横浜市泉区・戸塚区を拠点に生態調査や里山保全活動を行なっている“ご近所生きもの観察案内人”の相川健志さん。今回は、カイコの原種とされる昆虫の生態について案内します。
枯れ葉や枝に擬態するクワコ
寒い季節に、葉の落ちた桑の木をよ~く観察してみると…落葉しない枯れ葉がひらひらと風で揺れています。これは、葉にくるまれているクワコの羽化後の繭。クワコは、絹糸をつくるために品種改良されたカイコの原種といわれています。
クワコは羽化前に葉が落ちないように命綱を枝につけます。そのため、他の葉が落ちても、クワコがくるまっている枯れ葉だけは枝に残っているのです。この日は、1本の木で5つのクワコの繭をみつけることができました。
一方、住宅街の桑の木でも、クワコの幼虫を発見。クワコの幼虫を探すときは、新しい食痕と糞が目印になります。枝に擬態してじっとしている個体もいるので、目を凝らして探してみましょう。
クワコの幼虫を育ててみると
見つけたクワコの幼虫を飼育してみることにしました。飼育方法は、基本的にカイコと同じです。クワコはとても食欲旺盛なので、毎日、新鮮なクワの葉を与えます。それと、糞をマメに掃除することも忘れずに。
クワコは、蛹になる直前に体内の余分な水分を体外に排出します。とろっとした排泄物が確認できたら、幼虫は間もなく蛹になります。
クワの葉があれば、葉にくるまって繭を作ります。葉がなくても、飼育ケースの隅で繭になります。季節によりますが、蛹になってから約2~3週間で羽化。今回観察していたクワコは、9月の末に蛹になり、10月中旬に羽化しました。
繭となった子たちは、みんな無事に羽化してくれました。クワコはカイコより小型です。また、改良品種されたカイコは飛べませんが、クワコは飛翔します。下の画像を撮影後、部屋の中を飛び回って捕獲するのが大変でした…。
一方、羽化後の繭糸の太さはカイコの1/3くらいです。エサであるクワの葉の色の影響なのか、糸も薄い黄緑色をしていました。
卵で越冬し、次の世代へ
11月中旬、自宅で飼育していクワコとは別に、近所でも発見がありました。以前、幼虫を採集したクワの木へ再び足を運ぶと、成虫がいました。すぐ近くには、卵もありました。
クワコは年2~3回、多いと4回も羽化することがあります。そして、越冬卵で冬越しをします。
一般的に、6〜7月に卵を生む際は葉に産み付けるのに対し、秋には枝に産み付けます。落葉とともに卵が落ちるのを避けるためです。でも、なぜか葉に産み付けられている卵もありました。このまま落葉してしまうことを考えると、心配です。
もちろん、枝に産み付けられた越冬卵もありました。これらは翌年、若葉が芽吹き出すころに孵化し、次の世代へと命をつないでいきます。
季節によって、さまざまに姿を変えるクワコ。冬場には、羽化後の繭や越冬卵を見つけることができます。ぜひ、近所の桑の木をじっくり探してみてください。