サンフランシスコからわずか4時間ほどのドライブで着くヨセミテ国立公園はアメリカで最も人気が高い観光地のひとつです。巨大な花崗岩の絶壁と流れ落ちる滝、そして樹齢1000年以上もの大木が連なった風景の画像や映像を見たことがある人は多いのではないでしょうか。
国立公園内の観光施設はヨセミテ・バレー(峡谷)と呼ばれるエリアに集中しています。ホテルやレストラン、スーパー・マーケットなどに加えて、いくつかのキャンプ場もそこにあります。
私は何回かこのヨセミテを訪れたことがありますが、いつもホテルに宿泊していました。せっかくの大自然を思う存分満喫するために、次はキャンプを選択したいとずっと願ってきたのですが、それには少なからず困難が存在しました。
※現地在住の記者が2022年秋に取材した内容を基に構成しています。
クリック合戦と化す5か月先のテントサイト予約
ヨセミテも含めて、アメリカの国立公園内にあるキャンプ場は全てオンライン予約が可能です。しかも以下の政府系公式ウェブサイトで一括して管理してあるので、とても便利です。
URL:https://www.recreation.gov/
そこでは行きたい場所とチェックイン・チェックアウトの日付を選択して、予約可能なキャンプ場を探すことができます。テントサイトの場所は地図で確認できますし、支払いはクレジットカード決済ですので、当日に慌てることはありません。
よくできたシステムですし、話としては簡単なのですが、現実にこのサイトでヨセミテのキャンプ場を予約しようとしても、完全に売り切れ状態であるケースがほとんどなのです。
以下は同ウェブサイトからの抄訳です。
「ヨセミテ国立公園内のテントサイトは毎月15日の午前7時(米国西海岸時間)から5か月先まで予約可能になります。例えば、1月15日には6月14日までの期間が予約可能になります。ただし、ヨセミテのキャンプサイトは非常に人気が高く、そのほとんどが数分で売り切れになります」
もちろん、これはヨセミテならではの特殊事情であって、それ以外の国立公園ならテントサイトの予約はそれほど難しくはありません。シーズンオフなら数日前になってからでも簡単に予約できるでしょう。あるいは予約さえ必要ではないかもしれません。
数日前でも予約できたキャンバステント村
10月に入り気候も安定しているので、今度こそヨセミテでキャンプしてみようと思い立った私もその壁に阻まれました。すべてのテントサイトに「X」(予約済)が並んでいたのです。シーズンオフでもあるし、平日だったら何とかなるのではないだろうか、という私の楽観的過ぎる予想をあざ笑うかのようでした。
しかし、「Curry Village」という施設にキャンバステントがいくつか空きがありました。地図で見ると、ヨセミテ・バレーの中心に近い、便利そうな場所に位置しています。早速、2日後の宿泊を予約して、久しぶりにヨセミテを訪れてみたというわけです。
素泊まりのアウトドア
キャンバステントとは木のフレームで固定されたバンガローのようなものです。屋内には簡易ベッドとイスが置いてあります。というか、それ以外には何もありません。
敷地内にはこのようなキャンバステントが400個以上、まるで団地のように並んでいます。立錐の余地もなく、とは言い過ぎですが、ゆったりとしているとは言い難い環境です。
近年、アメリカの西海岸では頻発する山火事が大きな問題になっています。ヨセミテでも2022年7月に大きな火災(Washburn Fire)が発生したばかりです。そのため焚き火が禁止されているキャンプ場が多いのですが、ここもその例外ではありませんでした。それどころか、敷地内での調理はおろか、テント内での飲食までもが禁止されていました。すべての食べ物はテント外にある鉄製のベアーボックスに入れるようにと指示もありました。
BBQも焚き火もできない「アウトドア」は日本では想像しにくいかもしれません。「グランピング」とは、元々「Glamorous(豪華な)」と「Camping(キャンピング)」を組み合わせた造語だということですので、その言葉を使うこともためらいます。むしろ必要最低限とか質実剛健とか表現した方が的をえているような気さえします。
キャンバステントにはヒーター(暖房)つきのものとそうでないものがあり、もちろん後者の方が安くなります。私が泊ったのはそちらでした。というより、それしか空いていませんでした。私が訪れた10月上旬ですとちょっと肌寒いかなという気持ちがする程度で済みましたが、それより寒い季節や雨の日などはつらいかもしれません。
もちろん、トイレもシャワーも共同です。人によって求めるレベルは様々でしょうが、少なくとも私にはとても清潔に見えました。キャンプ料理はできなくても、敷地内には売店もレストランもありますので、好き嫌いを言わなければ食べる物には困りません。
何より、ヨセミテ・バレー内に泊って、近くにいくつもあるトレイルでハイキングやサイクリングを楽しむことができるのは他に代え難い魅力です。キャンプ用品を持参しなくてよいので便利でもあります。
ヨセミテを訪れる多くの観光客は高価なホテルに泊まるか、あるいは日帰りで観光スポットを駆け足で見て回ります。それに代わる選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。
米国在住ライター
角谷剛
日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。
世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員