目指すはあの特徴的な形をした崖の上。「プーチーファー」の「プー」はタイ語で崖を表し、「チー」は指すこと、「ファー」が空。つまり、空を指してそびえるあの崖こそが、プーチーファーというわけだ。
余談だが、周囲のタイ人の会話に耳を澄ませると、プー“シー”ファーと言っているようだった。あとでチェンライの宿のオーナーに尋ねたところ、そちらのほうがよりタイ語に近い発音だそう。
ビュースポットの崖では、たくさんの人が日の出を待っていた。タイ人には有名な観光名所とのことだが、外国人の姿はあまり見かけない。
日の出時刻は6時56分。まだ太陽が顔を出すまでにはたっぷり時間はあるが、向こうの山がだんだんオレンジに染まり、雲海がくっきり際立つ、その移り変わりに目が釘付けになった。雲のところどころからひょっこり顔を覗かせている山の頂きは、まるで島みたい。なんて素晴らしいんだろう。自然の美しさが凝縮された風景に、寝不足のことなんてすっかり忘れて見入ってしまう。
飛行機からでも雲海は見ることができるけれど、より近い位置から眺めるほうがはるかに興奮する。
この目の前の光景の素晴らしさを息子と語り合いたいなのに、さっき「すごいね!!」と言ったあとに、「太陽が出たら起こしてね」と仮眠に突入してしまった……。
もうすぐ太陽が顔を出す、という瞬間を待たずに、下山する人がちらほら出てきた。あれ? タイの人にとっては、ご来光はさほど重要じゃなかった!?
一方、先ほどの開けた場所で、印象的な崖といっしょに雲海が見える位置で撮影をしていた夫の周囲でも、やはり日の出前に帰る人がいたらしい。
太陽が顔を出すのを見届けてから、私たちもここを後にすることにした。明るくなって足元がよく見えるようになったのはうれしいが、実は地面が滑りやすく、登り以上に気をつけなければいけなかった。雲海を横目に下山、という考えが甘かったことを知る。
息子は、頂上で声をかけられて、いっしょに記念撮影をしたタイの女性と手をつなぎながら、760メートルの登山道をこともなげに、下っていった。その背中を見ながら、思い描いたような感動的な言葉は聞けなくても、いっしょにこの絶景を堪能できてよかったと、しみじみ思うのだった。
◎文=旅音(たびおと)
カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
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