海に潜って初めてわかる、生き物たちの美しい姿と生態。それを写真で誰にでも知らしめてくれるのが、水中カメラマンです。堀口和重さんは2022年12月、オランダのネイチャーフォトコンテスト「Nature Photographer Of The Year 2022」で水中部門グランプリを受賞した、その道のトップランナー。今回も水中写真の魅力についてお届けします。
日本中の海がスタジオだ! 水中カメラマン堀口和重の「美しき海の世界」
髭の生えたさかなの撮影
前回の撮影地、沖縄県・石垣島から拠点にしている静岡県・伊豆市へ戻りました。それから数日後に次の撮影地の静岡県の東伊豆・赤沢へと向かいました。赤沢で今ある生き物が見られると、情報が入ったからです。
狙いはサビハゼ
今回の撮影で狙う魚は、サビハゼという魚です。見た目は地味な魚で、今まで伊豆半島の海中では普通に見られた魚です。あまりにも地味すぎて、ダイバーからはあまり注目されることはありませんでした。特徴は、顎にある皮膚の一部が伸びていて、髭が生えているように見えるところです。
そのサビハゼですが、数年前から個体数が減少しているのです。私がよく撮影を行なっている、西伊豆の大瀬崎ではパッタリと姿が見れなくなってしまったのです。
原因の1つとして考えられるのが、冬場の最低水温の上昇です。大瀬崎は10年ほど前まで、最低水温が12℃の時もありましたが、この数年は水温は下がらず15℃前後の期間が長口なっています。魚にとっては、たった2〜3℃の水温差でも魚へは大きな影響がでてきています。
伊豆半島でほとんど見られなくなったサビハゼですが、なぜか赤沢では多くの個体を見ることができています。また冬に生態行動をする魚であるので、その瞬間を狙えないかと撮影に向かいました。
トウゴロウイワシの群れ
サビハゼを狙いに赤沢に到着後、海に入ると小さな魚の群れに遭遇しました。その魚の群れはキラキラと輝き、ダイバーが寄って行っても逃げません。近くで見ると正体がわかりました。トウゴロウイワシです。
カタクチイワシに似ていることからイワシという名前がつきますが、分類ではボラの方が近い仲間とされています。食卓によく並ぶ、カタクチイワシやマイワシは回遊魚ですが、このトウゴロウイワシは生活場所は全く異なり、沿岸付近の汽水域を好みます。
サビハゼを探しに
トウゴロウイワシの撮影が終わり、いよいよサビハゼの撮影へと向かいました。赤沢ダイビングセンターのガイド仲榮眞さんにサビハゼが多く見られるという場所まで案内してもらいました。到着すると、水底にはポツリポツリとサビハゼの姿がありました。
1匹のオスを注目して観察していると、他のオスが近寄ってきました。すると最初に観察していたオスが、近寄ってきたオスを追い払い始めたのです。
サビハゼのオスは岩の下に巣穴を掘ります。そこへメスが卵を産むのです。岩の形や大きさによって巣穴の作りやすさが決まります。サビハゼのオスは良い岩がある縄ばりをどうしても取られたくないようです。
近くを見渡したら、お腹が大きくなって卵を抱えているメスの姿もありました。
さらにメスのお腹が大きくなり産卵直前になると、オス同士の縄張り争いがより激しくなります。
戦いが落ち着けば、巣穴を作り、オス・メスがペアとなるのです。
今回は生態行動は見られなかったですが、次の生態行動が始まったら、また赤沢に向かい撮影する予定です。卵を守る親のサビハゼの姿が見られることを期待しています。
次回の撮影地は山口県の青海島。この数年、ずっと狙っていた魚が産卵をしたようなので撮影に向かいました。
日本全国・水中撮影をしながら日産セレナや船・飛行機で移動中!
今回の撮影径路
START→伊豆(大瀬崎)→沖縄(石垣島・黒島・竹富島)→伊豆(赤沢)
撮影協力:赤沢ダイビングセンター
私が書きました!