「ナラ枯れ」問題は全国に広がっている。
に続き、里山再生に取り組む現場の人たちがナラ枯れ問題とどう向きあっているのかを、本誌連載『四国の右下にぎやかそ革命』でおなじみの吉田基晴さんに尋ねた。
教えてくれた人
四国の右下木の会社代表 吉田基晴さん
「伐採を止めるな!地域の未来の景色を想像しよう」
ここ徳島県美波町を含む四国南東部一帯でかつて行なわれていた、薪炭生産を支えた林業技法は「樵木林業」と呼ばれていました。主な対象木はウバメガシやカシ、ツバキ。「常緑広葉樹の里山」といえばイメージしてもらいやすいかもしれません。
樵木林業は歴史ある林業技法で、このあたりから伐り出されたウバメガシやカシを用いた薪や炭は、古く室町時代から今の神戸方面に船で送り出されていました。石油やガスの登場によるエネルギー革命が起きる昭和30年代まで、樵木の薪や炭は京阪神地域の暮らしを支えてきたそうです。
しかし、樵木林業はその後消滅してしまいます。本州のコナラやクヌギの里山がたどった道と同じです。そして今、ナラ枯れが急激な勢いで広がっているという事情もまったく同じ。
僕は、生まれ故郷の照葉樹の森は未来への可能性を秘めた宝の山だという思いから、2021年に四国の右下木の会社という林業会社を創業しました。
どこに宝物といえる可能性があるのか。ひとつは択伐矮林更新法という伝統的な管理技術です。直径1寸、つまり3㎝以上の木は伐り、それより細いものを残します。つまり細いうちに利用を始めます。ウバメガシは非常に重い木なので、運搬などを考えるとこの伐り方が合理的だったのです。比較的若いうちに木が更新され続けたため背丈が低い矮林になり、結果として風害にも強い森になりました。
一昨年、僕の町にある八幡神社のシイの巨木が風で倒れ、社殿の一部が壊れました。木は大きくなるほど桁違いの重さになっていくので、倒れたときに思わぬ影響があります。若いうちは斜面崩落を防ぐ役割もある樹木ですが、巨大化すると逆に崩落を引き起こす原因になります。実際、近年は台風のたびに山では斜面や道路が崩れています。
択伐矮林更新法は、経済効率を最大化するだけでなく、台風常襲地帯のこのあたりの森を、崩落による裸地化から防ぐ役割も果たしてくれていたのです。
このサイクルを復活させ、エシカル消費に象徴される今日的価値観と融合させれば、薪炭というエネルギーの価値に再び火を付けることができると考えています。今進行中のプロジェクトは、木質エネルギーによる暮らしを追体験する施設と、地元食材と樵木の薪炭を組み合わせた料理店のオープンです。取り組みは環境教育や郷土学習などのアクティブラーニングに展開することもできるはずです。この可能性は過疎地に若い人材を呼び込む原動力にもなります。
しかし、いざ自分がチェーンソーを持って森の中に入ってみると、見えていなかったリアルな課題も目に飛び込んできました。ひとつは想像以上にウバメガシが老化し、シイの侵入も進み非常に暗いこと。林床には若木がまったく生えていません。生物多様性が非常に低い状態です。
加えてカシナガ問題です。枯れてこそいないものの、弱っている木が予想以上に多かった。カシナガの被害を受けた木で焼いた備長炭は、すかすかして備長炭の基準を満たさないのが一番のショックでした。
とにかく今は大径木のウバメガシやシイをどんどん伐り、若木更新の周期に戻す必要がある。ウバメガシの価値を最も引き出せる備長炭の生産計画に変更が生じましたが、この取り組みをやめるわけにはいきません。当面はポテンシャルにさほど差が出ない薪とスウェーデントーチに力を入れることにしました。
こういう現状であればこそ、僕たちの理念を丁寧にお伝えしないといけないなと思っています。買って燃やしてもらうことが森の再生を加速させるという理解。ここがポイントですが、そう難しいことではないと考えています。木や森に関心のある人がいる限り、森は若返らせることができます。ぜひ多くの人たちに里山再生のサポーターになってほしいと思います。
※構成/鹿熊 勤 撮影/矢島慎一 協力/四国の右下木の会社
(BE-PAL 2023年2月号より)