【世界でいちばん美しい村・中編】放牧、ハニーハンティング……自然に溶け込むように暮らすラプラック村の日常
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    2017.03.15

    【世界でいちばん美しい村・中編】放牧、ハニーハンティング……自然に溶け込むように暮らすラプラック村の日常

    ——村の人々の暮らしぶりだけでなく、今回の映画では、ヒマラヤの雄大な大自然を空撮で捉えた映像が、とても印象的ですよね。

    石川梵さん(以下石川):最近になって登場した新しい撮影機材、ドローンを使えるようになったことが、非常に大きかったと思います。ドローンだと、空撮でヒマラヤのスペクタクルを存分に見せられるんですよ。

    ——ものすごい断崖絶壁にぶら下がりながら、そこにあるハチの巣からハチミツを採取している村人の映像がありましたが、あれもドローンで?

    石川:そうです。最初は村人と同じように僕も崖からぶら下がって撮影しようとして、一応、準備だけはしていったんです。だけど、ロープだとぶらぶらして危ないし、しかもカメラも持たなきゃならない。ハシゴを作ってもらおうかと考えたくらいです。最終的には、ドローンで撮影することにしました。

    ——あのハニーハンティングは、採りに行く村の人も、命がけですよね。落下の危険はもちろん、ハチも……。

    石川:本当にあれは危険ですね。断崖絶壁の狭いところを入っていって、下からのチームは草を焼いて煙でハチの巣をいぶして、上からのチームが降りていってハチミツを採る。ヒマラヤオオミツバチは、ものすごく凶暴なんです。一度怒ったら、どんどん追っかけてくる。でも、ハニーハンティングをしている人によると、「マントラ(真言)を唱えて祖先の神に祈れば、ハチは刺しに来ない」と。たまに刺されてるみたいですけどね(笑)。「ハチミツ採りは危険だけど、私たちは神に守られているんだ」という彼の言葉は、この映画の中でも象徴的な意味を持っています。

    ——あの土地で暮らす人々にとって、自然は日々の暮らしから分かちがたい大切な存在なんですね。

    石川:彼らは自然とともに生きています。本当に何もない、ガスも水道も通じてないような土地だったのに、地震のせいで家までなくなってしまった。でも、みんな全然へこたれない。ああいう場所で生きていると、自然の豊かさが彼らを包み込んでくれるんでしょうね。そのおかげだと思うんですが、地震の後でも、みんな最初からどこか明るいところがあって。自然とともに生きるどころか、自然そのものの中に溶け込んでしまっている。ものすごい生命力の強さです。その根っこの部分には、信仰というものがあります。彼らはボン教という、仏教よりも昔から伝わる民間信仰を持っているんですが、その背景には、ヒマラヤの山々という存在がある。山を神とみなして、畏敬の念を抱いています。先祖代々暮らしてきた土地との結びつきが、ボン教はものすごく強い。そういう信仰が、彼らの心を育んでいるのかなと思いますね。

    ——では、今回の地震に対しても、彼らは「山の神様のなされたことだから」と納得して、恨めしいと思ったりはしていないのでしょうか?

    石川:心の内側では、やっぱり違うと思います。映画の中にも登場するヤムクマリという看護師さんは、お医者さんのいないラプラックで、みんなの診療を一人で受け持って、これまで本当に村に尽くしてきたんです。17年前に隣の村からやってきて、ラプラック出身の人と結婚したんですが、そのご主人が、今回の地震で亡くなってしまって。彼はトレッキングガイドとしてエベレスト方面に行っていたんですが、雪崩でやられてしまったんです。ヤムクマリはこう言っていました。「私はこんなにこの村に尽くしてきたのに、どうしてこんな目に遭うんだ。もう、神も仏もあるものか」と。こんなに信仰心の篤い人でも、こういう風に思うのか。でも、やっぱり人間らしいな、とも思いました。

    ——信じていた自然と神様に裏切られて、それを、どう受け止めるのか。

    石川:そこが、この映画の核心でもあるわけです。ヤムクマリは、村の人たちみんなに支えられながら、少しずつ立ち直っていくんですね。泣くときはみんなで泣いて、笑うときにはみんなで笑って、励まし合う。そんな中で、日本でいう四十九日にあたる、トモの儀式というものが行われました。亡くなった人の魂が遺族の元から去っていくのを見送るという儀式なんですが、その後にヤムクマリにインタビューしたとき、こう話してくれたんです。「僧侶がマントラ(真言)を唱えたとき、ひな鳥が寄ってきた。ほかの村人はまったく相手にせず、私たち家族のところにだけやってきて、つんつん、として。この鳥の中に、夫の魂が入っているんだと思った」と。その後に「また神様を信じられるようになった気がする」とも。亡くなった人の魂との別れが来て、神への信頼を取り戻して、残された人を村の人たちが支えていく。映画の中のトモの儀式は、観客にもさまざまな思いを呼び起こさせるシーンになっています。

    次回のインタビュー後編では、地震の後にラプラックの人々が直面した新たな課題と、映画『世界でいちばん美しい村』の完成までの道のりについて、引き続き石川さんにお話を伺います。

    石川梵 Bon Ishikawa
    写真家・映画監督。AFP通信のカメラマンを経て、1990年よりフリーの写真家となる。1984年から伊勢神宮の神事をはじめとして「祈り」をテーマに世界各地で撮影を行う。また、近年ではヒマラヤなど世界各地で空撮映像を世界の主要な新聞・雑誌で発表。2015年に起きたネパール大震災の際に取材でラプラックを訪れたのを機に、自身初のドキュメンタリー映画を製作。

    『世界でいちばん美しい村』
    監督・撮影/石川梵 ナレーション/倍賞千恵子
    エクゼクティブ・プロデューサー/広井王子
    プロデューサー/石川梵
    協力/松竹 Canon Cinema Sound Works
    後援/ネパール大使館
    配給/太秦
    公式サイト/http://himalaya-laprak.com/
    ●3/25〜4/7 東劇にて公開
    (C)Bon Ishikawa

    ◎聞き手=山本高樹 Takaki Yamamoto
    著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)ほか多数。
    http://ymtk.jp/ladakh/

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