標高4200メートルの村、デムル
スピティの中部、標高4200メートルに達する険しい山々の間に、ひっそりと隠れるようにして存在する村があります。デムルと呼ばれるこの村では、東に開けたすり鉢状の斜面に、数十軒の民家が身を寄せ合うようにして集まっています。
僕がデムルを訪れた時、村ではちょうど、村人総出による牧草の収穫が終わったところで、家々の屋根にはたっぷりと牧草が積み上げられ、長く厳しい冬への備えが行われていました。
デムルでは、牧草の収穫が終わった後に、ナムガンと呼ばれる収穫祭が催されます。その際、村のシャーマンによる珍しい儀式が行われるということで、その一部始終を見学させてもらうことにしました。
二人のシャーマンによる神下ろし
村にある一軒の大きな民家の中で、二人のシャーマンによる儀式が始まりました。一人は、近隣のマネ村から来た「チョフラン」と呼ばれるシャーマン。もう一人は、デムル村の「チェタプ」と呼ばれるシャーマンです。二人はそれぞれ、ラーと呼ばれる神を自らの身体に降臨させ、一種のトランス状態に陥ります。
酒をあおり、頭から酒を注ぎ、身体を小刻みに震わせながら、二人のシャーマンはブツブツと神託を呟き続けます。曰く、「今年の村での収穫はあまりよくなかったが、来年はよくなるだろう」「村人たち全員、争わずに仲良くし、力を合わせながら日々の仕事に取り組むように」など。その一言一言に、村人たちは頷きながら、真剣に耳を傾けていました。
やがて二人のシャーマンは屋外に出ると、村人たちが連れてきた、ヤク(雄の毛長牛)やヤギ、羊といった家畜たちに、酒を振りかけながら加護を授けるような儀式を行いました。こうした儀式を受けた家畜たちは、その後も村で大切に飼われ続けるのだと言います。
忙しくて短い夏の終わりに、デムルの村の人々はほっとした笑顔を浮かべながら、年に一度の収穫祭のにぎわいを楽しんでいました。