いよいよフェスシーズン開幕ですね。今年もフジロック、サマソニ、ロッキンジャパン、ライジング、と、いろいろありますが、b*p編集部がいまいちばん気になっているフェスが「森、道、市場」です。
公式サイトでは「フェス」という言葉は使われておらず、「モノとごはんと音楽の市場」であり、「野外イベント」であると表現されていますが、ここでは便宜上「フェス」と呼ばせてください。
いったい「森、道、市場」の、どのあたりがスバラシイのか? 順を追ってご紹介していきましょう。
はじまりは、2011年、愛知県蒲郡市の三ヶ根山ロープウェイ山麓駅跡で「森、道、市場〜忘れてしまったモノをさがしに、森へ。〜」と題する小さなイベントとしてはじまりました。その後、回を追うごとに規模・内容を充実させて、今年で8回めを迎えます。
2014年からは会場をラグーナビーチ(大塚海浜緑地)に移し、福岡のサンセットライブなどと同様の海フェスに。すぐとなりには遊園地の観覧車があったりして、そよそよと海風に吹かれつつ、沈む夕日を眺めるという、このロケーションが、とにかく気持ちいいんですよね。
でも、「森、道、市場」がすごいのは、会場のすばらしさばかりではありません。もっと別のところに、このフェスの真骨頂があるのです。
「もの」と「交換」を通じて人々が交流する場
フジロックやロッキンジャパン、サマソニ、ライジングなど、王道のフェスといちばん違うのは、「市場」です。
「森、道、市場」というタイトルにも表現されているように、このフェスの最大の特徴は、「関係性」、つまり「人が集い交流すること」をいちばんのテーマに据えている点です。
ぼくらb*p取材班がはじめて「森、道、市場」を取材したのは、2015年でしたが、なにより驚いたのが、出店しているお店がほんとうに、すばらしいということ。会場についた途端、うわーいいなー! という気分になってしまいます。なんともいえないピースフルな雰囲気が満ちているんですよ。
まず、出店の数がものすごく多い。おー、いい感じのうつわだな〜、このTシャツあとで買おうかな〜、レコードも売ってるのだねぇ、なんだよあのすごい行列は? む、コーヒーのいいにおいが…、という感じでお店を見ながらうろついていると、あっというまに今どこにいるやらわからなくなってしまうのです。
↑うつわ、アクセサリー、靴、帽子、シャツ、金物、古道具、手づくりの一点物……などなど。日本各地のいろんな物を、作り手や仕入れ担当者自ら売っています。なんだかよくわからないものもあったりして、「これって、何ですか?」と訊いたら、いい感じの方言ことばで、返事が返ってきたりして。お店の人と話をするのもなかなか楽しいです。
イスラム圏の国々を訪れると、「スーク」と呼ばれる旧市街があって、いろんなお店がひしめいていますが、まるでスークにまきこまれたかのような独特の迷宮感覚が、「森、道、市場」の特徴だと思います。道にはよく迷うし、めざすステージになかなか着かなかったりもするのですが、そこはまさに「森」であり「市場」なのでして、だからこそのワクワク感に満ちています。
お店のディスプレイや建て付けも、それぞれのお店にクラフト感、手作り感があるんですよ。ホームセンター等で手に入る木材や、金具、布などを使って、それぞれ工夫してつくった「小さなお店」が並んでいる。そんななかを、そぞろ歩きするだけで心が浮き立ちます。
で、お店を眺めながら歩いてると、DIYのヒントも見つかるんですよ。実際、b*p取材班の私は、「森、道、市場」のブースやオープンテーブル(野外食堂)の建て付けにインスピレーションを得て、自宅で自作のテーブルを作りました。「ソーホース・ブラケット」という2×4材用の台座を作るための金具を使うと、すごく簡単に、なかなかおしゃれなテーブルができることがわかったからです。そういうDIY情報交換の場としても、このフェスを超えるイベントは、なかなかないんじゃないかと思います。
↑会場にはヘアサロン「INTERACTIVE HAIR SHOW」もオープン。前髪カット1000円、ヘアアレンジ2000円。手作りのDIY看板が、なんともよい感じです。
ごはんがおいしいマルシェ的空間
「フェスめし」はまずい! なんていうつもりはありません。フジロックでは、おいしい天然酵母パンや薪窯のピッツァが食べられるし、ケバブサンドや、焼きそば、プリンスホテルの特製カレーも、おいしいですよね。
ライジングサンロックフェスティバルでは、北海道のとれたて海鮮丼が食べられるし、トウモロコシやとれたての夏野菜はめちゃんこウマイ。おまけに羊肉を炭火で炙るジンギスカンバーベキューがお手頃価格で楽しめちゃいます。
でも、「森、道、市場」の食べもの屋台は、そういうフェスめしの従来イメージと、だいぶ違う。たとえば、味噌屋さんが味噌バーガーの屋台を、猟師さんがジビエ料理の屋台を、お米やさんが手で握ったおいしいおにぎりの屋台を、ビストロ店主がシチュー屋台を、全国各地のおいしいコーヒー屋さんがハンドドリップのコーヒースタンドを、といった具合なのです。
↑「THE Source Diner」のビーフボール(牛ステーキ丼)。アメリカはポートランドのクラフトビールやハードサイダーも売っていました。
↑目玉焼き料理専門ケータリングチーム「NEW YOLK」(ニューヨーク)の半熟目玉焼きを豪快にトッピングした、”世界一食べづらいホットドック”。
↑旅する八百屋さん「青果ミコト屋」は、おいしいとれたて野菜を使ったパッタイを販売。いつも列ができていて、めちゃくちゃ人気でした。
↑「SNEAKS by kakuozan larder & earlybirds breakfast」のハンバーガーショップ。名古屋の自転車ショップ「circles」にもお店を出している「earlybirds breakfast」の料理長や仲間たちが、めちゃいいチームワークで次々にバーガーを焼いていきます。見てるだけでもテンション上がる、なんだかとてもよい雰囲気でありました。
↑「澤田酒造」「角谷文治郎商店」「寺田本家」「冨田酒造」「なかじ」「みやもと糀店」「りんねしゃ」といった、日本各地の“発酵”のプロ・達人たちが集まって「発酵居酒屋」を開店。こちらは「発酵ソースの鶏丼」。
全国のいろんな街でいろんな飲食業に携わっている人たちが、ときには本業を休業して、「森、道、市場」に集い、たった2日間だけ、この世にありえない「夢の食堂街」が出現する。マルシェの拡大版、ごはんやさんバージョンといえばよいでしょうか。
お店の人も、じつに楽しそうに仕事をしている人が多い。こぢんまりしたブース内を機敏にうごきまわり、ひとつひとつ手を使って料理して、ていねいに手渡ししてくれます。ていねいだから、時間も当然かかります。
ぼくらが並んだコーヒー屋さんなんて、1杯10分くらいかけて、コーヒーをドリップしていました。行列がなかなか進まないんですが、みんな意外といらいらしないで、のんびりおしゃべりしながら待っているのですよ。そういうのんびりムードが、いい具合に作用して、何を食べてもおいしいフェスになっているのかもしれません。
原初的ワクワク感に満ちた「パサージュ」的な魅力
「森、道、市場」のもうひとつの特徴は、「森、道、市場」というフェスの中に、ほかのフェスが、友情出演的に出店していることです。
たとえば、毎夏、長野の湖畔で開かれている本のフェス「ALPS BOOK CAMP」(アルプス・ブック・キャンプ)。このフェスを主催する長野県・松本市の書店・カフェ「栞日」のほか、「ALPS BOOK CAMP」常連の古本屋さんやレコード屋さんが、束になって会場の一角を占めていて、そこを歩いていると、あたかも、架空の古書店街に迷い込んだような、ふしぎな気分になります。
↑松本のカフェ「amijok」の店主ご夫妻。手作りのマフィン、とってもおいしかったです!
↑移動本屋「BOOK TRUCK」。旅や暮らしをテーマにした、楽しい本がいろいろとあり、いつもにぎわっていました。
「ALPS BOOK CAMP」のお店が並ぶエリアを歩きながら思い出したのが、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンが遺した『パサージュ論』という古典的名著。
「パサージュ」(遊歩街)とは、19世紀のパリのあちこちに建設されたガラス屋根付きのアーケード街のことです。当時の最新流行の商品や世界各地から輸入された香水・雑貨類が並び、ボードレールやバルザックなどのクリエーターたち(遊民)が集うカフェもありました。それ自体が、ひとつの街、小世界になっていて、「中野ブロードウェイ」を何倍もおしゃれにしたような空間だったと思われます。
パサージュは、「遊民」(フラヌール)というあたらしい人種と、「遊歩」という新しい楽しみを生み出しました。小説家や詩人や画家、音楽家、自由人といった新しい芸術の担い手を生み、新聞や雑誌をさまざまなゴシップで盛り上げ、ポップカルチャー(大衆文化)を生み出す原動力になったのです。
いわばパサージュは、百貨店が生まれる前の当時最先端のお買い物空間だったわけですが、思想家ベンヤミンはパサージュに、商品がきらめきを帯び、物欲が駆動すしていく新しい感覚と、いろんな物や群衆が満ちあふれてることによる原初的なワクワク感、外なのに室内みたいなリラックスした雰囲気、などを見出しました。
そして、19世紀ユートピア思想の起源がパサージュにあるかもしれない、と分析します。これだけ素敵な商品と、語り合う場があるのなら、人々はもっと創造的に、豊かに生きていけるはず。未来はきっとすばらしいだろう。そんなふうにみんなが「夢」を抱くきっかけが、新しい商店街=パサージュにはありました。
そう、パサージュは「夢が生まれる場所」なのでした。
「森、道、市場」にも、パサージュと同じように、原初的なワクワク感があると思うんですよ。いまどきのショッピングセンターや、ネット通販にはないワクワク感が。
何か新しいことに出会えそうな感じ。新しいことをはじめることができそうな期待感。新しい夢を抱けそうな雰囲気。そういった雰囲気が満ち満ちた猥雑な街路を歩く中で、気になった本やレコード、雑貨などを手にとって、お店にいる作り手や、目利きのお兄さん・お姉さんと直にゆるーくおしゃべりできるのは、まさにこのフェスならではの楽しみだと思います。
新旧硬軟いりまじった音楽ラインナップ
ごはんがおいしくて、全国のものづくり作家の作品に出会える市場というと、いわゆる「ゆるふわほっこり」系なイベントと思われるかもしれません。たしかに、東京・調布市で毎年秋に開催されている、ものづくり市場的イベント「もみじ市」などにも通じる、心地いい空気感が特徴ではあります。
ただ、もみじ市などでは、音楽はあくまでも脇役。小さなステージでアコースティック系の音楽が演奏されるだけなのにたいし、「森、道、市場」の音楽は、ばりばりのメインコンテンツです。しっかりしたサウンドシステムが組まれ、本格的な大型ステージを含む4〜5のステージで展開されます。
出演者も、ほかのフェスとはひと味違う。過去の出演者を、ちょいっと振り返ってみますと…
【2012年】
toe
bonobos
OGRE TOU ASSHOLE
向井秀徳
mouse on the keys
…
【2013年】
TOKYO No.1 SOUL SET
ZAZEN BOYS(向井秀徳)
在日ファンク
bonobos
THA BLUE HERB
YOUR SONG IS GOOD
コトリンゴ
【2014年】
EGO-WRAPPIN’
RHYMESTER
ハンバートハンバート
在日ファンク
YOUR SONG IS GOOD
七尾旅人
トクマルシューゴ
コトリンゴ
羊毛とおはな
EYE
PUNPEE
…
【2015年】
toe
スチャダラパー
クラムボン
サニーデイ・サービス
SPECIAL OTHERS
cero
THE MICETEETH
ハンバートハンバート
□□□(いとうせいこう)
KIMONOS(向井秀徳)
ジム・オルーク
砂原良徳
OGRE TOU ASSHOLE
tofubeats
青葉市子
奇妙礼太郎
タテタカコ
Predawn
SIMI LAB
tricolor
…
【2016年】
大橋トリオ
スチャダラパー
SPECIAL OTHERS
Chara×韻シストBAND
キセル
ペトロールズ
水曜日のカンパネラ
蓮沼執太
Yogee New Waves
鎮座DOPENESS
呂布カルマ
トクマルシューゴ
空気公団
DJみそしるとMCごはん
Neco眠る
テニスコーツ
シャムキャッツ
…
【2017年】
Chara
クラムボン
大友良英スペシャルビッグバンド
高橋幸宏+鈴木慶一
KIRINJI
Gotch
チャットモンチー
安藤裕子
ハンバートハンバート
石野卓球
cero
THA BLUE HERB
YOUR SONG IS GOOD
DAOKO
青葉市子
ストレイテナー
テイトウワ
キュウソネコカミ
ペトロールズ
bonobos
バスピエ
MURO
bird
ミツメ
never young beach
KAKATO(環ROY+鎮座DOPENESS)
サイプレス上野とロベルト吉野
呂布カルマ
mabanua
…
気鋭の新人とレジェンドが、前衛と伝統が、絶妙に配された、じつに独特のラインナップ。とくに、ヒップホップ系の注目ミュージシャンが数多く出演している点も、「森、道、市場」の特徴ではないでしょうか。
海が見えるステージで演奏するミュージシャンたちは、とても気持ちよさそうに歌い、奏でます。市場での買い物に驚かされるフェスではありますが、このフェスの基本にあるのはやはり「音楽」なのだとb*p取材班は感じました。
で、2018年の「森、道、市場」の出演者はというと…、な、なるほど、あの人が出るんですね。すごいですね。
開催日は、5月12日、13日、14日。会場は、愛知県蒲郡市のラグーナビーチ(大塚海浜緑地)です。詳しくは、オフィシャルサイトを。
電車でも気軽に行けるし、最寄り駅からは歩いて会場入りできます。駐車場もすぐそばだし、キャンプサイトも広々している。東京や名古屋から日帰りで参加しても充分に楽しい。こんなにピースフルなフェス、たぶん、ほかにはありません!
森道市場2018
http://mori-michi-ichiba.info/
↑キャンプも楽しい「森、道、市場」。
◎撮影/関口佳代