その土地だからできるビールがある。飲めるビールがある。ローカルを大事にするブルワリーのビールを飲みたい。1997年創業の長野県安曇野市、穂高ブルワリーの醸造長、河西喜義さんにインタビューした。
松本山雅FCのスタンドでおなじみ
日本で小規模醸造が可能になった、いわゆる地ビール解禁が1994年。それから各地に地ビール醸造所が開業した。1997年、長野県安曇野市に生まれたのが穂高ブルワリーだ。親会社は、日本トップシェアのマシュマロメーカー、エイワだ。
なぜマシュマロのメーカーがビールを?
「オーナーがビール好きだったことが大きいかな、と思いますが。平成2年(1990年)にはマシュマロの工場を東京から安曇野に移転していたこともあります。安曇野はワサビ田で知られるように水のいいところ。これでビールを造ったらうまいのができるだろうと」(河西醸造長)。
北アルプスの伏流水。醸造所はもちろん、マシュマロ工場でも利用している。
当初からある定番ビールはケルシュとアルト。ドイツの2大エールである。今はこれに加えてペールエールとヴァイツェンの4種が定番。オーソドックスな、1990年代の地ビール時代を思い起こさせるラインナップだ。最近ではどこのブルワリーにもIPAがあるが、ここにはない。もっとも、「ゆくゆくはトライしきたい」と河西さんは語る。
多くは長野県内で消費されている。中でも地元の人に知られているのが、サッカーチーム松本山雅(ヤマガ)FCのホームスタジアム内のスタンドだろう。松本山雅は1965年創設の伝統あるクラブ。2022年はJ3リーグだったが、J1でプレイしていたこともある。
バーベキューで大人気の焼きマシュマロとビールの相性は
コロナ禍に見舞われたこの3年、穂高ブルワリーのスタジアム販売や松本市内のイベント出店はかなり制限を受けた。
一方でコロナ禍の最中、マシュマロ人気が盛り上がっているという。近場のキャンプ、庭先のバーベキューが人気を集め、焼きマシュマロ人気に火がついた。穂高ブルワリーの親会社エイワのマシュマロも売り上げも伸びたという。
焚き火を囲んでマシュマロを焼きながらビールを飲む。穂高ブルワリー自身はぜんぜんアピールしていないが、オーソドックスなケルシュ、アルト、ペールエールなどは絶妙な組み合わせだ。こんなところでビールとマシュマロに接点が見つかるとは不思議なものだ。
1997年からつくりつづけて25年の穂高ブルワリー。河西醸造長自身、この道20年以上になるが、この間、クラフトビール界の変化を、「裾野が広がりましたね。ビールのスタイルは今、エールといっても何十種類もある。いろんなスタイルからチョイスすることができるようになりました」と語る。
ホップも大麦も。地産原料100%を目指す安曇野
河西さんはこの25年の変化として醸造技術の進化に加え、「地産地消の文化も広がって定着してきた感じがします。地元の農産物を素材に使うビールがものすごく増えましたね」と、ローカルビールとしての存在感を挙げる。
安曇野では2016年からホップ栽培が始まっている。近年、地場産のホップを使うブルワリーが増えているが、穂高ブルワリーも安曇野でホップが栽培できたらという期待があった。
安曇野の地でも50年ほど前までホップが生産されていたのだ。
長野県は、国産品種「信州早生」の発祥地であり、栽培地だった。100年以上前に遡るが、大日本麦酒(後のサッポロビール)が開発、育成してきた品種だ。1970年代までは長野や山梨、東北以北でホップ栽培が続けられてきたが、大手ビールメーカーの海外産の使用と農家の高齢化により、衰退していく。
2016年、地元の農家「斉藤農園」がホップ栽培に名乗りを上げ、安曇野市が支援、穂高ブルワリーが買い取るという3者共同で、ホップ栽培が始まった。
現在5年目に入った2022年には、20aの畑でに約220kgの収量があった。
穂高ブルワリーは定番4種のビールのホップに、年間を通し3割ほど安曇野産ホップを使用している。
ホップ収穫期にフレッシュホップを100%使う贅沢なビールが、いろんなブルワリーで造られるようになってきたが、穂高ブルワリーの場合、フレッシュホップではなく通常のホップを通年で使う。ここもオーソドックスだ。
「ゆくゆくは安曇野産100%にできれば」と期待しながら安曇野産ホップを買い支え、収穫期には手伝いにも行くそうだ。
斉藤農園ではビール用の二条大麦の栽培も始めている。斉藤農園自ら、自社栽培のホップと麦芽を使って醸造する「安曇野ブルワリー」をオープンしている。安曇野で100%地元素材のクラフトビールが生まれる可能性は高い。穂高ブルワリーと安曇野ブルワリーの連携にも期待したい。
穂高ブルワリー 長野県安曇野市穂高北穂高2833-1
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