憧れのアンコールワットを目指して
初めての自転車旅行。タイ・バンコクから、ベトナム・ホーチミンへ行くことを決めて、最短ルートをグーグルマップで検索していると、途中でやたら口コミ件数が多いお寺を発見。あれ、これは、もしかして…。
あっ。
アンコールワットだ。
人生で一度は行ってみたい憧れスポットとしてもたびたび挙げられている世界遺産、アンコールワット。それがたまたま、バンコクからベトナムへ行く道の途中にあるなんて。
しかしタイから意気揚々とアンコールワットを目指して漕ぎ進め、カンボジアの国境を超えると、そこはカルチャーショックの連続でした。
カンボジアの不思議な通貨事情
タイからカンボジアへ自転車で国境を越えて、まずやらなければいけないこと。それは、両替です。
きっと道路沿いには、両替所がたくさん並んでいるのだろう、とアテにしていたのですが、シャッターを下ろしてしまっている店舗が目立ちます。カジノの賑わいで有名な国境沿いの街ですが、コロナ禍の影響なのか、あまり活気はありません。
とりあえず店に入って1万円を渡してみるも、偽札を疑って受け取ってくれません。そもそもこの近辺では日本円を変えてくれる両替所は多くない様子。
現地通貨のカンボジア・リエルがないのは困るなあ。
だけど、慌てることなかれ。リエルがなくとも、米ドルさえ持っていれば、なんとかなるのがカンボジア。
実はカンボジアでは、独自通貨のリエルに加え、アメリカドルも国内で通貨として利用されているのです。
レストランの通貨事情も不思議
観光地のレストランではメニューの金額がそもそもドルで表示されていることもあります。
例えば、ドルとリエルのレートはお店によってまちまちではあるものの、ここでは分かりやすく1ドルを4,000リエルとします。6,000リエルの買い物を2ドルで支払うと、受け取るおつりは2,000リエル。あるいは5ドル50セントのお会計に10ドル札で支払いをすると、釣り銭は末端のみリエルで計算して、4ドルと2,000リエルのおつりを返されることもあります。
もっとも、地元の人しか来ないような地方の小さな屋台食堂では、基本的にリエルでやり取りをしているから、少額のリエルは確保しておきたいところ。
カンボジア初めての夜をお寺の東屋で過ごす
グーグルマップでカンボジアの地図を見ていて気になったのは、パゴダと呼ばれる場所があっちこちにあること。調べてみるとパゴダとは仏塔のことで、パゴダと名のつくスポットにはお寺があって、お坊さんが住んでいるみたい。
私はカンボジアのクメール語がわからないから、正確になんという町の、なんというパゴダなのかもわかりません。道路脇の泥だらけの道路を300mくらい進むと寺院が見えてきました。
人々が集う現地の素敵なお寺
屋根に生えた魔よけの装飾が特徴的な東南アジアの上座部仏教寺院。室内には壁一面のカラフルな壁画に囲まれて大きなブッダ像が鎮座しています。
日本の大乗仏教と東南アジアの上座部仏教の何が違うのか。答えてくれた地元の方曰く、東南アジアの上座部の方が古風でストイック、とのこと。
「私もお寺に行ってよくお祈りをしますよ。だけど、ビールがやめられないからねえ。あまりストイックな信者ではありませんね(笑)」なんてお話も。
カンボジアの寺院は、信仰の場所であるとともに、学校の登下校、買い物や職場への行き帰りに通るハブのような役割をすることもあるようです。
お寺のすぐそばには、子供たちが自由に遊べるトランポリン。そしてサッカーボールを大人数で蹴りあう子供たち。遊歩道沿いには東屋がたくさん建っていて、地元の人が井戸端会議を開いています。
ん…?
東屋かあ…。
屋根と床があれば、快適に眠れそうだなあ。
近くを通ったお坊さんに声をかけると、「寝てもいい」とのお返事をいただきました。
しかし、いざ眠りにつこうとすると、どういうわけだか夜の間、ずっとお寺の方からお経が聞こえてきます。しかも明るくなると、朝早くから大勢の人がお寺に集まっているではありませんか。
2022年9月某日。この日は、カンボジアの仏教行事プチェンバンの時期でした。日本でいうお盆のような行事を盛大に祝うため、みんな正装して集まっています。
そんななか、小汚い自転車旅行の旅人がひとり。なんか、すみません…。
アンコールワットの町シェムリップへ
カンボジアの田舎町では、お寺の東屋に泊まったけれど、アンコールワットがある町シュムリップでは安宿に泊まることに。雨が多い9月は観光のオフシーズンのため、なんと1泊500円以下。
2段ベッドが4つか5つ並ぶ女性専用の部屋でしたが、同室の宿泊客はたったのひとり。
そんななか、日本人の宿泊客を発見。夏休みの大学生と、有給休暇の社会人。「私は自転車旅行中」と伝えると、ちょっぴり驚いてくれました。同じ宿に宿泊していたヨーロッパやアメリカからの客と食事へ行くと、やっぱり同じ反応。
あれ、自転車旅行って、私が思っているよりあんまり一般的な旅行スタイルじゃないのかも?
アンコールワットを自転車で巡ってみよう
自転車女子、遂に憧れの地へ
カンボジアを代表する観光地、アンコール遺跡群の敷地は巨大で、その中に何十個もの寺院が含まれています。あの有名なアンコールワットも、遺跡群の中にある寺院のひとつ。しかも寺院はどれもシュムリップの町の中心部からも少し離れているため、1日で巡ろうとするとかなりの体力勝負。
アンコール遺跡の入場券は、1日券、3日券、5日券の3種類のところ、たまたま私が訪れた時期は1日券にもう1日おまけをつけてくれるキャンペーン中。効率的にアンコール遺跡の数々を巡るにはトゥクトゥクの個人ツアーが人気ですが、今回はまず主要な寺院をバスで巡り、残った寺院を翌日自転車で巡って回収する作戦に。
アンコール遺跡群の建築物は、どれも石の積み木みたい。柱は3層構造で、中心には砂と粘土の層。それを補強するために固い岩質のブロックで囲い、1番外側には比較的やわらかい岩質のブロックを重ねて装飾を施しています。
ふと思い出したトルコの建造物
アンコールワットが建てられたのは12世紀頃と聞いて思い出したのは、以前、トルコ・イスタンブールで訪れたアヤソフィアの姿。
西暦537年に建てられたアヤソフィアと、12世紀のアンコールワットを比べると、建て方そのものはむしろアンコールワットの方が原始的な雰囲気。
同じ人類が創造したものでありながら、建築様式にこれだけの違いが生まれる不思議。
だけどアンコールワットとアヤソフィア、似ていることをひとつ挙げるとすれば、その歴史的な変遷かもしれません。
アヤソフィアの場合、もともとギリシャ正教の教会として建てられものの、その後、ビザンツ帝国がオスマン帝国に討たれると、15世紀ごろにイスラム教のモスクとして改宗されました。
同様に、アンコールワットの場合、もともとヒンズー教の寺院として建てられたものの、クメール王国の終焉に伴い16世紀ごろに仏教寺院に改宗されました。
いつの時代も人々の生活に寄り添い発展してきた宗教文化ですが、時代の動乱に大きく左右されるものの代表格でもあるのかもしれません。
これらの像はなぜ首なしなのか。答えは、紛争が起こり国が貧しさの中にあった時代、石造の頭部が西洋をはじめ諸外国に高く売れたことから、頭部の窃盗が横行したそう。
その後、発見・返却された頭部もあるものの、現在本物は博物館などに展示して、屋外にはレプリカの頭部を接合しているケースもあるとのこと。
アンコール遺跡を自転車で巡るときの注意点は、駐輪場所。アンコール遺跡の寺院それぞれに係官が駐在していて、門の脇など駐輪場所を指示してくれます。
次回、雨季で道路が冠水!?カンボジアの首都プノンペンまでの道中をお楽しみに。