レンジローバーが「SUVの最高峰」と評される理由はなにか? すべての始まりは第2次世界大戦後、イギリスのローバー・カンパニー(ランドローバーの前身)がアメリカのJEEPに倣って開発したオフロード用4WD車、「ランドローバー・シリーズI」にある。そこで培われた4WD技術と、英国流高級車の味わいを融合させ、フォーマルなシーンだけでなく、狩猟やキャンプなどの幅広いライフスタイルを支えてきたランドローバーの各モデル。レンジローバーはその頂点として、最高峰の評価を受けている。
レンジローバーってどんなクルマ?
道なき道でも音を上げない4WD車、「ランドローバー・シリーズI」が登場したのが1948年。当時、そんなオフロード車を必要とした人には、広大な土地を所有し、そこをクルマで走り回りながら管理するような富裕層も多くいた。そんな彼らのために「ホテルに気兼ねなく乗り付け、家族でピクニックなどを楽しめるような4WDを作れないものか」という、実にシンプルだが斬新な発想から生まれたのがレンジローバーだ。
初代モデルが70年にデビューすると、高級SUVのパイオニアとして世界中で支持を得て、今回の新型は5代目となる。半世紀以上に渡り、ライフスタイルにも根ざした進化を続けてきた歴代モデルが継承したのは「世界最高レベルの4WD性能とシンプルなデザインのエクステリア、そして英国流仕上げの上質キャビン」という基本コンセプト。その揺るぎない個性があるからこそ、ロイヤルワラント(英王室御用達)にも選出され、英国のプライドとも言われているのだ。
9年ぶりにフルモデルチェンジが行なわれたレンジローバーのエクステリアは、簡素だと言われていた旧型以上にあっさり。まるで四角いバターの固まりの角を、わずかにそぎ落としたかのような仕上がりだ。虚飾を徹底して廃し、突起物をほとんどなくしたエクステリアからは、独特のエレガントさと近未来感を感じるほど。その上で、少し立ち気味で天地に広いウィンドーや、クルマのサイドを確認しやすそうなウエストラインの高さなど、実用性を重んじた伝統的な配慮は、しっかりと受け継がれている。
この良好な視界とスクエアはボディのおかげで、全長5m、2.2m超えの大柄なボディでありながら、車両感覚は実に掴みやすい。込み入った市街地だけでなく、キャンプサイトなどでも、取り回しのストレスはかなり軽減される。さらに注目したいポイントは、オールホイールステア、つまり4WS(4輪操舵)であること。低速ではリアタイヤがフロントタイヤとは逆向きに切れることで、Uターン時などで回転半径を小さくできる4WS。新型ではスタンダードホイールベース(2997mm)と、居住空間がより広くなるロングホイールベース(3197mm)の2タイプを選択できるのだが、その最小回転半径はどちらも長め。その上でスタンダードは5.7m、ロングでも6.1mにターニングサークルを収められたのは、この4WSによるところが大きい。
「ナノイーX」搭載の快適空間
ゆとりあるホイールベースを確保したことで室内空間にも余裕が生まれる。ライフスタイルのシーンに合わせ4名、5名、7名(3列シート)のシートレイアウトから選ぶことが出来るが、どのタイプもリアシートの足元は窮屈さと無縁。今回試乗したのはスタンダードホイールベースの5名乗車モデルという、もっとも標準的なタイプだが、リアシートで足を組むのもストレスフリーだ。その上で細部にまで気遣いが感じられる上質なキャビンには、アレルゲンを低減し、ウイルスを除去するパナソニックの「ナノイーX」を組み込んだ新開発の空調システムを搭載。花粉の季節の外遊びでも活躍する装備によって、他に類のないほど快適な移動空間に仕上がっている。
この比類なきゆとりは荷室においても同様。上下分割式のリアハッチを開けると5人乗車時でも高さ95cm、床の奥行き110cm、左右幅104cmといった凹凸の少ないスペースが確保されていて、さらにリアシートを前方に倒せばフロントシートまで200cm(各数値は編集部測定値)ほどの長さがあり、対応力の高さを示した。
それにしても初代モデルから受け継がれている上下分割式のリアゲートは本当に使いやすい。上部だけを跳ね上げれば、荷物のずり落ちなどを気にすることなく、必要なものを取り出せる。そして両端にカップなどを置けるスペースを設けた下部ゲートを開ければ、テーブルや椅子に早変わり。ここに腰を降ろしながら、飲み物を楽しみながら釣り糸を垂らすなど、使い方はアイデア次第でどんどん広がる。
静かでフラットな乗り心地に感動!
予想以上の取り回しの良さ、実用の高さに「さすがはレンジ」という印象を抱きながら最高出力300馬力の3L直列6気筒ディーゼル・マイルドハイブリッド仕様の「D300」を走らせた。もはやディーゼルエンジンの振動や騒音というネガティブな要素をほとんど感じることがない、なんともスムーズで好印象な走り。山岳路やオフロードを走る機会が多いアウトドア派にとっては、低速トルクがモリモリと湧き上がるディーゼルエンジンモデルはいい選択になるはず。なにより外遊びのために高速道路をよく走るロングドライブ派にとって、10.5km/l(WLTCモード)の燃費はやはりうれしい。それでもスムーズに回転が上昇するガソリンエンジンを、という人には4.4LのV型8気筒のガソリンターボエンジン「P530」や3L直列6気筒ガソリンターボエンジンと105kWの電動モーターを組み合わせたプラグインハイブリッド(PHEV)なども用意されている。
熟成が進んだ電子制御のエアサスペンションが創り出すフラット感。背の高いSUVにはありがちな、前後左右への揺れを上手にいなしながら走る、その制御は、最上位モデルだからこそ実現出来た味つけ。そこに最新のドライバーアシストによる最高レベルのドライバーアシストが加味されるわけで、高速道路での素行は平和そのもの。外遊びの疲労感もずいぶんと癒やされるだろう。
今回はレンジローバーの大きな魅力であるオフロード性能を試すコース設定はなかった。それでもこれまでの進化を見れば十分に予測可能。世界一過酷とも言われたキャメルトロフィー(Camel Trophy )を始め、数多くの冒険ラリーで数々の実績を残してきたレンジローバー。その極限の悪路走行においても、つねに高い快適性を伴っていたという走破性はさらに磨かれているのは確実なのである。ガレ場とも言える路面からの強いショックを巧みに吸収し、ボディを出来る限り平穏に保つ技、そして渡河能力90cmの走破性を持ってすれば、どんな過酷な状況でも涼しい顔で走り抜けるはずだ。
極上のオンロードと平穏無事なオフロードを高次元でバランスさせているからこそ、穏やかな週末ライフを送る最良のパートナーとなる。世界中のSUVがいまもベンチマークとして目指す理由はそこにあるのではないだろうか。
【SPECIFICATIONS】
- ボディサイズ全長×全幅×全高:5,065×2,005×1,870mm
- 車重:2,580kg
- 最低地上高:219mm
- 最小回転半径:6.1m
- 駆動方式:4WD
- トランスミッション:8速AT
- エンジン:直列6気筒ターボディーゼル2,993cc
- 最高出力:221kw(300PS)/4,000rpm
- 最大トルク:650Nm/1,500~2,500rpm
- 車両本体価格:20,310,000円~(オートバイオグラフィーD300/税込み)
問い合わせ先
ランドローバーコール
TEL:0120-18-5568
自動車ライター
佐藤篤司
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行なう自動車ライター。著書『クルマ界歴史の証人』(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。