画家・写真家・ナチュラリストのおくやまひさしさんによる、美しいイラストと写真付きの自然エッセイです。
地中ではダリアのような塊根が
カラスが好んで食べるから
この名がある…と、江戸時代中期の朱子学者、
新井白石が「東雅」に書いているが、
残念ながらカラスが食べているのを私は
まだ見たことがない。
カラスウリはウリ科の蔓性多年草で、本州から九州まで広く分布する。別名をタマズサなどともいうが、それは種の形が結び文に似ているからだというのだが、私にはどうしてもカマキリの頭に見えてしまう。
生け垣や、やぶなどに絡みついて伸びるカラスウリは、夏の夕にはまるでレース飾りの付いたような白く美しい花を咲かせる。だが、この花は一日花で、朝方にはしぼんでしまう。
カラスウリは雌雄異株の野草で、雌花にははじめから小さな幼果が付いている。
秋になる朱色の実は、多くの人が見たことがあると思うが、地中に育つダリアのような塊根は、意外に知らない人が多い。赤い実の中には黄色の果肉に包まれたたくさんの種があるが、なんだか麦チョコに似ていて子供と大笑いした。
カラスウリの果肉は、肌荒れやしもやけの薬にされるが、地中の塊根を干したものを漢方では「王瓜根」(オウカコン)、種を「王瓜仁」(オウカニン)と呼び、利尿、浄血、咳止め、ぜん息、解熱、あかぎれなどの薬にされる。
生け垣や庭木のまわりに塊根を埋めておけば、来年の夏にはきっと花を付けてくれる。ただし、秋の朱色の実もほしいというのなら、当然、雌の株を育てないといけない。塊根は雄雌どちらの株にも育つので、開花時に雄か雌かを確認しておこう。
ぜひ、雌の株を育てて、赤く色づいた実にカラスがやってくるのかを、確かめてみてください。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
(BE-PAL 2023年2月号より)