1973年にイヴォン・シュイナード氏が創業した、米国カリフォルニア州ベンチュラに拠点を置くパタゴニア。プロダクトづくりの理念、自然環境を守る活動など、アウトドアを通じてその活動が国際的にも高く評価されている企業だ。地球環境、SDGsなどの声が今のように当たり前になる約50年前から、世界中のアウトドアズマンたちにその理念を伝えてきた。そして、ユーザーは皆、地球環境保護活動をしているパタゴニアだから選ぶ、という意識もあったのではないだろうか。
2022年9月15日、シュイナード氏はパタゴニア社の株式を2つの環境団体「Patagonia Purpose Trust」「Holdfast Collective」にすべて譲渡すると発表。利益を環境保護の活動に費やすための、前向きな決断だという。
株式譲渡や新規株式公開ではなく、新設する環境保護団体やトラストに譲渡し、事業に使用しない利益はすべて環境保護に使われるという。
これぞ、"パタゴニア精神"
BE-PALのベテランライターによると、今回のステップダウンは彼らしい選択だという。
「Yvon Chouinard Steps Down(イヴォン・シュイナード退く)」──というタイトルのメールニュースが届いたとき、『いよいよ来たか』というのが第一印象でした。でもそれは、シュイナード氏(以下イヴォン)の年齢的、あるいは体力的な問題に基づくものだと思い込んでいたからだ。ある意味、日本人にとっての「"昭和"が終わった」的な思いでした。でも実情は大きく違っていた。
イヴォンが新設する環境保護団体やトラストに株式を譲渡したのは、彼が創業当初からの環境、自然への思いを未来に"繋げる"ためのスタートだった。業界でもいち早く環境負荷の少ない素材を採用し、自社の従業員だけでなく、素材の供給元従業員の労働環境にも配慮し、自然環境を守るためなら政治にも口出ししてきた。記憶に新しいのは、ユタ州のベアーズイアーズ国定記念モニュメント縮小を決めたトランプ政権を訴え、ユタ州ソルトレイクシティで長年開催されていたアウトドアリテーラーショーをボイコットした。口先だけのきれい事ではなく、常に行動で示してきたイヴォン、そしてパタゴニア社。会社を上場してコントロールを失うのではなく、イヴォンが築き上げた"パタゴニア精神"を次代に引き継ぐカタチで環境保護団体やトラストに株式譲渡を選択した偉大なるリーダー、イヴォン・シュイナードに、月並みではあるが、心からの賛辞を送らずにはいられない。彼はいまも、自ら古着を大切に着続け、古いボロボロのスバルを運転し、ワイオミング州ジャクソンにある自宅で質素に暮らしているという」
なお、余談だが、イヴォン氏は2017年にアメリカの経済誌『フォーブス誌』の長者番付に初めて名を連ねた。常人(長者番付に載る時点で常人ではないかもしれないが)なら鼻高々…なのだろうが、彼は違ったそうだ。「私は銀行口座に10億ドルを持っていないし、レクサス(高級車の象徴)を運転していない」と、フォーブス誌の報道に大憤慨したという。彼は私利私欲を追求しない唯一無二の"億万長者"だ(ちなみに長者番付は、パタゴニアの価値をもとにしたものでイヴォンの個人資産に対するものではない──と、フォーブスは発表している)。
「地球が私たちの唯一の株主」
現在、パタゴニアの公式サイトでは、イヴォン・シュイナード氏の手紙が公開されている。
「事業の繁栄を大きく抑えてでも今後50年間の地球の繁栄を望むのならば、私たち全員が今手にしているリソースでできることを行う必要があります。これが、私たちが見つけたもう一つの方法です。
地球のリソースは、莫大ではありますが無限ではありません。そして、私たちがその限界を超えてしまっていることは明らかです。しかし、まだ回復可能です。私たちが最大限努力すれば地球を救うことができるのです」
と締めくくられたこの手紙、ぜひ全文を読むことをおすすめしたい。