、会うべきときに会うべき人と出会える。
    39歳、仕事をやめて八重山へ旅に出た

    ・黒島/
    隠れキリシタンの島で私は「5年後の自分」を想像した

    ・御蔵島/
    東京が世界に誇る巨樹とイルカの島

    ・小笠原諸島・父島/
    「日本人とは何か」について考えさせられる島

    ・牛島/
    ちいさな島の古民家ゲストハウス物語

    ・硫黄島/
    温泉ジャンベ島の7色の海

    ・佐渡島/
    オートバイに乗って少年時代に迷い込んだ

    ・軍艦島/
    1972年、スーパーカブで旅立ち、軍艦島で6ヶ月アルバイトした男

    ・屋久島/
    ジンセイにへこたれたときは屋久島が効きます

    ・式根島/
    曲がりくねる道と海、それ以外は何もない。これでも東京なんだ

    ・ぼくらのジンセイを変える島BEST3
    トリの島/サーフトリップ初心者向きの島/宮本常一になれる島/メシがうまい民宿がある島/失恋したときに行く島/魚がたくさん獲れる島/すごい温泉がある島/旅人がやたらと集まる島/新しい恋を探しにいく島/外国人バックパッカーが絶賛する島/島人と仲良くなれる島/祭の島!!/なかなか行けない島/知られざる東京近郊のプチ島/小説家をめざす前に行くべき島/硬派な男になるための島

    ・ぜったい友達ができるゲストハウス
    フェリーありあけ/月光荘/ビーチ・バム/ナゴゲストハウス/沖縄ゲストハウス/東寺庵/UNO HOUSE/五条ゲストハウス/京のen/ゲストハウス丸/小世界旅社

    ・夏フェスでジンセイ変えませんか?
    フジロック・フェスティバル/ライジングサンロックフェスティバル/Camp in 朝霧JAM

    ・2005夏フェス・カレンダー

    ・サーフィンで旅すると当然ジンセイ変わります

    ・史上最強のバックパック探し(32個を商品テスト)
    世界一周したいあなたに/フジロックからガンジスまでいろいろ行きたいあなたに/このサイズを選んだあなたは「旅の玄人」/衣食住と夢と希望をぜんぶ詰め込んで風のように生きたいあなたに

    ・「夏フェス・夏旅に持っていきたいモノ」全リスト

     

    ■インタビュー/「はじめての一人旅」について。

    ・大竹伸朗(美術作家)

    ・長田 弘(詩人)

    ・野田知佑(作家・カヌーイスト)

    ・平田オリザ(劇作家・演出家)

    ・細野晴臣(ミュージシャン)

    ・b*p編集スタッフたちの「はじめての一人旅」

     

    ■垂直の旅/ボルダリングはかなりジンセイ変わりそうです

    ・小山田大「自然の岩に体ひとつで挑む。それがいちばん楽しい」

    ・尾川智子「宇宙飛行士を夢見る少女が見つけた、ボルダリングの世界と夢」

    ・ジンセイを変える! 全国ボルダリングジムガイド33

     

    ■キッチンの旅/みそで、ジンセイ変わります

    ・キミのジンセイを変えるみそは、これだ!! 
    ”噌ムリエ”3人が選ぶ日本全国ウマイみそ16

    ・高山なおみさんのみそ料理
    じゃがいもとカリフラワーのみそグラタン/みそチーズディップ・トースト/豚バラみそ炒め丼/具だくさんのみそスープ

     

    ■読む旅・見る旅/旅に出たくなる本&映画102

    KiKi/EYE/久保田浩之/熊谷隆志/サンディー/キャンドル・ジュン/ホーボージュン/高野寛/竹内朋康/龍村仁/津田知枝/土屋智哉/長野陽一/野村訓市/藤代冥砂/枡野浩一/三木剛志/山路和広

     

    ■本からはじまる旅/お日様に会いにいく

    ーー『地球の上に生きる』アリシア・ベイ・ローレルを訪ねて

     

    ■b*pコラム

    ・ジャック ・ジョンソン17歳の出来事

    ・日本一スゴい「盆おどり」を探せ!

    ・ニッポンの田舎道にはスーパーカブ

    ・バスに住んでみない?

    ・キミは佐世保バーガーを知っているか?

    ↑今しかできない旅特集内の<ぜったい友達ができるゲストハウス>。ゲストハウスが、当時めちゃくちゃ新鮮でした。(文=仲村玄徳 写真=福田磨弥)

    ↑フジロック、ライジングサン、朝霧、のフェスSNAP。(取材=仲村玄徳 写真=後藤匡人)

    ↑この号からスタートした「はじめての一人旅」インタビュー(文=山本遊子 写真提供=平田オリザ)。

    ぼくらが会いたい人に会いに行きました。ここに紹介している平田オリザさんの自転車の旅、2015年に亡くなった詩人の長田弘さんの若い頃の話、いまなお活躍されている細野晴臣さんの本音の話など、心に残る話。紙でじっくり読むからこそ、しみるような気持ちにさせられます。

    ↑1970年代のヒッピーコミューンでの自然生活の知恵を手書きのイラストで綴った名著『地球の上に生きる』の著者、アリシア・ベイ・ローレルさんに逢いに、ハワイを訪ねました。今読んでも新鮮なインタビュールポ。続きが読みたい!(文=麻生弘毅 写真=熊谷晃)

     冒頭に掲げた、ぼくらのミッションは達成されたのでしょうか? ほんとうにおもしろい雑誌をつくることができたのかはわかりませんが、今この号を読み直してみても、紙の雑誌だからできることがまだまだあると感じられる内容だと思います。自分たちが作ったことを忘れて、どこかに行きたい! と思ってしまいました。

     とにかく、必死で作った一冊。いつかまた、このような一冊を作りたいと思っています。

    →『b*p』第3号に続きます!(近日公開)

    →『b*p』第1号はこちら

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