世界各地を飛び回る著述家・編集者・写真家の山本高樹氏。今年、ライフワークとするインド北部の山岳地帯を訪ねた。美しく、険しい秘境の旅をレポートする今回は、インドでは避暑地として愛され、海外からの旅人も多く訪れるというマナリ。久々に旅の疲れを癒すことができた。
ラホール地方の町ケーロンと、巨大な峠を穿つトンネル
ザンスカールから、吹雪とぬかるみできわどい状態だった標高5080メートルの峠シンゴ・ラをどうにか越えた僕たちの車は、ヒマーチャル・プラデーシュ州ラホール地方の町、ケーロンに到着しました。パドゥムから車を運転してくれたスタンジンとはここで別れ、以降は一人でローカルの交通手段で移動することになります。
ケーロンで泊まるのは、およそ10年ぶり。町の北西を貫く街道、マナリ・レー・ロードの付近には、インド人の国内旅行者向けの食堂やゲストハウス、キャンプリゾートがかなり増えていましたが、町自体の商店街は、地元の人々がのんびり行き交うひなびた雰囲気のままで、少しほっとしました。
ケーロンを午前中に出発するバスに乗り、マナリという街を目指します。これまで、ケーロンからマナリまで行き来するには、標高3978メートルの峠、ロータン・ラを越えなければなりませんでした。しかし2020年に、峠の直下を貫くアタル・トンネルが完成。このトンネルを利用すると、ケーロンからマナリまで6、7時間かかっていたのが、わずか2時間程度にまで短縮されます。冬になるとロータン・ラは積雪で通行できなくなりますが、アタル・トンネルは一年を通じて利用できるので、ラホール地方の人々の生活にも、大きな変化がもたらされているようです。
マナリの街で、疲労回復を図る
標高2050メートルの高原にあるマナリの街。インドが酷暑期を迎える4月から6月頃でも涼しくて過ごしやすい気候なので、毎年大勢のインド人が避暑に訪れます。街は、新しいレストランやホテルが数多く建ち並ぶニュー・マナリと、そこからマナスル川を挟んで北側にあるオールド・マナリに大きく分かれています。僕は、オールド・マナリにあるゲストハウスに4泊ほど泊まって、街の取材をしつつ、悪路での移動続きで疲れた身体の回復も図ることにしました。
マナリは、陸路でラダック方面を目指す際の起点となる街でもあるため、いつもならオールド・マナリにも大勢の外国人旅行者が滞在しています。ただ、2022年夏の時点では、コロナ禍の影響もあってか、外国人の姿はほんのちらほら見かける程度でした。
この街に来ると、必ず一度は訪れるお気に入りのレストラン、イル・フォルノ。ハディンバ寺院に登っていく坂道の途中の、閑静な場所にあるレストランで、石窯で焼いた本格的なピザを出してくれます。一人で食べるには結構なボリュームのピザですが、ここまでの旅で消耗した身体を回復させるには、うってつけのごちそうでした。