目前に迫ったアオリイカの最後の抵抗か、こちらに向かって墨を噴射してきた。幸い、腕にかかったが、あとちょっとズレていたら顔面に食らうところだった(それはそれで面白かったかもしれないが)。それよりも驚いたのは、アオリイカが吐いた墨の量だった。そんなに大きな体ではないのに、イカの周辺1メートルくらいの海水が真っ黒に染まったのだった。
どこにそれだけの墨を溜め込んでいたのか、と驚くと共に、もくもくと自分の周囲を黒く染めていく光景に「スゲーな、お前」となんだかちょっと感動してしまった。そして、タモに入れ、見事初のアオリイカを釣り上げた。
「アオリイカって、独特の引きをするんですね」と沼野さんに言うと「そうでしょ、それで皆やみつきになるんですよ」とのこと。なるほど、たしかに面白い。それに、間近で見る生きたアオリイカの、まぁ美しいこと。よく見ると、半透明の体の表面では、細かい斑点が色を変化させながら目まぐるしく点滅したり動いたりする。写真で伝わらないのが残念だが、本当に「綺麗」なのだ。テレビで見ているだけのときは「なんかグロいイカだな」と思っていたのに、これほど美しいとは。
観察しているうちに、沼野さんにもアオリイカがヒット。この周辺に結構いるらしい。私も再び竿を出す。ちなみに、さっきのは竿が「曲がる」アタリだったが、沼野さんいわく竿が「戻る」アタリもあるらしく、それが見極められれば釣果は飛躍的に伸びるという。ただ、慣れない私にはそれがわからない。