BPAフリーやカーボンフリーなど、環境面で「脱●●」の動きが広がっている。それはアウトドア業界もしかり。では、2023年は環境分野でどんな動きがありそうか。筆者は「PFCフリー」が一つあると考える。PFCフリーとは何か、今後はこれをどう普及させていくのか、パタゴニアが提案するアクションを紹介しよう。
アウトドアウェアの撥水加工が変わる?
本題に入る前に、まずはアウトドアウェアの現在について話しておきたい。屋外で過ごす際、とりわけプロフェッショナルの方々が臨む悪環境下で、もっとも必要とされるウェアの機能が防水性(撥水性)と防油性(撥油性)だ。前者は、雨や雪など水による外的要因から体の冷えを防止。後者は、汚れや汗の皮脂が繊維に詰まらないよう防いでくれる機能。この2つのおかげで、屋外活動の多くの不快感を軽減して、フィールド活動をサポートしてくれる。
素材は各社で常に研究開発されており、そのほとんどの表面にはPFC(フッ素化合物)を含む撥水加工を施している。このコーティングは撥水性と撥油性を両立しながら、比較的安価で大量に施せるのが特長だが、その一方で環境面・人体面において悪影響があると問題視されている。
パタゴニアは、PFC加工によって水質汚染が起き始めていると指摘。化合物に含まれるある物質が海や川に流れ込み、魚介類や飲み水に含まれる。それを介して人の口に入って免疫力を低下させたり、発がん性を与えたりしているそうだ。
環境、人体への影響を最小限に抑えた「ePE」とは
そこで、同社では今後このPFCを使わない「PFCフリー DWR」加工へ商品開発を切り替える。その第一歩が、ゴア社と共同で開発した「ePE(延伸ポリエチレン)」を使ったメンブレンだ。
PE(多孔質ポリエチレン)を使った素材は以前から存在したが、悪環境に耐えられる防水・防風・透湿性はそこまで備えられない欠点があった。ePEメンブレンは、PFCに含まれる悪物質を使用せず、炭素の排出を極力抑えながら防水・防風性を持たせた新素材。しかもゴア社の厳しい基準に合格した優れた透湿性を備え、軽く薄い生地に仕上げた。
この新しい素材は、2023年初旬に発売するジャケットから採用する方向で、これを機に100%PFCフリーの素材を積極的に市場に投入。さらに、「2025年1月までに全商品においてPFCフリーに切り替えます」と、パタゴニアのマーチャイジング部・片桐星彦さんは語る。
片桐さん「ゴア社は、40年以上にわたって素材研究を重ね、ポリマーに関する専門技術は世界トップクラスです。同社と一緒に取り組んで生み出したePEメンブレンを使った3層構造のジャケットは、水質汚染を防ぎながら最大35%の二酸化炭素の排出削減を実現しています」
理想のアウトドアウェア機能を持続させるには
ところが、ePEメンブレンはPFC加工と比べると、防水性と透湿性はやや劣るとの指摘がある。持続性もまだ改善の余地があるそうだ。では、どうやって悪環境に耐えられる性能を持たせるのか。
片桐さん「防水性と透湿性の向上は今後行いますが、現時点で、定期的なメンテナンスで機能を復元させる方法が一番です。特に、汗に含まれる皮脂と大気中の汚れで繊維の目が詰まり、撥水性と透湿性が低下するのが多い事例です。屋外活動や雨天でウェアを使ったあとは、定期的に濯するのをおすすめします」
また、ePEメンブレンはゴア社とパタゴニアが共同開発した独自素材だが、今後PFCフリーの動きを世界的に広めるには、各社でPFCフリーの素材を積極的に開発してもらうことが大事だ。
片桐さん「アウトドア業界では、ザ・ノース・フェイスがPFCフリー採用のウェアを一部で進めていると聞きました。そのほかのブランドでも検討はしているそうです。しかし、厳しい環境下でPFCフリー素材のウェアは懸念されるところも多いでしょう。まだまだPFCフリーの実現は先が長いですが、環境面と人的面で安心な素材・生地開発は推進したいです」
2024年までにPFCフリーをどう普及させるかが課題
PFC加工は、長年アウトドア業界を支えてくれた技術ではある。その一方で、環境面・人的面で影響を与えてきたことも少なからずある。まだ課題が多いPFCフリーだが、今後の普及に期待したい。
なお、パタゴニアがPFCフリーに関する情報をまとめた記事は、すでに公開されている。知りたい人は、ぜひこちらを参照してもらいたい。
https://www.patagonia.jp/our-footprint/pfc-free.html
パタゴニア 公式ページ
https://www.patagonia.jp/home/