世界各国のメーカーがEV開発にしのぎを削る中、日本は取り残されてしまうのでは? 日本のEV市場を牽引してきた日産の担当者の話と、日本と世界各社のEV開発最前線を紹介する。
本当に実現可能?
クルマメーカー2035年「脱ガソリン」の本気度
2025年には、世界の新車販売でEVが占める割合は20%に達すると見込まれる昨今、懸念されるのは日本のEVシフトの遅れといわれている。それに対して日産でEVのマーケティングを担当する柳信秀氏は、忸怩たる思いだという。
「2010年、世界に先駆けてリチウムイオン電池搭載の量産型EV、リーフを発売した我々とすれば、現在の日本のEV普及率がいまだに1%程度というのは残念というか悔しいです。ただ、リーフとアリアに続き、軽自動車のサクラを投入したことで、これまで以上に普及率を上げられるだろうと期待しています」
日産自動車 柳 信秀さん
堅実に着実に脱酸素を進めるのが日本流
EVシフトがもっとも進んでいる欧州では、新車販売台数のEV比率は11%、中国ではNEVと呼ばれる新エネルギー車(EVをはじめ、プラグインハイブリッドや燃料電池車を含む)の比率が10%を超えている。そしてEV化が一部の州を除き、それほど進んではいないと思われていたアメリカでさえ、全米平均のEV普及率は3%を超えた。日本の普及率がいかに低いかが理解できるだろう。だが一方で、日産を始めとした日本メーカーも黙って手をこまねているわけではない。
「昨年末に『ニッサン アンビション2030』という長期ビジョンを発表しました。今後5年間で2兆円の投資を行ない、車両の電動化と技術革新をさらに進めます。2030年までにEV15車種を含む23車種の新型電動車を投入予定で、3台のコンセプトカーを提案しました。グローバルでの電動車の車種構成を50%以上に拡大し、さらに充電時間を3分の1に短縮できる全固体電池搭載車の2028年度までの市場投入を目指します。その結果、2030年にはエンジンだけで走る日産車の新規投入はなくなる予定です」
欧州を始め多くの国や地域では、2035年にエンジンを搭載している新車の販売を完全に禁止する目標を掲げている。こうしたEVシフトを少し性急ではないかという声もある。
「その目標値について我々が何かをいえる立場にはありません。ただ方針としては先にお話しした長期プランに従い、少しでも予定を前倒しにできる努力を重ねる。CO2削減は当然のことながらクルマ単体だけで行なうものではなく、発電から製造、開発時などすべての工程でも推進します。さらにEV用として使用後のリチウムイオンバッテリーをエネルギー貯蔵のソリューションとして二次利用することなど、新たな価値を生み出しながら、ゼロエミッションを達成すべきだと考えます」
EVの性能向上だけでなく、取り巻く環境が整えば、普及率も徐々に上がってくる。そこで次なる課題は、これまで普及の足かせのひとつと考えられていた充電インフラを充実させていくこと。
「まずは戸建て住まいのユーザーの家庭に普通充電施設を設置していただければ、充電に関する問題はかなり解消されます。通勤や通学で乗るのであれば、ほぼ急速充電には行かなくても大丈夫かと思います。今後は少しでも多くの人たちにこうしたEVライフの魅力を知っていただきたいと思います。実際にそうしたお客様への対応について、販売の現場への教育が始まっています。ただ、マンションのような集合住宅の場合は、住民の総意が必要など、色々な問題もあり、普通充電の施設を簡単に備え付けできない場合もあります。そうなると周辺の急速充電を利用することになります。休日のドライブでも急速充電施設が頼りの綱です」
そこで問題になるのが充電待ち渋滞が起きたり、充電施設で発生するトラブル。そうした懸念材料があるためにEVを敬遠するという声があるのも事実だ。
「とくに高速道路の急速充電施設の充実は急務でしょう。メーカーだけでなく、高速道路会社などとも協力して普及を急がなければいけません。そしてなにより充電施設を運営することが、ビジネスとして成立することも重要です。明確なインセンティブがなければインフラの充実は進みにくいと思います」
これまではEVを始めとした電動車の普及にばかり注目し、補助金などで手厚いサポートを与えてきた。しかし、普及と対になるはずの充電インフラに対する施策には一貫性がないように感じる。この点の改善は急がなければいけないことは明白だ。
「結局は卵が先か鶏が先かといった議論と同じです。普及させるために充電施設を作るか、普及したから充電施設を作るか。でも、すでにそんなことをいっている場合ではなく、クルマの普及も充電施設の設置も同時進行で進めなければ、さらに日本は遅れてしまうことになる可能性だってあります」
そんな警鐘をならした上で、EVライフを快適に送るためのヒントを提案して貰った。
「EVの大容量バッテリーに蓄えられた電気を、ただクルマを走らせるだけでなく、色々な暮らしの場面でも役立つことをもっと広めなければいけません。すでにニュースなどで災害時に給電していることが報道されていますが、その能力は車中泊でも十分に使えます。エアコンを使用し、車内を快適に保つときにもアイドリング不要。静かで排ガスのにおいもない快適な夜を過ごすことができます」
柳氏は以前、EVをベースに「究極のバーベキューカー」というキッチンカーを企画製作した経験もある。EVのバッテリーに蓄えた電気を家庭用の電力として使用できるシステムを使えば、キャンプシーンでも電化製品をEVに繋いで使うことができ、ソト遊びの可能性はさらに広がることになる。
「今後バッテリーの性能が向上すれば、より多くの用途に対応できるようになります。そのアイデアについては、我々が提案する以上のものを一般ユーザーさんの方が多く持っているはず。そこで提案です。『こんな扱い方をしたいのだが……』という要望を私たちメーカーにどんどん寄せてください。可能な限り対応できるように努力します」
ソト遊びに限らず、EVに乗ることが選択肢のひとつになっていくことは確実。2035年に向けて日本のEVシフトも目標達成へ進んでいくことになる。
※構成/佐藤篤司
(BE-PAL 2023年1月号より)