横浜市泉区・戸塚区を拠点に生態調査や里山保全活動を行なっている“ご近所生きもの観察案内人”の相川健志さん。今回は、野生動物の痕跡である「フィールドサイン」について案内します。
動物たちの「ここにいるよ!」というメッセージ
夜行性の哺乳類など、日常生活でお目にかかることはめったにないと思っている人も多いかもしれません。でも、野生の動物たちも、われわれのすぐ近くで暮らしています。
そうした「隣人」たちの存在を知る手がかりとなるのが、「フィールドサイン」です。フィールドサインとは、動物たちが食べものを食べた跡(食痕)や足跡、糞などのこと。いわば、動物たちが「ここにいるよ!」と教えてくれているのです。
どんな生きものたちが、どこにどのようなフィールドサインを残しているのか、見ていきましょう。
共同トイレやテリトリーの痕跡
タヌキは家族など仲間同士で、特定の場所で繰り返し排泄します。そうした場所を「ため糞」といいます。そこはタヌキたちの共同トイレであり、社交場となっています。
横浜市内の川原でため糞を発見。すぐ近くに3頭の子ダヌキがいました。こちらに気づくと2頭はすぐ隠れてしまいましたが、1頭はこちらをしばらく見つめてきます。その後、茂みに駆け込んでいきました。
上の写真は、田んぼで見つけた足跡。人間のてのひらのような形をしています。
これは、特定外来生物であるアライグマの足跡です。昼間の田んぼではなかなか出会えませんが、この場所が彼らのテリトリーであることを足跡が示しています。
続いての足跡は、ネコです。ネコというと住宅街で目にする機会が多いイメージですが、田んぼにも来ているようです。
この他、横浜市内の田んぼではネズミ類、サギ類、イタチ、タヌキなどの足跡を確認できました。
種によって、足跡の形や大きさ、歩幅などが異なります。その違いにより、その場所にどんな動物が来ているのかを伺い知ることができます。
遭遇したくないフィールドサイン
少しわかりづらいですが、この大きな足跡は何でしょうか。下の写真がヒントです。
第1ヒント、木の傷。
第2ヒント、木につるされた一斗缶と棒。
もうお気づきの方もいるかもしれません。この足跡は、ツキノワグマのものです。
フィールドで新しいクマの爪痕や糞を見つけると、恐怖を覚えます。このように、あまりフィールドで遭遇したくないフィールドサインもあります。
「隣人」たちの存在に気づくきっかけ
今回は足跡をメインに書きましたが、動物たちはいろいろな形で我々に「ここにいるよ!」というサインを送っています。意外と身近な場所でもフィールドサインを見つけることができるので、動物たちの足跡や食痕、糞を視覚で、鳴き声を聴覚で、臭いを嗅覚で探してみてください。普段なかなか会えない「隣人」たちの存在に気づくことができるかもしれません。
出会いやすい「隣人」とフィールドサイン
- モグラ類・・・モグラ塚 公園や耕作地など
- ネズミ類・・・クルミなど食痕 河川敷や渓畔林など
- タヌキ・・・足跡、ため糞 河川敷、耕作地、寺社林など
- アライグマ、ハクビシン・・・足跡、糞 耕作地、民家など
[参考図書]熊谷さとし 著・安田守 写真「哺乳類のフィールドサイン 観察ガイド」(文一総合出版)