何やら大物がヒットしたが、それがなんなのかわからない。海面を覗き込んだ沼野さんが鯛ではないかと言ったが、私からはまだ魚の姿は見えない。鯛なのか? 心臓がバグバクする。その間も、魚はなおもすごい力で抵抗する。間違いなく、これまで釣りをしてきた中で一番強烈な引きだ。なんという怪力。
しかしこちらはカヤック。魚に引っ張ってもらえばいい。そして疲れてくれればいい。そうは思うのだが、やはり焦ってしまう。出来るだけ慎重に寄せてくる。すると、おぼろげながら魚影が見えてきた。ん? 鯛か? にしてはでかくないか? いや、鯛だ。巨大な鯛が徐々にゆらゆらと水の中から姿を現してきた。
左手で竿を支え、右手でタモを取る。慎重に、慎重に、もうちょっと。あと少し。目前に迫ってもまだ潜ろうとする真鯛。それを竿の力で持ち上げる。すかさずタモを投入し、ゆっくりゆっくり、魚の頭がこっちを向いたときを見計らって、よっしゃー!!
「やったじゃないですかー!」と沼野さんが歓喜をあげる。いやいや、ちょっと待って。釣ってしまったよ、真鯛を。それに、でかくないか、この鯛。スーパーで売ってる感じじゃない。なにこのサイズ。気がつけば指が震えている。今度は、真鯛を釣り上げたことに動揺しまくる私。
タモに入れたはいいが、どうしていいかわからない。どうしよう。とりあえず、持ち上げてみる。「やったー! 鯛を釣ったったー!」と叫んでみる。そして、落ち着いてちゃんと見てみるが、まぁでかいこと。それに、真鯛のなんと美しいことか。ピンクの中にちらほらと鮮やかなブルーが散りばめられた体が光輝いている。