新彗星ZTFは北極星の近くから
2023年の天文界大きなトピックのひとつがZTF(ズィーティーエフ)彗星です。2022年3月に発見された新しい彗星です。1月13日に太陽にもっとも近づき、現在、地球に接近中。2月2日に地球に最接近します。北極星より少し北の空に現れます。
ZTF彗星は天文学界では「C/2022 E3」と表されます。CとはComet(彗星)のことです。2022が発見された年、Eは発見された時期の区分を表します。
軌道を計算したハレーにちなむ「ハレー彗星」のような例外を除けば、彗星には発見者の名前が付くことになっています。(ハレーは発見者ではありません)。以前は「彗星ハンター」と呼ばれるような凄腕の観測者の名前が多くの彗星に付いていたものでした。しかし現代では、人工衛星や超高性能の望遠鏡による自動化された調査、いわゆる「サーベイ」が主流になっています。そのため、発見される彗星の数は、毎年、膨大な数に上り、その大半がサーベイのプロジェクト名を冠されているのです。
たとえば、今では「PANSTARRS(パンスターズ)」の名のついた彗星が多数あります。これらは「パンスターズ」というサーベイによって発見された彗星なのです。
ZTFとはZwicky Transient Facilityの略で、アメリカのパロマー天文台を拠点に行われているサーベイの名称です。ちなみに、Zwickyは超新星の研究で知られる天文学者フリッツ・ツヴィッキーにちなみます。
2月上旬は見ごろ。6日はカペラ、12日は火星に近い
ZTF彗星はどこまで明るくなるのか。5等級くらいまで明るくなるのではないかと予想されています。5等星の星を町中で見ることはできません。よほど暗い場所、コンディションのよい場所で見えるかどうか、でしょう。
なので、双眼鏡を用意しましょう。発見される彗星の数はどんどん増えているとはいえ、肉眼で見える彗星はまれで、双眼鏡を使って見える彗星の数でさえ、年に数個です。新しく発見された彗星を目にすることができる機会は貴重です。
地球最接近は2月2日です。北の空で北極星の少し上で、見やすい位置にあります。
2日は月が月齢11とかなり明るくなっていますが、北極星の近くで、ひと晩中見られる位置にあります。防寒対策をしっかり行った上、あせらず探しましょう。
見つけ方ですが、星図で位置を確認しながら双眼鏡で探してください。5等級の彗星は、5等星を探すよりも難しいです。なぜなら、5等星は、星1点の明るさが5等級の明るさを持ちますが、彗星の場合は、ボーッと広がっている全体の明るさを集めて5等級だからです。
狙い目は、目印になる星との接近です。
2月6日になるとZTF彗星はカペラに近づいてきます。満月なので条件はよくありませんが、カペラを目印にすると探しやすくなるかもしれません。
2月12日には火星に近づきます。15日ごろはおうし座のヒヤデス星団のすぐ近くです。ヒヤデス星団よりも暗いと思いますが、これを目印にしながら双眼鏡でサーベイしてみましょう。
ZTF彗星はどこから来て、どこへ帰るのか
近年では、2020年3月に発見された「ネオワイズ彗星」が予想をはるかに上回る増光ぶりで、暗い場所なら肉眼で見えるほど明るくなりました。2007年まで遡りますと、ホームズ彗星という彗星が突発的に40万倍に大増光したことがありました。
このように、彗星の明るさは現代の知識を持っても予想できないところがあります。大増光することもあれば、大減光してしまうこともあるのです。
彗星とはチリをまき散らしながら運行する“凍った泥団子”のような天体です。2013年、肉眼でも見える増光が期待された「アイソン彗星」は、太陽にもっとも近づく近日点を過ぎると、一気に暗くなってしまいました。太陽の熱で彗星の、凍った泥団子の核が溶けてしまったのです。核が溶けてしまえば、彗星は消滅します。
ZTF彗星は発見されたばかりなので、周期がまだわかりません。これまでの観測データから割り出された軌道を見るかぎり、太陽系のかなり遠いところから飛んできているようです。
ハレー彗星のように周回するためには、軌道が楕円形を描いていなければなりませんが、ZTF彗星の軌道は「双曲線」と呼ばれる、閉じることのないカーブを描いていると考えられます。楕円形でなければ、今回、太陽を回ったあとは、もう二度と地球の方へ帰ってきません。
もし帰ってきたとしても、それは何千年も先のことになるでしょう。どこからやって来て、どこへ行くのか。新彗星ZTFはそんな宇宙のロマンを乗せてやって来ます。ぜひ探してください。
構成/佐藤恵菜