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    2022.12.11

    移住者に聞いた「ライフステージが変わっても、佐島に住み続ける理由」

    青い穏やかな海と青空の間に浮かぶ佐島

    コロナ禍前から、少しづつ増えていた離島移住。でも、理想と現実のギャップや、ライフステージの変化で、数年もしないうちに島を去ってしまう人が多いのも事実。そんな中、他の島と比べて、移住者がどんどん増えている島が瀬戸内海にある。

    移住のはじまりは、突然の思いつき

    サイクリストの聖地である「しまなみ海道」の脇にもうひとつ「ゆめしま海道」と呼ばれる島々が点在する。愛媛県上島町に属する弓削島、佐島、生名島、岩城島だ。これら4島はそれぞれ橋で繋がっているけれど、本州とは陸続きではない。が、しまなみ海道のひとつである因島から一番近い生名島までは、フェリーで約3分。しかも、1時間に2~4便も出ており、最終便は235分発。ちょっとした田舎の電車の本数と、なんら変わらない。もしくは、それよりも便が良いかもしれない。

     そんな島々のひとつである佐島は、周囲約9.8Km、人口約420人。昔から農家が多く、のんびりとした島。4年前、観光向けの施設はほぼなかったこの島に、かわいいカフェができた。「book cafe okappa」だ。

    木造の建物内。長い木の老化が奥まで続く。窓枠も木のまま。

    もともと保育園だった建物をリノベーションした「book cafe okappa」。

    「佐島に初めて来た時、朝、集落内を散歩していたんですね。そうしたら、その時、私の中に言葉が降りてきたんです。ココに住みたいって。旅している3日間だけのコトにはしたくない、自分の日常にしたいって」。

     くるんとまあるいおかっぱ頭の店主・山之内彩美さん(35歳)が、大きな瞳をキラキラさせながら話す。コーヒーが飲めるブックカフェがこの場所にあればいいのにとも、同時に思ったそうだ。
    その時、宿泊した佐島の「古民家ゲストハウス汐見の家」では、同世代の移住者たちとシェアごはんをしながらわきあいあいと語り合い、島の空気感も肌にすんなり馴染んだ。

    時を同じくして、もうひとり、同じようなコトを考えていた同世代の女性・武田由梨さんがいた。お互い東京に住んでいた二人は「汐見の家」のオーナーの紹介で知り合い、すっかり意気投合。佐島でブックカフェをやるコトに決め、6年前に佐島へ移住して来たのだという。まだ、カフェとなる物件が借りられるかどうかもわからない状態で。

    カフェの入口。手前右手に白地に青字で、おかっぱの女の子のイラストと「OPEN」の文字

    2人とも髪型が「おかっぱ」だったので、店名は「okappa」に。

    最高に心地いい絶妙な距離感

     もちろん、すぐにカフェオープンにこぎつけられるわけではなかった。物件を借りるところからハードルが現れ、借りた後は後で、自分たちでコツコツと5か月かけてリノベーション。その間の収入は、島内のあちこちでバイトをして凌いだという。佐島の隣・弓削島の食堂や海苔工場の夜勤、隣の岩城島でのレモンの箱詰め等々。

     「そのバイトが逆に良かったんです。バイトをしたおかげで、上島町の各島の人達と知り合うコトができて、繋がりができました。そうしたら、島の人たちがいろんな役立つ情報を持って来てくれるようになったんです」。

    木造のカウンター。カウンターのには廃材の窓等をステキにあしらっている

    カフェの奥のスペースは、息子のあおば君やお客さんの子どもたちが遊べるKIDSエリア。

    さらに、島人の距離感が近すぎず遠すぎず、絶妙なのだとも言う。

     「ふだん、逐一口出したりはしないのに、気にはかけてくれてるんです。リノベーション中も、キッチンの天井張りを2人でしていて上手くできなかったコトをフェイスブックにあげたら、見かねた島のおっちゃんたちが、次の日に手伝いに来てくれたんですよ!」

    日々口うるさい親ではなく、まるで、孫のピンチをここぞとばかりに助けてくれるおじいちゃんやおばあちゃんとの関係のようだ。
    移住者が出て行ってしまうコトは、移住者自身の問題が大きい場合も多いかもしれない。けれど、受け入れる側の"絶妙な距離感の取り方"というスキルも、また、欠かせない大きな要素なのかもしれない。

     そして、いざ、カフェがオープンした時も、初日から島民たちが来店し、"島民と旅人が自然と交じりあえる場所にしたい"という2人の願いまでも、最初から難なく叶えてくれたそう。本来の目的ではなかったであろう"様々なバイト"も、自分たちの理想のカフェに繋がる偶然という名の必然だったのだ。

     島には、断るほど仕事が溢れている!?

    まあるいピザ。2種類が1枚になっている。

    「okappa」の手作りピザ。フード担当は信介さん。

     けれど、相棒である武田さんは、現在は島外へ出てしまった。旦那さんの転職というライフステージの変化による選択だった。

    今、彩美さんと一緒にカフェを切り盛りしているのは、同じく移住者であり、島で出会って結婚した山之内信介さん(39歳)だ。が、カフェは現在、彩美さんの産休につきお休み中。2人には、あおば君という2歳の息子もいる。カフェを休むと食べていくのは更に厳しいのではないかと気になったが、2人から返って来た意外な言葉に驚いた。

    「それがね、仕事は断るぐらい、いっぱい来るんですよ!」

     警備の仕事、キャンプ場の清掃、島内バスの運転手、個人からの草刈の依頼。これらは、現在、信介さんが請け負っている仕事だ。フリーで動ける若い人には、仕事の依頼が集中するのだという。近年、移住者が増えているといえども、高齢化が進んでいるのがよくわかる現象でもある。

     「島は、信用と信頼関係で仕事が来るんです。彼も、カフェを手伝う前は、町役場の職員として働いていました。その時に、真面目に働いていた姿を島の人たちは知っているから、役場を辞めても仕事が来るんですよ」。

     市役所の人が誰かわからないような都会と違い、誰がどのように役場で働いているかわかるぐらいの距離感だからこそでもある。

    長い石段の下に石の鳥居。その向こうにまっすぐの道が続く

    「okappa」の前の道を突き当たるとある、佐島の神社。

     コロナ禍とともに、上島町の島々へのIターン&Uターン者は増えている。ファミリーでの移住も多く、島に来てから出産する人たちも増加中。私が上島町の島々を訪れる度に、明かに島内のあちこちで子どもたちの姿を見かけるコトが増えた。

     「みんな、自分たちが住んでいるこの島が大好きで、子どもたちも増えてます。だから、私は、島の未来に何の不安もないんです」。

     そう語る彩美さんのように、結婚や出産とライフステージが変化しても、そこに住み続けている人がいるというコトは、後に続く移住者の希望になる。その地には、変化しても受け止めてくれる環境があるというコトだから。

     

    book cafe okappa

    Instagram @bookcafeokappa

     

    私が書きました!
    イラストエッセイスト
    松鳥むう
    滋賀県出身。離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。訪れた日本の島は118島。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)、『むう風土記』(A&F)等。Podcast&Radiotalk 「松鳥むう」で検索♪ http://muu-m.com/

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