地震や台風など自然災害の増加にウイルスの脅威も加わった今日。地球サバイバルを生き抜くためには「自分の命は自分で守る」自己防災が必要だ。この防災力を鍛えられるのが、キャンプ。
被災地でのボランティア活動も豊富な木村とーるさんの流儀から紹介しよう。
僕らはキャンプで術を身に付けた
猛暑の7月下旬。四国高知を流れる清流・四万十川沿いのキャンプ場に、子供たちの声が響き渡った。
「テントどこに立てる?」「焚き火の薪を拾いに行かなきゃ」「誰かタープの設営を手伝って」
子供たちが参加しているのは、環境学習塾・四万十塾の3泊4日カヌートレックツアー。カヌーで川遊びをしながら、テント設営、焚き火、料理などさまざまなアウトドア経験を積んでいくキッズキャンプだ。
テントやタープを張り終え休息していると、子供たちが空を見上げながらいった。
「さっき塾長が『雨が降るかもしれないから、テントの入り口を閉めて、フライシートをかけろ』っていってたよ」「えっ? こんなにピーカンに晴れてるのに?」「雨が降りそうになってからでいいんじゃね?」「もう少し休んでからやろうよ」
ところがその数分後。急に冷たい風が吹いたかと思うと青空が一瞬にして暗くなり、突然、大粒の雨がバラバラとタープを揺らしはじめた。
「ヤバっ!」「テントにフライシートかけてない!」「窓も開けっぱなしだ~」
全員、自分のテントに向けて猛ダッシュ。子供たちは、天気の急変に備えることの大切さを身をもって学んだようだ。塾長のとーるさんがいう。
「失敗してもいいからね~。自分で判断して行動することが大切なんだよ。遊びながら覚えたことは忘れないよ。防災にも役立つからね~」
Wilderness Villages 四万十塾 塾長
一般社団法人OPEN JAPAN理事
木村とーるさん
四万十塾は、カヌートレック(カヌーでの川旅)を通して、環境問題や永続可能なライフスタイルを提案する野外学習塾だ。塾長の木村とーるさんと講師のケンさんは、一年の半分は川旅に出てキャンプ生活。普段の生活も燃料は薪、車のエンジンは天ぷら油といった具合に自給自足に近い暮らしをしている。
その経験から得た四万十塾のアウトドアスキルは、この数十年、災害時にも大いに生かされている。阪神・淡路大震災以降、豪雨災害時のカヌーでの人命救助、被災地での炊き出しやボランティア活動など、全国で数々の災害支援を展開してきた。とーるさんはいう。
「カヌーやキャンプには、あらゆる防災のテクニックが詰まっています。自然の中で行なう全天候型のキャンプは、過酷な気象状況下での判断力が鍛えられ、突発的に起きる災害にも対処できるようになります。大切なのは『遊び』で覚えること。机上で学ぶ防災と違って、楽しみながら体で覚える経験はすぐに身につき忘れません。日ごろから家族でテント泊の経験を積んでおくと、いざというときに必ず役立ちますよ」
とーるさんが開講する四万十塾とは?
川旅を通して環境問題や防災を学べる四万十塾のカヌートレックツアー。子供中心のツアーも多い。
子供たちで協力してテントを設営。
カヌー教室。
タープの設営を伝授する塾長の、とーるさん。
初めてのペグダウンに四苦八苦。
焚き火料理にもチャレンジ。
初焚き火経験に大興奮。
災害支援プロジェクトを全国で展開
「環境学習塾・四万十塾」
阪神・淡路大震災のときの炊き出し風景。以後、東日本大震災、西日本豪雨など多くの災害支援プロジェクトを展開。
台風19号で被害に遭った長野県千曲川沿いでの人命救助の様子。100人を超える人と犬猫をカヌーで救出した。
※構成/松浦裕子 撮影/茶山 浩 イラスト/近常奈央 協力/四万十塾
(BE-PAL 2022年10月号より)