自然の中で遊びながら、防災への意識と対応力を身に着ける。これからの時代を生き抜くために必要なノウハウを、アウトドアの達人が指南します。
真剣に防災するには
装備は夏山縦走の道具が基本!
みなさんはどんな備えをしていますか?
阿部(以下/阿):キャンプの技術を防災に活かす方法を教えてくれるそうですが、用意するようにいわれたのは登山の道具。まさか、山に避難するとか!?
藤原(以下/藤):うーん、半分当たり。都市生活者が真剣に災害に備えると、装備は登山の道具になるんです。そして、避難先も山とはいわないまでも、水と土のある場所になります。
阿:??? どういうこと?
藤:内閣府発表の首都圏直下型地震の想定では、被災から復旧までに要する時間が電気で6日、水で30日、ガスは55日。つまり、この期間は自力で乗り切らなくてはいけない。阿部さんはどんな備えをしています?
阿:食料と水を4、5日分用意しています。そのあとは避難所に入るつもりですけど……。
藤:あまーい! 私が住む町の場合、食料の備蓄は全市民の1日分のみで避難所の収容人数は全市民の18分の1しかありませんでした。つまり避難所に行っても何ももらえないし、避難所にも入れない可能性が高い。
阿:え! でもテレビで見る被災地って、避難所に各地から援助が届くじゃないですか。
藤:それは、支援する側に対して被災者の数が少ないから。大都市が災害に見舞われた場合は被災者の数も多いし、混乱の度合いも深くなるはず。補給路が断たれているときにスムーズに支援がはじまるとは思えません。
阿:……確かに。それなら、どう備えたらいいんでしょう?
ロープワークで軽量化!
居間兼土間はタープ、居室は山岳用テントでつくる
自力避難時に登山の道具が役立つ
藤:方法はふたつ。ひとつは食料や水を大量に備蓄してライフラインが復活するまで家に籠城すること。もうひとつは混乱が収まるのを待って都市を脱出すること。でも、水道が復旧する目安の30日を自助で過ごすと仮定して、その間の食料、水、燃料を備蓄できますか?
阿:うっ。人は一日に飲み水だけで1.5ℓ必要なんですよね。それに食料と燃料を合わせて、体を拭く水も欲しい……となると籠城は難しいから郊外の知人を頼るかなぁ。そもそも住む家が壊れないかもわからないし。
藤:でしょ? 交通が麻痺したなか、自力で退避するときに活躍するのが登山の道具。衣食住を背負う前提でつくられているから軽量で汎用性も高い。家には登山用品と10日分ほどの水と食料を備蓄し、混乱が収まったら3〜4日分の食料を持って退避するのが現実的です。
阿:なるほど〜。でも、いざってときに正しく使えるかなぁ?
藤:サバイバルの原則は「体温の維持」と「継続的な補給」。体温を保てて、水と食物を補給できれば人は死にません。登山の道具はキャンプにも使えるから、この原則に則ってふだんからキャンプを楽しみつつトレーニングするのがおすすめです!
衣類は命を守る最後の城。
防臭アンダー&防寒着&雨具が基本
長く着てもにおいにくい!
ウールのアンダー
下半身もしっかり防寒
防寒着上下
風雨を防いで体温を維持
レインウェア
トレッキングシューズ&サンダルで足とひざを守る
寝袋にもレイヤリングを!
3層構造で温度調節
就寝時のシステムは防寒着を組み合わせた状態で考える。インナーとカバーを合わせた寝袋に防寒着を着て入ったときに居住地の最低気温をしのげる温度設定にしておけば、暖かい季節はそこから重ねるレイヤーを引いていくだけで対応できる。
77 スリーピングバックカバー(一番外側の部分)/ 防水透湿素材で寝袋のロフトを潰さない大きさを。 寝袋(ブルーの部分)/ 居住地の最低気温に対応できるものをチョイス。 インナーシーツ(一番内側の黒い部分)/ 防寒&防汚で活躍。季節や状況に合った素材を使う。
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2022年10月号より)