10月8日(土)、9日(日)の2日間、『朝霧JAM』が行なわれた。『朝霧JAM』は、キャンプと音楽を同じ割合いで楽しむ「キャンプ・フェス」の先駆け的なイベントで、会場(静岡県富士宮市の朝霧アリーナ)からは富士山がどーんと見えてロケーション最高。ゆえに、毎年いくつかの伝説的ライブが誕生する。
今年2016年の『朝霧』は、オープン前からあいにくの雨模様だった。足場の悪いなかでテント設営を行なうなど、来場者にとってはハードな状況である。
しかし、ライブ中は奇跡的に雨は降らず、1日目は濃霧が会場を覆う幻想的な雰囲気のなか、夕暮れから「cero」、「toe」と日本のバンドが盛り上げ、トリは「トッド・テリエ」のライブセット。DJ MIXをしているようなスムーズな曲展開に、バンドならではの人間味のあるグルーヴ感をプラス。YMOの「ファイヤークラッカー」もさりげなく入れるなど、圧倒的なサウンドで会場を興奮の渦へと引き込んだ。
その後、深夜から再び雨が降り注いだものの、翌朝のライブスタート時には、雲の隙間から青空がちらりと見えた。
高原の風がきもちよく吹き抜けるムーンステージに、キャンプサイトを抜け出し、たくさん人が集まってくるなかで、昼の12:00に登場したのが、いま注目のシンガー・ソングライター「王舟」(オウ・シュウ)だった。
今回はフルートなども加わった総勢6人のバンド編成。前日からのキャンプで心も身体もすっかりリラックスした状態のオーディエンスに、1曲目からやわらかい歌声が自然にしみわたっていく。
2曲目は、電気グルーヴ「虹」のカヴァー。ライブで人気のこの曲は、電気グルーヴのバージョンとはまったく違っていて、のんびりと浮遊感がありながら、どこか都会的なイビツさのあるグッドミュージックだった。
「このままでいいんだよ」と肯定してくれるかのような優しい音楽。まだ寝ぼけまなこだったオーディエンスもエネルギーをもらった様子で、ステージ周辺にはほんわかと心地よい時間が流れていく。そのやわらかさに心をまかせていたら、あっという間にラストソングだった。
「今日も一日を楽しもう!」と、前向きな気分にさせてくれる魅力が、王舟の音楽にはあるような気がする。曇り空だった日曜日の高原にやがて、心地いい風がそよぎはじめ、夕暮れどきには赤富士もお目見え。今年の『朝霧JAM』もまた、来場者それぞれが何かしらの思い出を刻んだ、素敵なフェスとなった。
◎文=富山英三郎 写真=米田樹央
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