なぜ着底させるのかというと、アオリイカは底周辺にいるため。アオリイカ目線でいうと、上から弱ったエビが落ちてきたと思ったら、2、3回ぴょんぴょんと跳ねるイメージ。その動きでスイッチが入って「食べたくなる」という感じだ。そうイメージしながら、ひたすら同じことを繰り返す。
アオリイカが抱きつくと、竿先に微妙な変化が出る。そしたらすかさず「合わせ」を入れる。沼野さんにそう教わったが「微妙な変化」がどんなものなのかわからない。カヤックで漂っていると、波に合わせるように竿先は常に動いているからだ。うーん、難しい。30分ほど流すが、まったく気配がない。
いないんじゃないの? と思ったそのとき、それまでの動きよりほんの少しだけ竿先が曲がった。試しに合わせてみると、何やら重みが! そしてギューンギューンというリズムで引っ張られる。もしや! と思い慌ててリールを巻く。その間もギューンギューンと抵抗を見せるなぞの物体。魚とは違う引きだが、思いのほか力がある。
そして、ようやく海面に姿を見せたのは……。やった!アオリイカだ! と喜んだ瞬間、こちらに向かって真っ黒い液体が噴射されたのだった!
(つづく)
穴澤 賢(あなざわまさる)
1971年大阪生まれ。2005年7月から愛犬との暮らしを綴ったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイ、コラムなどを執筆するようになる。著書に「またね、富士丸。(集英社文庫)」、「明日もいっしょにおきようね(草思社)」、「また、犬と暮らして(世界文化社)」、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック「Another Side Of Music」(ワーナーミュージック・ジャパン)などがある。株式会社デロリアンズ代表。Blog:Another Days
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